香川は日本代表で輝けないのか ドルトムントとはまるで異なる現実

日本代表の香川真司 photo/Getty Images

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ハリルホジッチ体制で特長を活かす場がない

日本代表はドルトムントに所属するMF香川真司を活かすことができないのだろうか。香川はブンデスリーガの日本人最多得点記録を持つ選手で、今季もチャンスが与えられた際には華麗なループシュートを決めるなど結果を出している。日本人選手の中でも香川のテクニックは一段上のレベルにあると言えるだろう。しかし、残念ながら日本代表戦でそのポテンシャルをフルに発揮しているとは言い難い。2014ブラジルワールドカップまでは香川、本田圭佑が攻撃の軸だったが、現在指揮を執るヴァイッド・ハリルホジッチの監督の下ではファーストチョイスになりきれていない状態だ。本田はすでに先発の構想から外れたように見えるが、10番を背負う香川の立場も危ういものとなっている。

やはり1番大きいのはドルトムントと日本代表の質に違いがあることだ。香川は中盤でゲームメイクもこなせるが、ペナルティエリア付近まで攻め上がってフィニッシュに絡んでいくところに魅力のある選手だ。それこそ香川がブンデスリーガで高く評価されてきた理由だが、日本代表では香川が得意とするところに質の高いボールが出てこない。現在の日本代表の中盤では山口蛍、長谷部誠、井手口陽介などがハリルホジッチ監督から好まれているが、彼らはパスで攻撃を組み立てるような選手ではない。遠藤保仁がいた頃はアタッカー陣に質の高い縦パスを入れてくれたが、今は遠藤のようなタイプの選手がいない状態だ。ドルトムントではヌリ・シャヒンやユリアン・ヴァイグルからボールが出てきても、日本代表では香川の得意とするところになかなかボールがこない。

この傾向は格上と対戦した場合さらに顕著になる。アジアの戦いでは相手が前からプレスをかけてこないこともあるが、ワールドカップ本番では対戦相手のほとんどが格上だ。日本が押し込まれる展開は容易に想像でき、守る時間は長くなるだろう。長谷部や山口といった中盤の底に位置する選手も自由にボールを持てなくなり、ますます効果的な縦パスは出なくなる。クリアが多くなって香川の頭上をボールが通過していくばかりとなるシナリオも考えられる。ドルトムントはブンデスリーガで上位グループに入るクラブなので防戦一方になるケースは少ないが、日本代表の場合は別だ。ハリルホジッチ監督はワールドカップ出場を決めた8月のオーストラリア代表戦で長谷部、山口、井手口と守備に走れる3人を起用してオーストラリアの強みを消す采配を執ったが、ワールドカップでも同様の戦術を執ると予想できる。そうなった時、守備に強みのある選手ではない香川をスタメンで起用するのは効果的ではない。ワールドカップ本番での格上との対戦を考えると、香川は序列的に厳しい立場にあると言える。
香川も今回のニュージーランド代表、ハイチ代表との親善試合で結果を出そうと奮闘していたが、中盤でよりインパクトがあったのはオランダのヘーレンフェーンで活躍する小林祐希の方だ。香川は先発したニュージーランド代表戦で序盤から積極的にシュートを放つなど、ゴールという分かりやすい結果を出すことを意識していたように見える。一方で小林は中盤のあらゆるところに顔を出し、少ないタッチ数でパスを散らすことでチームにリズムを与えようとしていた。効果的だったのは後者の方だ。今のハリルジャパンでは中盤でボールを受けたがる選手が少ないが、小林はどんどんボールに絡んでいくところに強みがある。積極的にパスを受け、それをシンプルに繋いでいくことで日本の攻撃は明らかに活性化されていた。香川も中盤の低い位置からゲームメイクもこなせるが、それは香川の最大の持ち味ではない。シンプルにリズムを与えるという点では小林の方が効果的だった。加えて小林はニュージーランド戦で守備面のアピールもしており、タックルを仕掛けてボールを奪うなど対人戦ではある程度の強さがある。これはデュエルを強調するハリルホジッチ監督の好みに合うもので、少なくとも香川よりは小林の方が守備面でのデュエルを得意としている。さらに代表の中盤に左利きの選手が不足していることを考えると、小林は興味深いオプションになるのではないか。

仮にこのまま日本代表がワールドカップ本番でも中盤を3センターにした布陣を採用する場合、香川の立場はやや厳しい。アンカーには長谷部が入るはずで、精神的支柱であることを考えても長谷部をワールドカップ本番でスタメンから外す案は存在しないだろう。ここ最近の代表戦ではチーム全体がバタバタすることがあるが、そういう場面で主将・長谷部がピッチにいる意味は大きい。インサイドハーフでは山口もハリルホジッチ監督から好まれており、高い確率でスタメンに入ってくるだろう。となれば、空きは1つだ。井手口もオーストラリア戦以降評価を高めており、守備のことを第一に考えるのであればオーストラリア戦同様に長谷部、山口、井手口のトリオでスタートすることも考えられる。さらに前述した小林、そしてニュージーランドとハイチから1得点ずつ奪ったガンバ大阪MF倉田秋もいる。香川がこのポジション争いを制するのは簡単ではない。

ハリルホジッチ監督は代表入りが確定している選手は1人もいないと強調しており、来年3月にはメンバーをある程度固定したいとの考えを明かしている。11月にはブラジル代表、ベルギー代表との親善試合が予定されており、ハリルジャパン体制になってからは初の強豪国とのゲームだ。当然この2試合では守備の時間も増え、日本の好きなように攻撃できる時は限られる。その際に香川が何か違いを作り出せるのか、日本の10番にとって1つの正念場となるだろう。4年前のオランダ代表、ベルギー代表との親善試合では香川も輝きを放っていたが、今は状況が大きく異なっている。

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