【特集/ビッグクラブ新時代 #5】スター軍団を束ねるのがエメリという違和感 PSGのサクセスは指揮官次第

スター選手のエゴがぶつかり、早くも噴出した不協和音

スター選手のエゴがぶつかり、早くも噴出した不協和音

PSGを指揮するエメリ photo/Getty Images

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 今夏パリ・サンジェルマン(PSG)に移籍したFWネイマールは、あらゆる面でチームの中心選手となっている。国内リーグでは派手な足技も披露し、9節を終えた時点で6得点を記録するなど期待通りのパフォーマンスだ。その一方で、古株のFWエディンソン・カバーニとはPK、フリーキックのキッカーを巡って口論となり、ネイマールがクラブにカバーニ売却を要求したといった穏やかではない話題も出ている。近年のネイマールはトラブルメイカーにもなっており、さっそくそれが出てしまった。しかしPSGもそれは覚悟していたはずで、スター選手を集めれば主役争いが勃発することは容易に想像できる。ポイントは指揮官のウナイ・エメリだ。

 リーグ・アン優勝がほぼ揺るぎないほどの戦力を揃えたPSG。狙うはチャンピオンズリーグ制覇であり、クラブのナセル・アル・ケライフィ会長も2シーズン以内に制覇したいとの思いを明らかにしている。ネイマール、さらにはモナコからFWキリアム・ムバッペを引き抜いたのもそのためで、悲願へ向けて戦力は整いつつある。しかし、それを統率す
るエメリはふさわしい指揮官と言えるのだろうか。エメリはセビージャでヨーロッパリーグを3連覇するなど一定の結果を出しているが、ビッグクラブを指揮した経験はなかった。ネイマール、カバーニ、チアゴ・シウバといったワールドクラスの選手を指導した経験もなく、チャンピオンズリーグも未知なる領域だ。

 すでにチームではネイマールとカバーニが騒動を起こしたが、ビッグクラブでは指揮官がこうしたトラブルにどう対処するかが大きなカギを握る。今後もスター軍団のPSGでは何かしらのトラブルが起こるだろうが、それをエメリがまとめられるのかは疑問だ。 例えばバックアッパーのメンタルケアだ。PSGはネイマールとムバッペの加入で前線の人材が溢れ返っており、ルーカス・モウラ、ハビエル・パストーレ、ユリアン・ドラクスラー、アンヘル・ディ・マリアがベンチに座る時間が増えている。彼らが現状に不満を抱えるのは確実で、エメリは選手たちのモチベーションを維持しながら上手くローテーションさせていかなければならない。それができなければリーグ・アンとチャンピオンズリーグのダブル達成は難しく、新たなトラブルを生む恐れもある。

タレント軍団を活かす術をエメリは持っているのか

タレント軍団を活かす術をエメリは持っているのか

ネイマールとカバーニの衝突は様々な憶測を呼んだ photo/Getty Images

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 戦術面でも気になるところはある。PSGはネイマールとムバッペを加えたことでチャンピオンズリーグの優勝候補に挙げられるようになったが、昨季何が起こったのかを忘れるべきではない。昨季は決勝トーナメント1回戦でバルセロナと対戦し、1stレグで奪った4点のリードを2ndレグでひっくり返されるという歴史的な逆転負けを喫している。昨季から中盤、守備陣の顔ぶれはほとんど変わっていないため、レアル・マドリードなど強豪と対戦する際には相手をリスペクトした戦い方をしなければならない時もある。果たしてエメリがその戦い方をスター軍団に落とし込めるだろうか。昨季真っ向からバルセロナにぶつかって大逆転されたことを考えると、不安は大きい。ネイマール、カバーニ、ムバッペのトリオを単純に並べているだけで制覇できるほど甘い大会ではない。スター軍団だと胸を張るだけでなく、時には攻撃的すぎる3トップを諦める冷静な判断も必要だ。

 近年のPSGにはそうした対戦相手との力量差を見極める冷静さ、柔軟性が欠けていた。前指揮官のローラン・ブランもバルセロナに真っ向勝負を挑んで完敗を喫するなど、やや自分たちの実力を過信した戦い方が目についた。ビッグクラブとの誇りがあるのかもしれないが、そうした柔軟性の欠如がベスト4にすらたどり着けていない理由だろう。ブランも指導者としてチャンピオンズリーグで結果を出したことはなく、カルロ・アンチェロッティ退任以降のPSGは真の名将と言える指揮官を招聘できていない。選手は揃っていても、指揮官の手腕や経験値がそれを束ねるレベルに達していないのだ。

 フランス国内では昨季王者のモナコが主力の大半を今夏に奪われ、さすがのレオナルド・ジャルディム監督でも昨季と同じ勝点90超えを実現するのは難しい。今季はすでにリーグ戦で12失点しており、これはPSGのちょうど倍の数字となる。チャンピオンズリーグでも黒星が続いており、戦力ダウンしているのは明らかだ。酒井宏樹の所属する4位マルセイユも近年は積極的な補強に動いているが、こちらもモナコと同じく守ることができていない。失点数はすでに15で、リーグワースト3位の数字だ。モナコもマルセイユも一発勝負であればPSGに勝つこともできるだろう。しかし長期のリーグ戦で競り合っていくのは限りなく不可能に近い。すでに現時点でモナコはPSGと勝点差6、マルセイユは9の差がついてしまっている。エメリがタレント力に頼り切った単純なサッカーをしたとしてもPSGのリーグ制覇は確実だ。しかしチャンピオンズリーグをタレント力だけで制することは難しく、すべてはエメリのマネージメント次第となる。現在はネイマールに視線が集中しているが、悲願達成のカギはエメリが名将になれるかどうかにかかっている。

文/冨田 崇晃(theWORLD)

theWORLD191号 2017年10月23日配信の記事より転載

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