【16-17シーズン総括#3】競争力を取り戻しつつあるセリエA 「世界最強」の称号を再び得るために

まもなく一強時代の終えんか!? 着実に力をつけている上位陣

前人未到のセリエA6連覇を成し遂げたユヴェントス Photo/Getty Images

ユヴェントスの6連覇という結末は、1年前にほとんどの人が予想した通りの終わり方だ。しかし、一強時代の終えんが近いことを予感させるシーズンでもあった。2016-17シーズンのセリエAを振り返ってみよう。

セリエA6連覇に加えてコッパ・イタリア3連覇、チャンピオンズリーグ(UCL)準優勝のユヴェントスは、間違いなく充実のシーズンだった。MFポール・ポグバという軸を失ったが、新加入のFWゴンサロ・イグアインが見事な活躍を見せるなど、ほぼ完璧なシーズンを過ごしている。UCL決勝の戦いぶりがやや評価を下げた印象はあるものの、バルセロナ戦で発揮した底力は世界に十分なインパクトを与えただろう。

その圧倒的なユヴェントスと終盤まで競ったチームがある。2位フィニッシュのローマは、ユヴェントスと勝ち点4差だった。終盤戦はユヴェントスに気の緩みがあったかもしれないが、それを差し引いても優れた成績と考えるべきだ。ユヴェントスの獲得勝ち点は2年連続で91。2015-16シーズンは2位ナポリと9差だったが、2016-17シーズンはローマと4差だった。

勝ち点86を獲得したナポリは、UCLとの兼ね合いがある中で最後まで安定した戦いを披露した。ラツィオも戦力を考えれば5位は上出来だ。それ以上に上位陣をかき回したのが4位のアタランタ。ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の手腕と若手の台頭により、26年ぶりの欧州カップ戦出場権を手にしている。

しかし、アタランタとラツィオについては、これ以上を求めるのが難しい現状であることは間違いない。特にアタランタは優秀な若手が多く現れたため大変だ。冬にMFロベルト・ガリアルディーニをインテルへ放出した後も頑張っていたが、シーズンを終えてMFフランク・ケシエのミラン行きも決まっており、草刈場のようになっている。

競争力を取り戻すためにはミラノ勢の復権が必須!

ボローニャ戦でUEL出場権獲得を決定づける直接FKを決めた本田 Photo/Getty Images

競争力を「取り戻しつつある」という希望込みの言葉を使わずに「取り戻した」と堂々と宣言するためには、上位3チームに割って入る勢力が必要である。しかし、アタランタとラツィオにその役割を求めるのは少々酷だ。もちろん、ミラノ勢がやるべき仕事である。

6位ミランは勝ち点63、7位インテルは勝ち点62。ミラノを拠点とする2チームの差はわずか1ポイントだが、印象面での差はもっと大きいように感じる。

ミランはクラブ買収の話が長く続いており、昨夏はあまり身動きが取れなかった。そんな状況下で粘り強く戦い、最終的にはヨーロッパリーグ(UEL)出場権獲得という成果を残し、クラブ全体が喜びに沸いている。そして、新オーナーもヴィンチェンツォ・モンテッラ監督体制の継続を決断。ほかのクラブよりも素早く移籍市場で動き始めることで、この1シーズンを無駄にしていない様子だ。若き守護神ジャンルイジ・ドンナルンマの去就が想定外の騒動を呼んでいるが、共通の“敵”はかえって団結を生むこともある。

一方のインテルは、監督交代を繰り返した挙げ句、UEL出場権すら獲得できなかった。新シーズンから実績と経験のあるルチアーノ・スパレッティ監督が指揮を執るということは悪くない要素だが、結局この一年間は何だったのかと思えるほど無駄になってしまった。

クロトーネが奇跡を起こすも下位勢の粘り強さが足らない?

ビッグイヤーを掲げるマルディーニとサネッティ。かつて欧州制覇を成し遂げたミランとインテルは輝かしい栄光を取り戻せるか Photo/Getty Images

下位ではクロトーネが起こした奇跡が大きな話題になった。大差で最下位のペスカーラをはじめとして、2016-17シーズンは残留争いが盛り上がりに欠けるシーズンになりそうだったが、降格濃厚と目されていたクロトーネが残留に成功している。

クロトーネは今シーズンのセリエAで9勝しているが、うち6勝が4月以降だった。ラスト9試合の戦績が6勝2分け1敗。唯一の黒星が優勝したユヴェントスという事実には驚きしかない。

ただし、エンポリの終盤の失速がなければこのミラクルは起こらなかった。そもそも、獲得勝ち点34で残留というのが異例である。来シーズンに向けて戦力アップが必要なことは確かだろう。

「世界最強リーグ」の称号を取り戻すにはまだまだ時間がかかる。そして、今シーズンのセリエAは、「下位チームも戦術がしっかりしていて簡単に勝たせてくれない」というイタリアの特色もあまり見られなかった気がする。もちろん上位陣の勝負強さも影響しているが、クロトーネの奇跡や前半戦に健闘したボローニャを除くと、下位勢の粘りにやや物足りなさが残る。

とはいえ、やはりセリエAは力を取り戻しつつあるはずだ。ユヴェントスの6連覇という事実は一強時代であることを物語っているが、ずば抜けたチームが現れ、それに対抗する勢力が上に引っ張られて力をつけてきたというのが現在の流れだ。2位争いをしていたナポリとローマが、ユヴェントスに追いつく形で首位争いを演じるようになった。次のステップは第2集団がトップ集団との差を縮めること。やはり、ミラノ勢の復権が待ち遠しい。

文/伊藤 敬佑

イタリア・セリエAの熱に吸いよせられ、2007年、大学卒業と同時にイタリアへ渡る。以後、現地在住のフットボールライターとして、イタリアサッカーを追い続ける。ミラノを拠点に、インテルやミランを中心に取材活動を展開し、現地からの情報を提供している。

theWORLD187号 2017年6月23日配信の記事より転載

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