ピッチは戦う場所だが、プレイは熱く、頭は冷静に
名良橋氏は「現役のときは“プレイは激しく、頭は冷静に”を心がけていた」と語る。Photo/Getty Images
近頃、Jリーグでいろいろな問題が発生しています。J2では徳島ヴォルティスの馬渡和彰がボールパーソンを小突いて退場になり、同じ試合では徳島サポーターがボールパーソンにアルコールと思われる液体をかける行為がありました。J1でもセレッソ大阪×ガンバ大阪の大阪ダービーでG大阪のサポーターが以前クラブから使用自粛を求められていたフラッグを再度掲示し、けん責と制裁金の処分が下されました。大宮アルディージャ×浦和レッズのさいたまダービーでは浦和のサポーターが緩衝帯フェンスを蹴るなどの違反行為を犯し、さらに浦和レッズ×鹿島アントラーズでは森脇良太の暴言騒動がありました。
元選手の立場から考えると、馬渡のケースは直前のプレイでGKと競り合っており、早くボールがほしい、早くプレイを再開したいという気持ちがあったのは理解できます。選手にとってピッチは人生をかけた戦いの場で、すべての選手が勝利を目指して熱くなっています。みんなが「勝ちたい」と思っていて、ゴールが頭に浮かんだ瞬間にボールを受け取れなかった……。そのため、勝利を目指す気持ちが違ったカタチで出たもので、あのときの馬渡の心理状態を私は理解できます。
しかし、だからといってボールパーソンを小突いたのは絶対にやってはいけない行為です。すでに2試合の出場停止から復帰している馬渡には、今後のプレイや行動で今回の一件からなにを学んだのかしっかりと示してほしいです。
私の現役時代を振り返ると、試合中のピッチは殺伐としていて、多くの選手が興奮状態になっていました。私も熱く激しいプレイを心がけていましたが、同時に頭はクリアにしておくことをいつも考えていました。プレイでイエローカードをもらったことはありますが、レフェリーや相手選手、または第三者になにかを言ったり、なんらかの行為を働いたりしてカードをもらうことは無いよう努めていました。
一方で、熱くなると感情を抑えられない選手もいます。暴言により2試合の出場停止になった森脇に関しては、過去にも相手選手と口論を交わす場面があったと認識しています。私はとても素晴らしい選手だと評価しているのですが、今回の一件でまわりから「そういう選手」という目で見られることになってしまうのではないかと危惧しています。
チームメイトやクラブの方々は彼の性格を理解していると思うので、今後はピッチでなにか起きたときは遠ざける、声をかけるなどして問題が起きることを未然に防いでほしいです。ひとりひとりが再発防止に努めることができれば違ってくると思います。
Jリーグの対応も今回は曖昧で、ピッチで起きた出来事を真相がわかるまでしっかりと調査できたのでしょうか。すべてをクラブに任せるのではなく、Jリーグにも問題を未然に防ぐ対策がなにかできるはずです。才能ある選手を潰さないためにも、こうした問題はひとつひとつしっかりと対処をしていくべきだと感じています。
ゴール裏は怖い場所なのか? 海外をマネしなくてもいい
大宮×浦和で問題が発生。浦和のサポーターが緩衝帯フェンスを蹴るなどした。Photo/Getty Images
元選手の立場でサポーターについて語るのは非常に難しいのですが、私はシンプルにサッカー界全体で考えないといけない問題だと思っています。いろいろな性格の選手がいるように、いろいろな性格を持ったサポーターがいます。そして、選手と同じように勝利を目指して熱くなり、全身全霊をかけて応援してくれています。そこにはチームへの愛情が存在しているので、興奮するサポーターの気持ちもわかります。
わかりますが、ボールパーソンに液体をかけた徳島サポーターの行為は、敗戦を受け入れられないからといって人としてやってはいけないことです。緩衝帯フェンスを蹴ったことも同じです。興奮している人に声をかける、なだめるというのは勇気がいることですが、ほんの少しの声かけで変わってくると思います。問題を未然に防ぐために、同じことが繰り返されないために、各クラブはもちろん、Jリーグがしっかりと対策を練って安心安全なスタジアム作りに努めてほしいです。
サッカーのゴール裏スタンドは危ない。盛り上がっていて楽しそうだけど、恐くて行けない。そう思っている人もいるのではないでしょうか。たしかに、海外ではゴール裏スタンドが異様に盛り上がっているケースがあります。しかし、なんでもマネするのではなく、応援の方法は自由で、私は家族で楽しめるゴール裏があっても良いと思います。子どもにとって、みんなが楽しそうに一体となって応援しているゴール裏は魅力的で「行きたい」という気持ちになる場所であってほしいです。
大人が未成年に液体をかけたり、フェンスを蹴ったりするのは子どもに見せられる行為ではありません。もしかしたら、子どもが学校へ行ってマネをするかもしれません。そう考えると、チームへの愛情が高じてやってしまったことだとしても、決して許されることではありません。やってもいいこと、いけないことの区別をしなければならないのが大人です。
選手やサポーターの問題行動は繰り返されています。一朝一夕に解決するものではないと思いますが、「なくす」という強い決意で取り組まないと改善されないでしょう。すべてにおい言えることですが、曖昧な対応は問題の解決を先延ばしにするだけです。Jリーグはもちろん、サッカー界全体で抜本的な解決策を探る必要があると感じています。
構成/飯塚健司
theWORLD186号 2017年5月23日配信の記事より転載