【UCL決勝直前#1】決勝戦は一瞬のスキが命取り 欧州最強の“盾”VSふたりの“天才司令塔”

弱点はDFのスピード 引いて構えるユーヴェの狙いとは

ユーヴェの堅牢な守備を崩すことができるのか? photo/Getty Images

今季のUCLで最も完成度の高いチーム同士のファイナルになった。どちらも総合的に優れたチームだが、ユヴェントスの方がやや上だと思う。ただ、この組み合わせでは意外とユヴェントスの打つ手が限られている。

おそらくユヴェントスは引く。前がかりでも後ろでもプレイできるチームで、起用する選手によって変化をつけることもできる。戦術バリエーションの広さがユヴェントスの強みなのだが、対レアルでは基本的に引いてカウンターを狙う戦い方になるだろう。

トータルで穴のないユーヴェにとって唯一の弱点がDFのスピード不足だからだ。レアル・マドリードの高速カウンターは最大の脅威になる。レオナルド・ボヌッチとジョルジュ・キエッリーニの背後さえとられなければ、強力なレアルの攻撃でも抑えきる自信はあるに違いない。イタリアのチームが一発勝負でギャンブルに出るとは考えにくく、ユーヴェにはリスクを負わなければならない理由もない。まずは脅威であるカウンターのリスクを取り除く。そこから試合を考えるのではないか。

試合の様相はジダンしだい? レアルの武器はパスワーク

ロナウドとのホットラインは健在のイスコ photo/Getty Images

そうなると試合の形をどうするかは、ジネディーヌ・ジダン監督に委ねられる。ユーヴェが引いて構えるならレアルはスピードを使えない。使える武器はパスワークだ。つまり、イスコをトップ下に起用する[4-4-2]が答えになる。ルーカス・バスケスとマルコ・アセンシオを両サイドに配置した[4-4-2]という選択もあるが、ジダンが最初からこれを使う可能性は低い。フラットな[4-4-2]はトニ・クロース、ルカ・モドリッチ、カゼミロのトリオを崩してしまうことになり、この3人こそ今季の牽引車なので必ず先発で使うはずだからだ。となると、あとはイスコ+2トップか、3トップしかない。そして3トップならクリスティアーノ・ロナウドが左サイドの守備を担当しなければならず、それはレアルの守備に穴があくことを意味する。ルーカス・バスケスとマルコ・アセンシオは切り札としてベンチに置くだろう。

準決勝のモナコ戦(第1戦)でのユーヴェは、2トップ+トップ下のモナコに対して4バックだった。しかし、レアルに対しては3バックを選択すると予想する。モナコはサイドアタックがメインだったので、サイドバックを余らせる形をとった。一方、レアルの攻撃はサイドも中央もある。[4-2-3-1]や[4-4-2]ではイスコを捕まえにくくなるので、マッチアップをはっきりさせるために[3-5-2]をとるのではないか。

レアルのビルドアップ対策 ユーヴェが密かに狙う撤退戦

レアルのビルドアップをどう封じるのか? (図解)

ユーヴェが[3-5-2]、レアルが[4-4-2]。このマッチアップでポイントとなるのは、レアルのビルドアップの軸となるクロースとモドリッチをどうするか。

レアルはビルドアップ時にクロース、モドリッチがディフェンスライン近くまで下りてボールを預かり、そこから攻撃を仕掛けていく。とくに左のクロースが起点となり、マルセロを前線へ送り出すパターンが多い。これに対して、ユーヴェの対面のMFが食いついてしまうとイスコにパスを受けるためのスペースを与えてしまう。プレスしたところでクロースからボールを奪うのは難しい。ユーヴェは遅かれ早かれ撤退戦になる。

流れとしては、レアルがユーヴェの密封された守備の砦をいかにこじ開けるか。ユーヴェはいかに有効なカウンターアタックを仕掛けるか。ユーヴェにとって最大の脅威であるレアルのカウンターを取り除き、前がかりになったところをパウロ・ディバラ、ゴンサロ・イグアインらの逆襲で仕留めるというシナリオは成功の可能性が高そうに思える。だが、自陣に引いてレアルの攻撃に耐えるのはユーヴェといえども簡単ではない。ほんの少しのミス、FKやCKから失点する危険は十分にある。

カウンター以外のユーヴェの攻撃オプションはファン・ギジェルモ・クアドラード、マリオ・マンジュキッチの投入による[4-2-3-1]へのシフト。レアルの守備強化策はルーカス・バスケスとアセンシオで両サイドを固めて1トップにロナウドを残す[4-5-1]である。もしレアルが先制した場合、攻守は逆転して攻めるユーヴェ、守るレアルという図式に変化する。ユーヴェは被カウンターのリスクを負うが、リードされれば迷わず戦い方を変えるだろう。交代オプションも含め、戦い方に幅があるのは両チームの強みであり、ゲームの見どころになりそうだ。

セットプレイも要注意 まさに“神っている”S・ラモス

高い決定力を誇示するS・ラモス photo/Getty Images

均衡した場合はセットプレイがカギになるかもしれない。レアルには高精度のボールを蹴るクロースがいて、勝負どころで異常なぐらいの決定力を示すセルヒオ・ラモスがいる。直接FKならロナウドがいる。ユーヴェも落差の大きい癖の強いボールを蹴るミラレム・ピャニッチがいる。

全体のキーマンはユーヴェならディバラ。レアルはクロースだ。ディバラは若いけれども試合の流れを読む力があり、そのキープ力と展開力で流れを一変させられる。カゼミロに厳しくマークされるだろうが、そこをくぐり抜けられる能力も持っている。クロースは100%近いパスの成功率のプレイメイカーで、好不調の波もほとんどない。レアルの攻撃をコントロールするメトロノームだ。ただ、ふたりの他にもビッグプレイで勝利を呼び込めるプレイヤーが両チームには複数いる。力も拮抗していて、緊張感のある白熱した決勝が期待できそうだ。

文/西部 謙司

1995年から98年までパリに在住し、サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスとして活動。主にヨーロッパサッカーを中心に取材する。「フットボリスタ」などにコラムを寄稿し、「ゴールへのルート」(Gakken)、「戦術リストランテⅣ」(ソル・メディア)など著書多数。Twitterアカウント:@kenji_nishibe

theWORLD186号 2017年5月23日配信の記事より転載

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