名良橋晃の定点観測♯41「日本サッカーの良さは、これまでもこれからも“組織力”にある」
選手自身が柔軟に考えて、現状にプラスアルファを!
E-1選手権を戦った選手たちは、もっと自己表現をしてもよかった。Photo/Getty Images
2018年のサッカー界最大のイベントは、なんといってもロシアW杯です。4年前のブラジルW杯がグループリーグ1分け2敗という悔しい結果に終わっているだけに、雪辱を期す日本代表がどんな戦いを見せてくれるか非常に楽しみにしています。
そうしたなか、昨年12月に開催されたE-1選手権は各方面でいろいろなことを指摘されています。私が一番に思うのは、開催国として優勝を逃したのは残念だったということです。国内でプレイする選手たち(クラブW杯に出場した浦和の選手、ケガをしている選手は不参加)で臨んだわけですが、全体の戦い方が意志統一されておらず、初戦の北朝鮮戦から苦戦の連続でした。
選手たちが置かれた状況を考えると、確かに難しかったと思います。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が指向するスタイルがあるなか、「W杯を戦うメンバーに入りたい」という強い気持ちもあることで、違うスタイルを出してしまうと選ばれないという不安を感じていたのかもしれません。本来は結果を求めて戦わないといけないのに、スタイルを遂行することに意識が引っ張られて自己表現が足りていないと感じました。
個々の選手がそれぞれプレイしていて、チームとしてのまとまり、組織力があまり感じられませんでした。ハリルホジッチ監督が求めるスタイルを遂行しつつ、もっと臨機応変にプレイして良いと思います。いろいろな状況に対応できる柔軟性がないと、ブラジルW杯と同じ結果を招く恐れがあります。
こうした印象はE-1選手権ではじめて感じたわけではなく、W杯アジア予選などを通じて散見され、私は常々指摘してきました。いまの代表は、ハリルホジッチ監督が要求するサッカーができていないように思われますが、だからといってもう監督についてどうこう言っている時期ではありません。本番までの強化日数を考えると監督を変えても修正する時間はなく、ハリルホジッチ監督でロシアW杯を戦うことを前提に考えたほうが賢明です。
では、どうするべきか? ハリルホジッチ監督が指向するスタイルをベースに、プラスアルファを選手たち自身で出してほしいです。
日本サッカーの良さは、これまでもこれからも“組織力”です。“個”の力にはどうしても限界があります。ピッチでは机の上で考えた以上のことが起こるのが当たり前で、ひとつのスタンスを持ちながらも、試合のなかで選手たちが柔軟に判断し、多少の変化をつけていかないと戦えません。ハリルホジッチ監督は各選手が1対1の競り合いに強くなることをベースに強化していますが、そこには全体に限界があります。組織力というプラスアルファがないと、世界の列強国を相手にしたときには絶対に勝てないと私は考えています。
対戦相手は格上ばかり。初戦で必ず勝点がほしい
W杯まであと半年。ハリルのスタイルに、プラスアルファがほしい。Photo/Getty Images
ロシアW杯のグループリーグで対戦する3か国、コロンビア、セネガル、ポーランドはそれぞれ異なる特徴があり、間違いなく日本よりも格上です。このなかで上位2チームとなって決勝トーナメントに進出するためには、コロンビアとの初戦でなんとしても勝点が必要です。過去にグループリーグを勝ち上がった2002年日韓大会、2010年南アフリカ大会では、いずれも初戦で勝点を得ています。最低でも勝点1をもぎ取り、2戦目、3戦目へ繋げたいところです。
とはいえ、コロンビアは4年前と中心選手が大きく変化しておらず、個々の能力、組織力ともに非常に高いです。前線にはラダメル・ファルカオ、カルロス・バッカ。中盤にはハメス・ロドリゲス、ファン・ギジェルモ・クアドラード……。技術力が高い選手、スピードがある選手がいて、どう押さえるかが鍵になってきます。ボールの奪いどころを明確にして、各選手が連動して組織的に対応しないと4年前の二の舞になる可能性があります。
ハリルホジッチ監督は相手の特徴を消すのがうまいですが、コロンビアのホセ・ペケルマン監督も経験豊富な指揮官であり、日本が考える以上の戦いを仕掛けてくるでしょう。一方で、勝ち上がりを考えて7~8割の力で対応してくる可能性もあります。W杯の戦い方、相手との駆け引きという面において、コロンビアには状況に応じて判断する“文化”が根付いているからです。
私がこうしたことを実感したのは、1998年フランスW杯でした。アルゼンチンとの初戦に向けて入念に分析していましたが、本番で対戦した彼らはプレイ強度が違い、明らかに勝ち上がった先を見据えていました。リスクを犯さずに1点を取ると、その後は要所を締めて1-0でOKという戦いをしてきたのです。
日本にはそうしたサッカー文化はまだ根付いていません。一試合一試合に集中し、訪れるだろう数少ない決定機を確実にゴールへ結びつけなければなりません。そう考えると、やはり経験がある選手、勝負強い選手の力が必要になってきます。
香川真司、岡崎慎司、本田圭佑。昨年11月の欧州遠征に参加しなかったこの3名はハリルホジッチ監督から一定の信頼を得ており、メンバーに入ってくる可能性が高いです。無論、所属クラブでコンスタントに出場し、コンディションを維持していることが条件ですが、この部分に関しては他の選手も同じです。たとえば高いモチベーションを持って移籍した井手口陽介にも、リーズ(イングランド)からレンタルされたクルトゥラル・レオネサ(スペイン)でしっかりと試合出場を重ねてほしいです。
もうひとり、とても気になる選手がいます。鹿島に戻ってきた内田篤人にも代表入りの可能性が十分にあります。彼が積み重ねてきた経験を考えれば、先発うんぬんではなく、存在意義という面でハリルホジッチ監督も期待しているでしょう。鹿島は現在、右SBのレギュラーである西大伍が負傷しており、内田には出場チャンスがあります。コンスタントな活躍を続けることができれば、ぎりぎり間に合うかもしれません。
構成/飯塚健司
theWORLD194号 2018年1月23日配信の記事より転載