[乾貴士独占インタビュー]17-18シーズンで目指す更なる高みとは #1
求められる高い戦術理解力
インタビュ—に応えてくれた乾。6月下旬、都内にて photo/Kazuyuki Akita
過去に数々の日本人選手がリーガ・エスパニョーラでプレイしてきたが、万人が納得するパフォーマンスを発揮し、好成績を残した選手はいない。リーガで日本人選手が活躍するのは難しい──。いつの日かサッカー界の定説となりつつあった流れに、ひとりのサムライが力強く風穴を開けた。
乾貴士がエイバルに加入したのは、2015-16シーズンのこと。日々の練習に真摯に取り組むことで指揮官やチームメイトの信頼を勝ち取り、昨季は28試合出場3得点という成績を残した。得点こそ少なかったが、重要な戦力としてシーズンを通じて安定したパフォーマンスを発揮。迎えた最終節のバルセロナ戦では敵地カンプノウで2得点し、世界中のサッカーファンに強烈なインパクトを残した。リーガ、エイバル、そしてバルセロナ戦での2得点について。シーズンを終えて帰国したサムライがなにを考えてプレイしているのか、ゆっくり話を聞くことができた。
——— 2年前にエイバルに移籍しましたが、リーガについてどのような印象を持っていたのでしょうか?
乾貴士(以下乾) エイバルというチームについては情報がなく、まったく知りませんでした。しかし、待望のリーガからのオファーだったので、話を聞いた瞬間から“行く”と決めていて、当時プレイしていたフランクフルト(ドイツ)の監督には自分から話しました。スペインのサッカーが好きで、いつかはリーガでプレイしたいと考えていたんです。
——— 実際にプレイしている今は、どのような印象を持っていますか?
乾 考えていた以上にレベルが高く、技術、戦術の理解度、反応のスピードなどがずば抜けています。最初のうちはこれは大変だぞという思いがあり、手応えがあまりなかったです。まわりの選手がうまくて、ちょっとびっくりさせられました。一方で、これは絶対に楽しくなるとも思っていました。
——— プレイするうえで、以前と変化している部分などはありますか?
乾 ドイツでやっていたときは「簡単に、簡単に」と言われていて、攻撃のときにあまりリスクを冒さずにプレイしていたのですが、リーガではその意識を変えなければいけませんでした。守備に関しては、とにかく戦術の理解度を高めることに努めました。
——— そうしたなか、昨季は28試合3得点でしたが、この数字をどう受け止めていますか?
乾 そのうち26試合に先発したことに関してはすごく良かったと感じていますが、出場数のわりに得点が少なかったです。最終節のバルセロナ戦で2点取りましたが、それまで1点だったのは正直、物足りないです。自分自身シュートが下手という自覚があるので、そこは本当に課題です。ゴール前でもっと落ち着かないといけないです。
「若い選手や子どもたちに夢を」
バルセロナ戦で衝撃の2ゴールを挙げた photo/Getty Images
——— バルセロナ戦の2点を見ると、落ち着いてフィニッシュしていた印象もありますが?
乾 落ち着いていたというより、ダイレクトだったのでしっかり当てることしか考えていませんでした。コースを狙ったわけでもありません。ただ、2点とも思い切って打てましたね。ゴールチャンスが少ない試合になると思っていたので、つかんだチャンスを逃さないためにも思い切って打ちました。逆に、決定機がいっぱいある試合だったら、たぶん一度トラップしていたと思います。
——— 最終節というのも影響しましたか?
乾 それもありました。たとえミスになっても、もうシーズンの最後だから文句は言われへんやろという気持ちもあって、思い切って打てました。そういうちょっとした精神的な余裕も間違いなくありましたね。
——— バルセロナ戦で2得点です。率直に、この事実をどう受け止めていますか?
乾 もちろんうれしいことで、まわりの方々の反応を見るとすごいことをやったんだなという実感があり、素直にうれしいです。バルセロナから2得点したのがボクで良かったのだとすれば、それは日本代表でバリバリ活躍していなくても、バルセロナから得点できるという事実を若い選手たち、子どもたちに見せることができたことですね。みんなが「自分でもできる」という勇気や夢を持って取り組んでくれたらいいなと思っています。ただ、すべてもう終わったことなので、来季はまた一から頑張っていきますよ。
インタビュー・文/飯塚 健司
サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より5大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。
theWORLD188号 2017年7月23日配信の記事より転載