名良橋晃の定点観測♯34「日本代表強化に一石。イラク戦のドローは誰が招いたのか?」

ピッチ外の判断ミスがイラク戦の結果を生んだ

ピッチ外の判断ミスがイラク戦の結果を生んだ

高地高温での戦いなのだから、もっとしっかりと準備をして臨むべきだった。Photo/Getty Images

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6月13日にロシアW杯アジア最終予選が行なわれ、日本代表は中立地テヘラン(イラン)でイラクと戦って1-1で引き分けました。立ち上がり8分に大迫勇也のゴールで先制する幸先の良いスタートを切りましたが、高地で30度を超える高温のなかでの戦いであり、体力の消耗が激しく、試合中に想定外のケガ人も出ました。日本代表の現状を考えて一言で総括すると、私は「致し方なかった」ドローだったと思います。

そもそも、ここ数年を直視すると、日本代表のアジアでの立ち位置が「絶対」ではなく、日本に限らず、W杯に8大会連続出場している韓国もアジアでの優位性がなくなっています。こうした要素を踏まえると、厳しい環境下でいろいろな問題が発生したなか勝点1を取れたのは、最悪の結果ではないと思います。

ただ、イラク戦が難しい試合になるのはわかっていました。だとしたら、選手たちがベストの力を発揮できるもっと良い準備の方法はなかったのか? もっと良いチーム編成はなかったのか? という疑問が浮かんでくるのも事実です。結論として、私は試合中の対応も含めて、イラク戦の引き分けはピッチ外の判断ミスが生んだものだと考えています。
具体的にはシリアとの強化試合(7日)を国内で開催しましたが、高地高温のなかでのイラク戦を想定すれば、身体を慣らすためにはもっと適した開催地があったはずです。ちなみに、13日にカタールとのアウェイゲームを戦った韓国は、7日にUAEでイラクと強化試合を行なっています。また、国内でプレイする選手たちは4日にJリーグを戦っており、シリア戦の2日前に合流するというハードスケジュールだったのもコンディションに影響を与えているのは間違いありません。

W杯最終予選が佳境を迎えているこのタイミングでこれまで重用していた森重真人を招集せず、三浦弦太、加藤恒平といった新たな選手を呼んだのも疑問が残るところです。実際に起用できるタイミングで招集するべきで、終わってみれば両名にはシリア戦、イラク戦で出番はありませんでした。シリア戦は代表経験の浅い選手にも出場機会があるかと思いましたが、[4-3-3]のフォーメーションでほぼベストと言える布陣でした。GK中村航輔はJリーグで良いパフォーマンスをしていたので、代表でも見てみたかったのですが……。

私個人の印象としては、今回の選手編成はヴァイッド・ハリルホジッチ監督による「いろいろな選手を見ているぞ」というアピールだったのではないかと感じています。とくに加藤恒平に関しては、同じポジションで井手口陽介が招集されていたので出場はないだろうと予想していましたが、案の定ピッチに立つことはありませんでした。

戦術にとらわれずに、選手は柔軟な判断を!

戦術にとらわれずに、選手は柔軟な判断を!

展開を考えると、失点につながった吉田の判断は理解できる。間違っていなかった。Photo/Getty Images

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イラク戦の布陣を振り返ると、準備段階で香川真司、山口蛍などケガ人が出たことで[4-2-3-1]となり、井手口陽介、遠藤航という若い2人のボランチ。トップ下に原口元気、右サイドに本田圭佑、左サイドに久保裕也という布陣でした。イラクの左サイドにはアリ・アドナンという攻撃的な選手がいたので、そこに本田圭佑をぶつけて主導権を取る狙いがあったのかもしれませんが、各選手のポジションを動かしたことでここ数試合の攻撃面での良さが消されてしまった印象があります。結果論ですが、本田圭佑がトップ下、久保裕也が右サイド、原口元気が左サイドのほうがスムーズに戦えたのではないかと考えます。

それでも、前半は連動した守備ができていて悪くありませんでした。ボランチの2人や両SBが前に顔を出すことで少なからずボールを持つことができ、押し上げることができていました。ところが、後半は想定外のことがいろいろと起こり、ベンチを含めてチーム全体に余裕がなくなり、柔軟に対応することができませんでした。明らかに足が止まり、ボランチやSBの押し上げなくなったなか、それでもタテに急いでしまっていました。

以前から感じているのですが、いまの日本代表には柔軟性がなく、指揮官の教えであるタテに早く攻めることばかりを考えてしまっています。状況によってはゆっくりボールをつなぐ選択をすることや、相手や戦況によって柔軟に対応することが必要です。ボールポゼッションを高めることは決して悪いことではなく、とくにイラク戦のように勝っている状況ではパスをつないで相手をかわし、うまく体力の消耗を抑えながらプレイすることが求められました。ところが、プレイに余裕が感じられませんでした。

余裕のなさはベンチからも感じました。70分に原口元気→倉田秋という交代を行ないましたが、原口元気はあの時間帯からもう一段階ギアを上げることができる選手です。これも結果論ですが、シリア戦から動きがあまり良くなかった久保裕也を交代したほうが効果的だったかもしれません。

酒井宏樹の動きが止まったときも、ベンチを含めてバタバタしていました。私は事前に「酒井宏樹はヒザがあまり良くない」と聞いていたので、やっぱりと思いました。そして、そうなったときの対応策を準備してあるのだと理解していましたが、実際には対応に戸惑い、同点に追いつかれたあとに交代するという後手を踏んでいます。

失点シーンについては、吉田麻也の判断についていろいろと指摘されていますが、私はあのプレイは間違いではなかったと思います。あの時間帯はイラクにパスをつながれ、押し込まれていました。日本代表はラインが下がってしまい、クリアしてもすぐにイラクに拾われて連続攻撃を受けていました。なんとかマイボールにして一度試合を落ち着かせたい状況で、そのチャンスが訪れた瞬間であり、吉田麻也の気持ちは痛いほどわかります。結果的に失点につながりましたが、戦況を考えるとマイボールにしたかったという気持ちは理解できます。問題があったとすれば、あの展開を招いてしまった余裕のなさです。

イラク戦に限らずいまの日本代表は、戦術にとらわれ過ぎて柔軟性を失っているように思いますし、対戦相手、試合状況によって、もっと自分たちでピッチのなかで柔軟に対応して良いと思います。残りは2試合ですが、まずはすべての力をオーストラリア戦にぶつけてほしいです。内容うんぬんではなく、なにがなんでも勝ちにいってとにかく勝利をつかみ取る。私個人の考えとしては、負けたけど内容は良かったではなく、勝ったうえで、浮かび上がった課題の修正や改善に取り組むべきだと考えています。

構成/飯塚健司

theWORLD187号 2017年6月23日配信の記事より転載

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