現在マンチェスター・ユナイテッドを指揮しているジョゼ・モウリーニョはチェルシーやインテル、レアル・マドリードで成功を収めてきた名将だ。しかし、マンU1年目となった2016-17シーズンの戦いには悪い部分もあった。タイトルを見るとコミュニティ・シールド、リーグカップ、ヨーロッパリーグと3冠を達成して成功を収めているが、まだまだ課題は残っている。
何より気になるのは、シーズンを通して攻撃の形作りに苦戦したことだ。昨夏にはズラタン・イブラヒモビッチ、ポール・ポグバ、ヘンリク ・ムヒタリアンと攻撃面で違いを作れる即戦力を3選手獲得したが、国内リーグでは得点力不足に陥った。得点数で見ると優勝したチェルシーはシーズンで85得点、2位のトッテナムは86得点を挙げているが、モウリーニョ体制1年目のマンUはわずか54得点だ。これでは優勝争いに絡むことは難しい。順位もトップ4から漏れた6位に終わっているが、この得点数ならば妥当な結果と言える。
ベテランのイブラヒモビッチを最前線に置いたことも原因の1つだが、マンUの攻撃は他の上位クラブに比べて流動性に乏しかった。選手がポジションチェンジをするわけでもなく、どうやって相手守備陣を崩すのか形が見えないまま戦っている時もあった。格下のクラブと対戦した際にはポグバやイブラヒモビッチを中心に毎試合20本近くシュ ートを放つのだが、それがなかなか得点に繋がらない。モウリーニョは何度か選手たちの決定力不足に怒りを示していたが、選手個人というよりはチーム全体に問題があると考えた方がいいだろう。マンUは上位陣のクラブに比べてチャンスの質が悪いのだ。そのため守りを固めた格下からゴールを奪うにはとてつもない数のシュートを打つ必要がある。
今夏にマンUは攻撃力アップを目指してワールドクラスのアタッカーを数枚揃えようと動いている。これまでにもレアル・マドリードFWアルバロ・モラタやインテルMFイヴァン・ペリシッチ、レアル・マドリードMFハメス・ロドリゲスなど高額な移籍金が必要な実力者獲得の噂が出ている。すでにエヴァートンのロメル・ルカクとは合意に至ったとされており、来季はより豪華な顔ぶれとなるだろう。しかしモウリーニョが組織的な攻撃の形を作れないのであれば、誰をチームに加えても攻撃が大幅に改善されることはないだろう。チーム得点王のイブラヒモビッチが離脱したことを考えても、チェルシーやトッテナムとの30点もの得点差を埋めるのは簡単ではない。今のやり方で相手を崩すなら、それこそチェルシー時代にモウリーニョが指導したディディエ・ドログバ、エデン・アザール、レアル・マドリードのクリスティアーノ・ロナウドなど強烈な個の能力を持ったスーパースターが必要だ。ルカクがそこまでスーパーな存在になれるかはまだ不透明だ。
現在のプレミアリーグは攻撃的なスタイルを好む指揮官が多く揃っており、2016-17シーズンはその傾向がよく表れていた。モウリーニョがチェルシーを率いてリーグ制覇を達成した2014-15シーズンは73得点奪っているが、2016-17シーズンは前述したチェルシーが85得点、トッテナムが86得点、マンチェスター・シティが80得点、リヴァプールが78得点、アーセナルが77得点といずれも当時のチェルシーを上回る数字を残している。守り勝つだけでは今のプレミアリーグを制することはできない。
アザールの力が大きかったアントニオ・コンテ率いるチェルシーは別としても、トッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ、マンCのジョゼップ・グアルディオラ、リヴァプールのユルゲン・クロップは組織的な攻撃を植え付けており、彼らはどこからでも得点が奪えるチームを作り上げている。それに比べるとマンUの攻撃の質は少々悪い。クロップやポチェッティーノならば、わずか4得点に終わったアントニー・マルシャルのような選手をもう少し上手く活かせるはずだ。モウリーニョも何か手を打つはずだが、これまで通りサイドに張り付かせているだけでは来季もマルシャルは同じような結果に終わるだろう。
一方でモウリーニョは守備組織の構築には成功しており、2016-17シーズンのマンUは29失点とトッテナムに次いで2番目に失点が少なかった。これまでモウリーニョが率いたインテルやレアルに比べて今のマンU守備陣にワールドクラスと呼べるDFはいないが、それでもモウリーニョはタレントに頼らず守れるチームを作り上げてみせた。これは2シーズン目に向けて大きな武器となる。来季リーグ制覇を達成するには攻撃でも同様のことが求められるが、名将と呼ばれるモウリーニョはアザールやロナウドのような天才に頼らず得点を奪えるチームを作れるか。得点数の部分が改善されなければ名将との 評価にも疑問が生じてくるだろう。