モウリーニョ(左)とグアルディオラ(右)が今季のプレミアの主役か photo/Getty Images
対極なスタイルを持つ名将 いざセカンドシーズンサクセスへ
伊達や酔狂で名将と呼ばれているわけではなかった。ともに就任2シーズン目を迎えたジョゼ・モウリーニョ、ジョゼップ・グアルディオラ監督は、それぞれの哲学をチームに注入し、プレミアリーグの優勝争いをリードしている。
2-2の引き分けに終わった4節のストーク・シティ戦を除き、マンチェスター・ユナイテッドは早くも7回のクリーンシートを記録している。8節終了時点では驚異的なハイペースだ。もちろん、奇跡的なセーブを頻発する世界最高のGKダビド・デ・ヘアの存在は大きいが、チーム全体の守備意識も軽視できない。素早いリトリートでスペースを消去し、対戦相手の攻撃に余裕をもって応じている。
このプランはモウリーニョ監督が最も得意とするところだ。1対1に強いエリック・バイリーに加え、状況判断に優れたネマニャ・マティッチの補強も、守備の強度を高める人選だ。今、ポール・ポグバの負傷欠場で攻撃にアイデアを欠いているとはいえ、失点の少なさはモウリーニョ監督の意図が反映されている証だ。全チームがポゼッションを志向する必要はどこにもない。
さて、マンチェスター・シティのグアルディオラ監督は、モウリーニョ監督の対極に位置している。基本プランはポゼッションを軸とするハイライン・ハイプレス。しかも今シーズンはパスのスピードアップと幅を意識した攻撃により、対戦相手を長時間にわたってディフェンシブサードに封じ込める。ユナイテッドのモウリーニョ監督が思い描くようなプランではない。
また、前線からの連動性で瞬く間にボールを回収する術に進歩が見られ、相手陣で2次、3次攻撃を仕掛けることが可能になった。対戦相手にすると心身のダメージが蓄積するパターンである。この攻守の切り替えで特筆すべきはカイル・ウォーカーだ。つねに足を止めずにポジションを修正し、ダビド・シルバやケビン・デ・ブライネに自由を与えている。
グアルディオラ監督が標榜する超攻撃的なスタイルにより、やや不安定なディフェンスラインも冷静に対処できている。満身創痍のヴァンサン・コンパニは連戦が難しく、6節のクリスタル・パレス戦で膝を痛めたバンジャマン・メンディは今シーズン絶望の重傷だが、GKエデルソンの好守もあり、今のところ大きな欠損はない。リーグ随一の攻撃力がある限り、ウィークポイントも隠せるだろう。
機は熟した、マンチェスター勢にストップをかけるのはスパーズ
プレミア屈指のシュート技術と得点感覚を持つケイン photo/Getty Images
ディフェンディング・チャンピオンのチェルシーは、マンチェスターの2強とともに優勝を争うだけのポテンシャルを有している。アントニオ・コンテ監督のもと攻守の戦術が徹底され、足首の負傷で戦列を離れていたエデン・アザールも、急速に仕上がってきた。ところが、7節のシティ戦でアルバロ・モラタがハムストリングを負傷。復帰は早くて11月下旬と伝えられている。
前線の基準点として、またライン間に位置してアザール、ウィリアン、ペドロ・ロドリゲスと絶妙の連携を見せていたモラタの戦線離脱は大きすぎるダメージだ。ミチュ・バチュアイは全てにおいて見劣りし、対戦相手の脅威とはなりえない。1-2の敗北を喫した8節のクリスタル・パレス戦も、前線で突っ立っているだけだった。
モラタが戻ってくるまで、チェルシーは耐えられるだろうか。守備は計算できるだけに、攻撃をどのようにやりくりするのか......。この1ヶ月半がカギだ。
いや、チェルシーは辛抱できるかもしれない。対戦相手、試合展開、日程などを入念にチェックして作戦を練りあげるコンテ監督には、運命を託す価値がある。しかし、アーセナルは相変わらずアーセナルで、アーセン・ヴェンゲル監督に進歩はない。試合ごとにプランを立てず、常に選手任せ。試合結果は主力のコンディションに委ねられ、敗戦の弁は「納得できないジャッジが多すぎる」の一辺倒だ。敗因を分析しない(できない?)指揮官は退路を探ったほうがいい。このままでは晩節を汚すだけだ。
モラタの戦線離脱でチェルシーが苦しみ、ヴェンゲル体制が限界を迎えていることを踏まえると、今シーズンのプレミアリーグはマンチェスター勢のマッチレースになるのだろうか。
待ったをかけるとすれば、トッテナム・ホットスパー以外に考えられない。「継続性を最重視」というマウリシオ・ポチェッティーノ監督の発想に基づき、この夏の市場には必要以上に投資しなかった。それでもダビンソン・サンチェス、セルジュ・オーリエの補強で、シティに去ったウォーカーの穴は完全に埋まった。とくに汎用性の高いサンチェスはフォーメーションに柔軟性をもたらし、昨シーズンにもまして3バックと4バックの使い分けが可能になった。
また、エリック・ダイアー、ビクター・ワニャマ、ムサ・デンべレが激しく競り合っていた中盤のセンターのポジション争いにムサ・シソコが加わり、彼らの競争力がチームを活性化している。そしてフェルナンド・ジョレンテの加入はハリー・ケインの負担を軽減し、負傷で戦列を離れていたダニー・ローズとエリック・ラメラも、11月中旬までには復帰する予定だ。こうしてスパーズは、超過密日程の12月にむけてフルスカッドを整える公算が大きくなってきた。完成度はリーグ随一といって差し支えない彼らにとって、選手層の充実は何よりの強みである。チャンピオンズリーグとの併用でも、主力の疲労は最小限に抑えられるに違いない。
解説者のフィル・ネビル(ユナイテッドOB)は「いざというときは個の力。マンチェスターの2強に比べると、スパーズは迫力に欠ける」と指摘した。しかし、2シーズン連続得点王のケインを擁し、レアル・マドリードとバルセロナがヨダレを流すデル・アリ、クリスティアン・エリクセンもいる。トビー・アルデルヴァイレルトは世界でもトップクラスのCBで、ワニャマの守備力はスケールがデカすぎる。個の力が不足しているって!? P・ネビルの目は節穴だ。
スパーズは質量ともリーグ屈指の陣容だ。2シーズン連続して優勝争いを演じ、メンタルも強化されたに違いない。機は熟した。来年5月、スパーズがリーグの頂点に立っている可能性は、十分すぎるほどある。
文/粕谷秀樹
サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。
theWORLD191号 2017年10月23日配信の記事より転載