【特集/フットボールを進化させる監督たち #3】“本物”に近づくインテルの強さ スパレッティの「整理」が名門復活へ導く

豪華メンバー揃うも“中の上” 安定感に欠けるインテル

名門インテルを復活へ導くスパレッティ photo/Getty Images

シーズン開幕から間もない9月11日、イタリアメディア『Sky SPORTS』のインタビューに応じたルチアーノ・スパレッティは、“まさか”の開幕3連勝に導いた自身の功績についてこう話している。

「私の仕事は簡単だった。クオリティの高い選手たちがすでにいて、それを整理するだけだったから。全体的に見ても正しい道を進んでいると言える」

そうさらりと言いのけているのだが、カルチョの世界を知る人なら思わずこう言い返したくなる。

「それが一番難しいんだ。インテルの場合は、特に」

クオリティの高い選手は、確かにいる。キャプテンのアルゼンチン人FWマウロ・イカルディは高い・強い・上手いと3拍子そろったストライカーで、両脇のアタッカー、イヴァン・ペリシッチはドリブルの、アンドレア・カンドレーヴァはクロスの達人。MFジョアン・マリオはEURO2016を制したポルトガル屈指のテクニシャンで、マルセロ・ブロゾビッチには移籍市場を賑わすだけのポテンシャルがある。さらに、最終ラインにはブラジル代表の中核を担うミランダがいるし、ゴールマウスを守るのはセリエA屈指の実力者であるサミール・ハンダノビッチである。上位争いに食い込んでも何ら不思議でないほどの、豪華なメンバー構成と言える。

ところがこのチームは、何らかの些細なきっかけでいつも崩れる。安定感という言葉で形容されたのは、ジョゼ・モウリーニョが率いた00年代後半の数年間だけ。以降は“いつものインテル”に戻り、上位争いを期待されながら“中の上”をさまよった。タレントはいつも足りている。爆発力もあり、強い時は強い。しかし“クセ”の強いキャラクターが多いのか、 勝利に最も必要とされるチームとしての一体感とはいつも無縁で、バラバラと音を立てるようにして崩れるのが定番だ。すると監督が替わり、ピッチに立つ選手も入れ替わる悪循環に陥る。

守備の「整理」 “組織で守る”の徹底

インテルの“心臓”となりつつあるバレロ。ローマ時代からスパレッティは獲得を熱望 photo/Getty Images

このネガティブ・スパイラルから、スパレッティがインテルを救い出そうとしている。ローマで名を挙げた指揮官が着手したのは、守備の改善だった。ただし、「改善」と言っても、彼自身が言うとおり「整理するだけ」。当たり前のことを当たり前にこなすことができれば、タレントの能力で勝てる。つまり、“組織で守る”ことの徹底である。

昨季までのインテルに、現代サッカーに不可欠な“連動性のあるプレス”はなかった。ところが今季は、最前線でイカルディがコースを限定し、カンドレーヴァとペリシッチもその動きに合わせてポジショニングを修正する。相手のパスが入れば中盤で激しく身体を寄せ、球際の勝負を避けずに“奪う”までボールを追う。最終ラインのラインコントロールやポジショニングも巧みで、例えばサイドで1対1の状況に持ち込まれることが少ない。ボールを奪ったらシンプルにつなぎ、カウンターが有効かどうかを判断しながらボールを動かす。

キーマンは中盤の2人、フィオレンティーナからやって来たボルハ・バレロとマティアス・ベシーノだ。特にバレロはローマを指揮していた頃から獲得を熱望いていたタレントレントで、攻撃の組み立てはもちろ ん、的確なポジショニングで敵陣でのプレスをコントロールする役割も担う。彼の存在により、かねてより“誘い込む守備”と“球際の強さ”に定評のあるロベルト・ガリアルディーニの能力はさらに引き出され、中盤が引き締まったことで最終ラインへの負担が減り、守備の面白さを知った前線3人の献身性も増した。そうした組織的な守備を構築するにあたり、戦術理解力の高い長友佑都が起用されているのは当然のことだ。 守備に手応えを得て白星を先行させたチームは勢いに乗り、その強さをミランとのダービーで確立させた。

テクニカルな勝負ではミランに分があったが、相手のミスを突くカウンターで先制。カンドレーヴァのクロスとイカルディの決定力が噛み合った理想のゴールだった。同点で迎えた後半には、いい守備からペリシッチにつなぎ、ドリブルで相手をはがしてクロス。またしてもイカルディの決定力で勝ち越しゴールを奪う。インテルとは対照的なシーズン序盤を過ごしたミランも、意地のゴールで再び同点。すると終了間際、根気よく攻め続けたインテルはPKを獲得し、イカルディがこの日3つめのゴールを決めて勝利に導いた。

2点を献上した守備については、この日に限ってはいただけない。それでもライバルのミランに攻め勝ったことで、チームに「行ける」という雰囲気が充満した。続くリーグ最強の攻撃陣を誇るナポリ戦をスコアレスドローで終え、インテルの強さは“本物”にまた一歩近づいた。

今後の課題は攻撃 スパレッティの真価発揮へ

美しき“ゼロトップ”を生んだスパレッティ(左)と若き日のトッティ(右)photo/Getty Images

攻撃に関しては、まだまだチームとしての連動性が高いとは言えない。ゴールの大半を演出しているのは“個”が持つタレントであり決定力だ。従って、今後のインテルの課題は攻撃の形を作ることにある。それはつまり、元来から攻撃の構築に定評のあるスパレッティの真価の見せどころだ。

ローマ時代のスパレッティは、稀代のファンタジスタであるフランチェスコ・トッティを最前線に据える“ゼロトップ”を発明した。そこを起点とする素早いカウンター、選手同士の距離感を縮めて細かくつなぐパスワーク、両サイドに配置したドリブラーの突破力とサイドバックの攻撃参加は、それらすべてが有機的に絡むとチーム全体の攻撃力を倍増させる。

今季のインテルは守備のチーム。しかし本気でユヴェントスとナポリの牙城を崩してスクデットを狙うなら、攻撃の改善は絶対条件である。かつての輝きはなくてもイタリア国内では屈指のビッグクラブ。そこに集まった“クセ者”たちを束ね、連動する攻撃の快感を覚えさせら れるか。国内屈指の調教師たるスパレッティの見せ場は、おそらく年明けから本格的に到来する。

文/細江克弥

『ワールドサッカーキング』『ワールドサッカーグラフィック』などの編集部を経て、2009年にフリーのサッカーライター/編集者として独立。現在も本誌をはじめ、『Number』などさまざまな媒体に寄稿している。欧州からJリーグ、なでしこリーグまで、守備範囲は幅広い。

theWORLD192号 2017年11月23日配信の記事より転載

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