【特集/ビッグクラブ新時代 #2】災い転じて福となしたいレアル 好調バルサはメッシ依存が顕著に 

ほぼベストの布陣が整ったCLでは負けなしのレアル photo/Getty Images

主力不在で出遅れたレアルだが......

スーペルコパでバルセロナを下した時点では、レアル・マドリードは万全に見えた。むしろネイマールをパリ・サンジェルマンに引き抜かれたバルセロナのほうが前途多難を思わせた。ところが、リーガが開幕してみると8試合を消化してバルセロナは7勝1分の絶好調で首位。レアルは5勝2分1敗で5ポイント差の3位に甘んじている。レアルが3ポイントを取り損ねた3試合はいずれもホームゲームで、敗れたベティス戦はC・ロナウドの復帰戦でもあった。それが危機感を煽っているわけだが、まだ序盤戦にすぎない。巻き返しは十分可能だと思う。

レアルがスタートダッシュに失敗したのは、ロナウドの出場停止や負傷者によってメンバーの入れ替えがあったことが大きい。ただし、これは逆に今後プラスに転ずる可能性がある。今季のレアルの特徴のひとつが多様性だからだ。昨季、ジダン監督はローテーションを採り入れて重要な試合が立て込んでくる終盤での加速に成功している。その過程でトップ下にイスコを起用した[4-4-2]を発見した。長いシーズンを戦い抜くには多様性が必要だということをジダン監督はよく知っている。大戦力を抱えるレアルにとって、ある程度メンバーを流動化させていくほうが長い目で見れば得策なのだ。今季に関していえば、アセンシオというスーパースター候補をどう起用していくかは大きなテーマだろう。

ネイマール退団がもたらした守備の安定 

今季もバルサの攻撃を司るメッシ photo/Getty Images

ネイマールの退団が不安視されていたバルセロナは、バルベルデ監督がすぐに方向性を提示して波に乗せた。ネイマールの後釜に獲得したデンベレの負傷離脱も、逆に加入直後だったことで影響は少ない。

バルセロナがスタートダッシュに成功したのは、メッシ仕様の編成を素早く確立したことにある。メッシをどう生かすかはバルセロナのテーマであり、その時々の監督が工夫を施し、頭を悩ませてきた。バルベルデ監督はメッシをトップ下に起用し、守備のタスクを軽減している。守備時にはメッシとL・スアレスを前線に残す[4-4-2]対応になるのだが、その際の守備組織も整えた。守備時の[4-4-2]対応は昨季もそうだったのだが、中盤の「4」の1人はネイマールである。今季はデウロフェウが主にその役割を果たしていて、守備力という点ではむしろ安定感がある。A・ゴメスやS・ロベルトならばさらに不安がない。人選だけでなく、ゾーンの4-4のプレイロールを浸透させた。これはバルセロナにはあまり馴染みがなかったので、バルベルデ監督は守備を安定化させたといえる。

問題はメッシ仕様に傾きすぎていることだ。左右にトライアングルを形成し、その隙間にメッシが顔を出してパスを受けるパターンを志向しているが、守備のスライドが速いアトレティコ・マドリード戦では、トライアングルからトライアングルへボールがリレーされるだけでメッシに入らない時間が続いていた。そうなるとサイドにネイマール級のスピードを持たないので、たちまち攻撃が手詰まりになってしまう。メッシ依存が強く、メッシにボールが入らないと機能しないことがわりとはっきりしているのだ。デンベレが復帰すれば解決できるかもしれないが、それまではすべてメッシ次第だ。

今季のメッシは最初からボールを受けたいエリアにいる。合理的である半面、相手からもつかまりやすい。メッシが負傷したり抑え込まれたときには困難な状況になるだろう。実際、レアルとのスーペルコパではメッシを抑えられて敗れている。

ここまではバルセロナの好調、レアルの失速が目立っている。しかし、早く完成させてしまったがゆえにバルセロナがこの先勢いを失うかもしれず、逆にレアルはアセンシオの台頭とともに力を増していく可能性を秘めている。

文/西部 謙司

1995年から98年までパリに在住し、サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスとして活動。主にヨーロッパサッカーを中心に取材する。「フットボリスタ」などにコラムを寄稿し、「ゴールへのルート」(Gakken)、「戦術リストランテⅣ」(ソル・メディア)など著書多数。Twitterアカウント:@kenji_nishibe

theWORLD191号 2017年10月23日配信の記事より転載

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