名良橋晃の定点観測♯38「攻撃力+粘り強さがある今季の川崎は違う。念願のタイトル獲得も近い」

鬼木監督のもと、勝ちにこだわるサッカーが浸透してきた

今季の川崎はこれまでと違う。ついにタイトルを獲る可能性がある。Photo/Getty Images

今シーズンも終盤を迎えて、J1、ルヴァン杯、天皇杯の国内3つのタイトルの行方が気になります。11月4日にはルヴァン杯決勝が開催されますが、対戦カードはセレッソ大阪×川崎フロンターレとなり、どちらが優勝してもJ1で初タイトルとなります。両者は天皇杯も準々決勝(10月25日に終了し、川崎は敗退)まで勝ち上がっており、ここでもタイトル獲得の可能性を残しています。J1に関しても、勝点差を考えるとC大阪は厳しくなりましたが、川崎は逆転優勝を狙える位置につけています。

これまでタイトル獲得がなかった川崎ですが、今シーズンはいけるのではないか。ついに獲るのではないか……。私はそんな印象を持っており、おそらく川崎サポーターのみなさんも同じように感じているのではないかと思います。そして、その気持ちは相当に強いのではないでしょうか。中村憲剛にタイトルを! という気持ちが私にもあるので、そろそろ何かしらの大会で優勝してほしいと願っています。

シーズン序盤は風間八宏前監督のパスサッカーを継承して戦うなか、ケガ人が続出してJ1では第10節を終えて4勝4分け2敗という苦しい戦いを強いられました。同じ時期に開催されていたACLでも4試合連続引分けというギリギリの戦いを続けていました。ただ、よくよく振り返ってみるとあまり負けていません。厳しい戦いを繰り返すなか、現役時代の多くを鹿島アントラーズで過ごした鬼木達監督によって、攻撃的だったチームに“勝ちにこだわるサッカー”が浸透していきました。

今シーズンの川崎は勝っている状況で終了間際を迎えると、5バックにして守備を意識して残り時間を戦うことがあります。攻撃サッカーにプラスして、負けない粘り強さが出てきた印象があり、これがいまの成績につながっています。

とはいえ、もったいない失点があるのも事実で、タイトルを獲得するためには相手につけ入る隙を与えない安定感が必要です。各選手がパスサッカーを理解しており、ボールを保持して主導権を握って戦えるチームですが、流れを失って集中力を欠き、フイに失点を重ねることがあります。J1第19節ジュビロ磐田戦(●2-5)、ルヴァン杯準決勝のベガルタ仙台との初戦(●2-3)、ACL準々決勝第2戦の浦和レッズ(●1-4)との戦いなどが当てはまります。

どこからでも得点できる一方で、もったいない失点をしてしまう。過去をみても、ここぞという大一番で勝つことができず、タイトルを逃してきました。昨シーズンだけでもJ1第2ステージ最終戦でガンバ大阪に2点をリードしている状態から3点を奪われて逆転負けを喫し、年間勝点1位を逃してチャンピオンシップ準決勝にまわり、鹿島に競り負けています。天皇杯決勝でもより多くのチャンスを作りながら得点できず、セットプレイから失点して延長戦のすえ鹿島に敗れています。

また、大一番で勝てないだけではなく、「ここで勝点を落とすか……」という惜しい引分けや敗戦があるのが川崎というチームで、こうした勝点の取りこぼし、もったいない失点をしてしまう不安定さをなくさないとタイトルホルダーにはなれません。

ACL浦和戦の逆転負けがターニングポイントになった

今シーズンの川崎がタイトルを獲るチャンスを迎えている理由として、ACL準々決勝第2戦で浦和によもやの逆転負けを喫した経験が、その後に生かされていると感じることが挙げられます。このときは第1戦に3-1で勝利し、第2戦でも先制点を奪ったことで本来は大きなアドバンテージを得ていました。ところが、その後に1-1とされ、さらには退場者を出したことで完全に後手を踏むことになりました。中村憲剛を下げたことで守備的になり、残り時間を耐えることができず失点を重ねました。

ルヴァン杯準決勝の仙台との第2戦も2点をリードするなか退場者を出し、同じような状況を迎えました。ここでの鬼木達監督はただ守るのではなく、中村憲剛をピッチに残して逆に追加点を奪うことに成功しています(○3-1)。J1第29節仙台戦でも退場者を出し、さらに2点をリードされる劣勢のなか、終了間際に3点を奪って劇的な勝利を収めています(○3-2)。私はACLでの敗戦があったからこそ、チームとして修正し、こうした粘り強い戦いができたのだと考えています。そういった意味で、負けたのは残念でしたが、川崎にとって“あの敗戦”は大きなターニングポイントになったのだと思います。

中村憲剛という大黒柱に加えて、中盤では負傷してしまいましたが、大島僚太が開幕当初から成長した姿を見せてくれていました。阿部浩之、家長昭博の加入によって、攻撃力はもちろん、守備力も高まっています。阿部浩之も現在は負傷中ですが……。家長昭博もシーズン序盤はケガがあり出場できませんでしたが、チームメイトとの距離間やパスをやりとりするときのアングルなどを摺り合わせることで徐々にフィットし、いまは中村憲剛の負担を軽くする働きを見せています。

大事な終盤戦を迎えてケガ人を抱えていますが、三好康児、長谷川竜也、板倉滉、知念慶など若い選手たちが起用に応え、少ないチャンスを生かして結果につなげています。田坂祐介、登里享平、森谷賢太郎なども複数のポジションで起用され、力を発揮することで苦しいシーズンを支えてきました。なにより、前線には頼れるエースの小林悠がいます。今シーズンは全試合に出場し、このままいくと20得点を超えることが予想され、自身初の得点王を狙えるところまで来ています。

優勝まであと一歩という、“ここまで”は過去に何度もたどり着いてきました。同じ轍を踏むのか、ついにタイトルを獲得するのか──。私はそこはかとなく後者になるのではないかと感じています。クラブ全体に悔しい思いが積もりに積もっているし、チームから諦めない姿勢が滲み出ています。

もちろん、タイトルにかける強い気持ちはすべてのチームが同じで、過去と同じように少しでもつけ入る隙を見せたら、これまでと同じ結果に終わるでしょう。ただ、川崎はもう、そうしたことは重々承知しているはずです。どれだけ悔しい経験を積んできたかは、クラブに関わる人々、サポーターが一番わかっていると思います。ここからは総力戦になります。まずは11月4日のルヴァン杯決勝です。ここでみんなが求める結果(=優勝)を得られたなら、勝ち方を知った川崎はより良い流れに乗ることになるでしょう。

構成/飯塚健司

theWORLD191号 2017年10月23日配信の記事より転載

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