安部(鹿島)はギラギラしている。松原(清水)の仕掛けは魅力的だ
元日本代表の名良橋晃氏 Photo/今井恭司(スタジオ・アウパ)
今夏にガンバ大阪の堂安律がフローニンヘン(オランダ)、浦和レッズの関根貴大がインゴルシュタット(ドイツ)、サガン鳥栖の鎌田大地がフランクフルト(ドイツ)、大分トリニータの坂井大将がAFCデュビズ(ベルギー)へそれぞれ移籍しました。彼らだけではなく、Jリーグのなかには高いポテンシャルを持ち、今後に飛躍を遂げる可能性を持つ若い選手がたくさんいます。
鹿島アントラーズの安部裕葵は高校生のときは全国に名前が知られた選手ではありませんでしたが、加入1年目で頭角を現わし、セビージャとのフレンドリーマッチでMVPを獲得する活躍を見せました。さらに、J1の第19節甲府戦ではついに初得点を決めています。スピードがあって技術力も高いアタッカーで、スペースがなくても相手の間に入り込んでボールを運べる力があります。いまは「個」の力が目立ちますが、鹿島はまわりの選手たちの能力も高いので、うまく連携を取れるようになったら安部裕葵は試合のなかでより決定的な仕事ができるようになってくると思います。
元々は本田圭佑がプロデュースをするソルティーロFC出身で、積極的に勝負を挑む姿勢は見ていて清々しいです。また、いつ会っても表情がギラギラしていて、鈴木優磨と同じく相当に負けん気が強いのだなと感じます。今後はそうした逞しい精神力を持ったうえで、チームのなかで自分の力をうまく出せる選手に成長してほしいです。
元SBの私としては、清水エスパルスで左SBを務める松原后が気になっています。開幕から全試合にフル出場しており、中心選手としてチームに欠かせない存在となっています。タテへの突破力があり、利き足である左足から繰り出すクロスは非常に精度が高いです。以前から積極的に仕掛ける選手だなと注目していたのですが、第21節C大阪戦ではペナルティエリア内で倒されてPKを獲得しています。さらには、北川航也が奪った決勝ゴールにつながったクロスを左サイドから供給したのも彼でした。
なんと言うか、久々に“本物”と出会った感覚で、見ているとワクワクしてきます。負けん気も強く、どんな相手と対峙しても物怖じせずに堂々とプレイしています。守備のときに1対1の対応で多少弱いところが見受けられますが、そこはまわりとの連携やチーム全体のバランスでうまくカバーし、左SBとしてもっと伸びてほしいです。なんにでも当てはまることですが、たとえ失敗があっても修正して次へ臨めばいいので、今後も大胆に仕掛け続けてほしいです。個人的に、松原后は近い将来に日本代表へ入ってもおかしくない選手だと思っています。
ヴィッセル神戸の藤谷壮も天下一品のスピードを持つ右SBで、迫力あるタテへの突破が魅力で高校生のころから2種登録でJリーグに出場していて、その成長をずっと見守ってきました。いまはまだ守備のときにマークを見失うことがあるので、うまく改善してより良質なSBになることを期待しています。
もうひとり、柏レイソルで右SBを務める小池龍太は苦労人で、当時J3だったレノファ山口に入団し、J2昇格などを経て成長して今季から柏でプレイしています。攻撃ではクロスやスルーパスの精度が高く、守備では1対1の守りに強いなど攻守ともに安定しているSBなので、今後にどんな選手に仕上がるか楽しみにしています。
松井大輔の移籍が教えてくれた、年齢に関係なく挑戦する大切さ
松本から水戸にレンタル中の前田。迷いのない思い切ったフィニッシュも魅力。Photo /Getty Images
横浜F・マリノスでは天野純が司令塔として才能をいかんなく発揮し、チームを上位へと導いています。シーズン当初はボランチでプレイしていましたが、トップ下に起用されてからより存在感が増し、ゴールにからむ仕事ができています。足元の技術力が高いので狭いスペースでも相手を背負ってプレイできるし、前を向いてボールを持つと決定的なパスを出すことができます。天野純がトップ下にいることで両サイドの2本の槍、マルティノス、齋藤学の存在も活きています。
圧巻だったのは第20節新潟戦でのゴールで、浮き球を利き足である左足でスッと正確にコントロールし、マークしていた相手をかわしてミドルシュートを決めました。高いポテンシャルを持つ天野純がトップ下で輝けば輝くほど、横浜FMの得点数は増えていくと思います。
J2にも今後の成長が期待される若い選手がいます。湘南ベルマーレの杉岡大暉は市立船橋高時代から注目されていましたが、加入1年目からこんなに出場するとは考えていませんでした。湘南で試合に出ることでU-20代表にも選出され、5月に開催されたU-20W杯を経験しています。
4バックでは左SBを務め、3バックのときは最終ラインの左サイド、または中盤の左SHとしてプレイする選手で、システムやポジションによっていろいろな対応ができます。どの役割も高い能力でこなしますが、とくにSBやSHでプレイするときは前方への推進力があり、積極的に仕掛けるなど強気な一面を見せてくれます。非常に見応えがある左利きの選手で、日本代表で見てみたい選手のひとりです。
水戸ホーリーホックの前田大然も将来が楽しみです。松本山雅からレンタル移籍し、起用されたときにしっかりと結果を残すことでポジションを獲得し、いまではチームの躍進を支えています。魅力はなんといってもスピードで、瞬発力や突破力はJ1でも十分に通用すると思います。ただ、特徴を知られると厳しいマークを受けるのが常で、スペースがないなかどうやってスピードを生かすかなど、今後は相手が自分の良さを消してくるなかで結果を出すことが求められます。
若い選手の名前を挙げてきましたが、経験ある選手たちも「忘れられては困る」と言わんばかりに結果を出し続けています。ジュビロ磐田では中村俊輔が光り輝いているし、横浜FMでは中澤佑二が最終ラインで身体を張った守備を見せています。柏の大谷秀和も若い選手が多いなか、精神的支柱となってチームを引っ張っています。同時にボランチとしてピッチのなかで攻守の要になっていて、まわりの若い選手に安心感を与えています。
サッカー選手は年齢で見てはいけない。私はいつもそう訴えていますが、これらの選手たちの活躍、さらには松井大輔のオードラ・オポーレ(ポーランド)への移籍でこの思いをさらに強くしました。現役である以上、選手は常に成長を追い求め、挑戦を続けないといけないです。経験豊富な選手たちが進むこうした歩みの後ろに、若い選手たちが続いていくのだと思います。
構成/飯塚健司
theWORLD189号 2017年8月23日配信の記事より転載