日本代表が対戦したハイチは、ロシアW杯に向けた北中米カリブ海の4次予選で敗退し、最終予選に進めなかったチームである。勝利が求められるなか、日本代表は早い時間帯に2点を奪ったものの、次々に失点して一度は逆転されてしまった。ロスタイムになんとか追いついて3-3で終えたが、安定感に欠ける不甲斐ない戦いだった。
試合後のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は冷静さを保ちながらも、自身のなかでいろいろな感情が錯綜していることを隠さなかった。「サポーターに謝罪したい」「批判を受け入れる」「監督に就任してから最悪の試合だった」「怒りを感じている」「恥をさらしてしまった」「精神面で脆さが見えたのがショック」「もうちょっと違うものを見せてほしかったという意味で失望している」「やってきたことが台無しになったわけではない」「道筋には自信を持っていい」「この一戦で目を閉じてはいけない」「ハイチを目覚めさせてしまったかもしれないが、われわれも目覚めたから悪くない」。なにかを語るたびに、これらの言葉を繰り返した。
試合を振り返れば、日本代表でのプレイ経験が少ない選手たちがスタメンに起用されるなか、申し分ないスタートを切った。7分に長友佑都が左サイドから上げたクロスに倉田秋が頭で合わせて先制点を奪い、17分には右SBを務めた酒井高徳から乾貴士→浅野拓磨→杉本健勇→倉田秋とつなぎ、最後は倉田秋が放ったシュートを相手GKが弾いたところにいた杉本健勇が左足シュートで追加点を奪った。
自国での強化試合で、力の劣る相手から2点をリードした。「もっと得点できると思っていた」(ハリルホジッチ監督)のは当然で、実際にその後も日本代表は主導権を握り、ゴールを狙う姿勢を見せていた。ところが、28分に中盤でデュカン・ナゾンにボールキープを許すと、カウンターを受けてケビン・ラフランスに1点を返される。すると、「メンタルが弱いのか、1失点でニュージーランド戦と同じ状況が起きた」(ハリルホジッチ監督)という状態になってしまった。
ハイチ戦に先立って行なわれたニュージーランド戦(○2-1)でも、日本代表は先制点を奪いながらその後に同点とされ、終了間際に決勝点を奪うという接戦を演じていた。この日はさらに症状が悪く、素早いリスタートに対応できずFKから53分に同点とされ、78分には精度の高いミドルシュートを決められて2-3と逆転された。集中力の欠如やマークの緩さが招いた失点であり、指揮官にとっては「リードを奪ったあとに選手たちの頭のなかでなにが起こったかわからない」「気持ちが緩んだ人、守備で戻らない人がいた」「なぜこんなにパニックになったのかわからない」などと語る理解することが難しい、受け入れがたい一戦となった。
ハリルホジッチ監督にとっては、なぜ? どうして? という疑問が浮かぶ展開だったかもしれない。しかし、過去の日本代表を振り返れば、本来の力を発揮しないで終わるこうした試合はときおり見られ、その時々でチームを率いていた指揮官たちもハリルホジッチ監督と同じように原因がわからず、疑問や謎だと語っていた。そう考えると、この日のピッチには代表経験が浅い選手が多かったが、それはあまり関係ない。たとえ経験豊富な選手が多くても、日本代表は“チームとしての我”を失い、突如として混乱をきたすことがあるのはもはや周知の事実である。