得点も失点の少なさもユーヴェを上回るナポリ
驚異の開幕8連勝で首位に君臨するナポリ photo/Getty Images
6連覇中の絶対王者が“定位置”にいない。ついに牙城を崩すクラブが登場するのだろうか。今シーズンのセリエAは、ひっそりと盛り上がっている。今年こそユヴェントスを引きずり降ろそうと意気込む勢力に注目だ。
まず前提として、ユヴェントスが不調でないことは触れておく必要がある。今シーズンから「10」のユニフォームを着ているパウロ・ディバラは、すでに 10得点を挙げている。ディフェンスの要の一人、レオナルド・ボヌッチが抜けたがそれでも十分に守備が安定していることは間違いない。
だが、得点も失点の少なさもトップではないことは、王者が本調子にない証明だ。最少失点は第8節終了時点で5失点のナポリ、インテル、ローマの3チームで、7失点のユヴェントスは4位となる。最多得点はナポリの26得点で、21得点のユヴェントスはラツィオと並んで2位タイだ。
王者よりも多くの得点を奪い、失点も少ないナポリは、現時点で打倒ユヴェントスの筆頭だ。FWドリース・メルテンスのパフォーマンスが特に光っているが、それでもPK3本を含む7得点。得点ランクで4位タイと、最多得点チームのトップスコアラーとしてはそこまで目立つ数字ではない。これはどこからでも点を取れることの表れだ。
攻撃の中心であるMFマレク・ハムシクの初ゴールが遅かったことは一つの話題だったが、10月1日のカリアリ戦で決まった。もちろん、得点は多い方が良いに決まっているが、攻撃のタクトを振る中心選手が組み立てる側に比重を置き、フィニッシュはほかに任せるというスタイルを確立したとも捉えられる。マウリツィオ・サッリ監督が鍛えた守備からスピード感と技 術のある攻撃への移行ーー。各ポジションの歯車ががっちりかみ合っているのが序盤戦のナポリと言えそうだ。
結果を残すインテル、ローマ、ラツィオ 王者への挑戦権を得るのは
今季もゴールを量産するイカルディ。ミラノダービーではハットトリックを達成 photo/Getty Images
8戦8勝はできすぎかもしれないが、近年ユヴェントスと競ってきたナポリが首位にいることにそれほど驚きはない。ただ、インテルの2位ははっきりとしたサプライズだ。7勝1分け無敗、失点5という数字は多くの専門家の予想を裏切っている。
最少失点の立役者は、新加入のミラン・シュクリニアル。22歳のスロバキア代表CBは、早くも不動のレギュラーだ。信頼できるパートナーができたことで、ミランダの能力の高さも改めて示される形となり、チーム全体の守備力を向上させた。
一方で攻撃面については、このままではそのうち順位を落とすことになりそうだ。アントニオ・カンドレーヴァ、イヴァン・ペリシッチと優れた両サイド、そして何より圧倒的な決定力を誇るマウロ・イカルディがいなければ、ここまでの勝ち点を重ねることはできなかったはずだ。第8節ミラノダービーはまさに「イカルディ様様」といったエースの決定力に助けられた。負傷などでこの決定力を失った場合、今のままならインテルは決め手を欠くことになる。
夏にボルハ・バレロを獲得したことからも、ルチアーノ・スパレッティ監督が目指している攻撃は今のスタイルとは異なるはずだ。だが、結局はエースの決定力に頼ってしまう試合が増えている。19歳のコートジボワール人FWヤン・カラモーが期待感を漂わせているが、個の力ではいつか限界にぶち当たるもの。好調に浮かれず、新指揮官の戦術を浸透させる必要がある。
そのほかではローマの2チームにも注目だ。3位につけるラツィオは、実際ユヴェントスを下している。10月14日に行われたセリエA第8節は、ユヴェントスがホームスタジアムで782日ぶりに敗れた。2年以上負けていなかった場所で負けたことも、新しい風が吹き始めているということなのかもしれない。フランチェスコ・トッティがスパイクを脱いだローマも、ナポリとインテルと並んでリーグ最少失点で安定している。ラツィオはチーロ・インモービレに、ローマはエディン・ジェコに得点が偏っているきらいはあるが、インテルも含め、まずは結果が出ていることが大事。そこで得た自信が、王者に挑戦する最低条件となる。
王者を「潰す」ために各チームが包囲網を
絶対王者ユヴェントス。首位を明け渡してもやはりスクデット争いの本命か photo/Getty Images
「カンピオナートはマラソン」。頻 繁に使われる常套句の一つだ。実昨季セリエAの得点王にも輝いたローマのゴールハンター、ジェコ際にそうなら、やはりユヴェントスが一つ抜けていると考えるのが妥当だろう。ナポリは一度歯車が狂うと修正は簡単ではないということを歴史が証明している。インテルは結果ほど安定感のあるパフォーマンスではない。選手層、経験値、総合力、さまざまな面でまだまだ他のクラブとの差はある。
ただし、42.195キロではなく1万メートルであれば、競えるチームが出てきたというのが事実。もちろん、シーズンの最大目標をチャンピオンズリーグ制覇に設定している ユヴェントスはまだ調子を上げている途中のはずだが、各区間で王者を「潰して」いく有力チームが包囲網を築いていけば、最後に息切れを起こしているかもしれない。
今年の世界陸上、男子1万メートルでは、イギリスの英雄モハメド・ ファラーを止めるためにその他の選手が一丸となって包囲網をつくった。結局、最後はその包囲網をファラーが力でねじ伏せたが、不動の王者が止められるのではないかとロンドンの観衆は手に汗握ったに違いない。今季のセリエAも、そんな展開になることに期待している。
文/伊藤 敬佑
イタリア・セリエAの熱に吸いよせられ、2007年、大学卒業と同時にイタリアへ渡る。以後、現地在住のフットボールライターとして、イタリアサッカーを追い続ける。ミラノを拠点に、インテルやミランを中心に取材活動を展開し、現地からの情報を提供している。
theWORLD191号 2017年10月23日配信の記事より転載