監督交代で息を吹き返したブラジル
ブラジルの攻撃を司るネイマール photo/Getty Images
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決勝トーナメント進出枠のひとつはブラジルで確定、残るひとつを3チームが争うという構図だ。この3チームではスイスが若干リードしている。
4年前の自国大会でドイツとの準決勝に惨敗したブラジルにとって、グループステージはあくまでも通過点。目標はやはり史上最多となる6度目の優勝だ。
自国大会で悪夢を見たブラジルは、その後も低空飛行を続けた。15年、16年のコパ・アメリカはベスト8、グループステージ敗退と散々な結果。リオ五輪では初の金メダル を獲得したが、南米予選は黒星発進となり、「サッカー王国」の威信は失墜したかと思われた。
だが、予選で2勝3分け1敗と苦しむチームは、ドゥンガからチッチに監督が代わると息を吹き返した。残る12試合を10勝2分けの快進撃。世界一過酷といわれる南米予選を、終わってみればダントツの首位で通過した。
新布陣[4-1-4-1]が機能 開催国でないが故の優位性も
ゴール前で抜群の嗅覚を発揮するジェズス photo/Getty Images
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チッチ改革の骨子はふたつ。メンバーとシステムの再編だ。まず、レギュラーの約半数を入れ替えた。これによってGKアリソン、 DFマルキーニョス、MFカゼミロ、コウチーニョ、FWフィルミーノ、ガブリ エウ・ジェズスといった新顔が台頭。顔ぶれは大きく刷新された。もうひとつは、[4-1-4-1]の新布陣に移行したこと。前線からプレッシャーをかけ、奪った瞬間に素早く攻める効率的なスタイルを植えつけることに成功した。
タレントに恵まれたチームは、タレントに頼ることなく組織としてプレイする。これが今のブラジルの強みだ。右にD・アウべス、左にマルセロが控えるブラジル伝統のサイドバックは世界最高レベルにあり、違いを生み出すネイマールというスーパースターがいる。そして待望久しいストライカーには、G・ジェズスという新 星が現われた。こうしたスター軍団を支える、マルキーニョス、カゼミロ、パウリーニョといった経験豊かな黒子たちの存在も心強い。早期敗退は、まず考えられない。
最後に好材料をもうひとつ。それは「ホームではない」ということだ。本命に推されたが、皮肉にもあまりの重圧にチームが押し潰される格好となった。あのときを思えばヨーロッパ、それも未知なるロシアでの開催は悪くないだろう。のびのびとプレイするブラジルが、久々に見られるのではないか。
組織力に定評があるスイス 右サイドからの攻撃は圧巻
シャキリの切れ味鋭いドリブルは健在だ photo/Getty Images
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さて、このブラジルとともにベスト16に進むのはどこか。最右翼にはスイスを推す。3大会連続本大会に出場し、06年大会、14年大会でベスト16に進出。前回大会からメンバーが大きく変わっておらず、相変わらず安定している。
スイスのアドバンテージは、バルカン半島や西アフリカ、さらには南米など様々なルーツを持つ才気豊かなタレントが、スイスの伝統である団結力や勤勉性を持ってプレイするところだ。天才肌が多い反面、キレやすいセルビアに比べるとまとまりがある。
注目選手は、前回大会のホンジュラス戦でハットトリックを決めたMFシャキリ。このシャキリとDFリヒトシュタイナーが組む右サイドは、スイスの大きな強みだ。センターフォワードに決め手を欠くものの、随所に経験豊かな人材がいるため、大崩れすることはないだろう。
スイスでひとつ気になるとすれば、初戦の相手が本命ブラジルだということ。78年大会の引き分けを最後に9大会初戦に勝ち続けているブラジルは、初戦に滅法強い。わずか3試合のグループステージ、初戦に負けると挽回するのは容易ではない。ブラジルから勝点を取るのは至難の業。だが初戦に引き分けると、視界は大きく開けるということだ。文字通り、入り方が重要になる。
コスタリカ&セルビアの 苦戦は必至
トロビッチのポストプレイに期待がかかる photo/Getty Images
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さて、スイスの牙城を脅かすのはコスタリカかセルビアか。前回大会、優勝経験国だらけの“死の組”を勝ち上がり、ベスト8に躍進したコスタリカだが、ロシアではブラジルの再現は期待できない。
というのも前回大会の躍進は、祖国と同じ高温多湿の中でプレイできたことが大きかったからだ。大国が疲弊する一方、重圧のないコスタリカは元気いっぱいだった。だが今回は、“ジャングル”の恩恵は期待できない。前回大会に奏功した[5-4-1]の布陣は健在で、4年前を知る選手も数多く残るが、多くを望むのは酷だろう。いつもの“小粒なコスタリカ”に戻ってしまうのではないか。
スイスのライバルは、コスタリカよりむしろセルビアだろう。爆発力はスイス以上。マンチェスター・ユナイテッドで活躍する“左足のアーティス ト”マティッチを筆頭に、予選4ゴール7アシストのタディッチ、同6ゴールのエース、ミトロビッチなど随所に危険なタレントを擁している。
もっともタレントが出てくる反面、セルビアには持続性を欠くという悪しき伝統がある。ピッチ内では悪いときに踏ん張り切れず、ピッチ外では内紛に事欠かないのだ。
予選では1位通過を果たしたが、終盤戦の内容の悪さからムスリン監督を解任。その後、混迷の様相を深めている。日本でもお馴染みのストイコビッチに触手を伸ばしたが招聘には至らず、11月のアジア遠征ではクルスタイッチ暫定監督が指揮を執った。後任が決まらないまま、ワールドカップイヤーを迎える可能性がある。監督人事が難航すれば、ロシアでは悪い方のセルビアが顔を出すのではないか。
文/熊崎 敬
スポーツライター。サッカー専門誌編集者を経てフリーランスとなる。欧州はもちろん南米サッカーもこよなく愛し、コパ・アメリカなども現地へ飛び取材を重ねる。著書には「日本サッカーはなぜシュートを撃たないのか?」「JAPANサッカーに明日はあるか」(ともに文春文庫)など。
theWORLD193号 2017年12月23日配信の記事より転載