【特集/CLラウンド16プレビュー#1】堅守vs破壊力 カギを握るは主力の復活 ユーヴェ×トッテナム
真のユーヴェはシーズン後半にあり
チームのベストを試行錯誤するアッレグリ監督。今季こそ悲願の欧州制覇なるか photo/Getty Images
ユヴェントスを率いるマッシミリアーノ・アッレグリにとって、シーズン前半戦の“イマイチ感”はおそらく想定内である。元ドイツ代表主将のローター・マテウスは言った。
「ユヴェントスには以前の強さがない。守備面で失ったものが大きく、ボヌッチとダニエウ・アウベスが抜けた穴は大きい。ブッフォンには以前のような俊敏さがない。これは、トッテナムのケインやポチェッティーノ監督にとってプラスに作用するだろう」
しかしこの見解は、ユヴェントスというクラブの本質を見誤っている。ユヴェントスは前人未到のセリエA6連覇を成し遂げる間に、多くの主力級を失った。カルロス・テベス、アンドレア・ピルロ、ポール・ポグバ、アルトゥーロ・ビダル。それでもリーグ6連覇を成し遂げ、近年のチャンピオンズリーグで2度も決勝に進出した強さには理由がある。
ユヴェントスはスロースターターだ。特にアッレグリ体制下ではその特徴が顕著で、昨シーズンも前半戦は現有戦力における“ベスト”を試行錯誤する時間が続いた。結果こそ残し首位に立ち続けたものの、内容的な完成度はシーズン後半の60%程度。1月後半に[4-2-3-1]という戦術的な回答を見つけ、そこから快進撃を見せてチャンピオンズリーグ決勝に駒を進めた。シーズン前半と後半は、まさに別のチームのようだった。
今季もその傾向は見られる。ボヌッチとD・アウベスを失った最終ラインは“調整”に時間を要したが、メフディ・ベナティアは安定した出場機会を得てハイパフォーマンスを見せている。アンドレア・バルザーリとジョルジョ・キエッリーニは36歳、33歳と大ベテランの域に達しているが、ここ一番の集中力は特筆に値する。層の薄さは懸念材料だが、チーム全体としての守備力はやはり高い。
シーズン前半戦は序盤にゴールから遠のいたゴンサロ・イグアイン。10月あたりから指摘され、ケガで離脱しているパウロ・ディバラと攻撃の2本柱が安定感を欠いたが、アッレグリはその期間を利用して中核を担う選手たちの連係を高めることに成功した。司令塔ミラレム・ピャニッチのコンディションは昨シーズンよりも明らかに良く、サイドでも1トップでも機能するマリオ・マンジュキッチのユーティリティぶりは健在。ドウグラス・コスタとフェデリコ・ベルナルデスキ、ブレイズ・マテュイディの新戦力3人組は、指揮官の狙いどおり半年間をかけてチームに溶け込んだ。つまり、ユヴェントスの本領はシーズン後半にこそ発揮される。マテウスの見立ては正しくない。
強力な攻撃陣 破壊力抜群のトッテナム
トッテナム成長させるポチェッティーノ。柔軟な戦術でユーヴェ撃破を狙う photo/Getty Images
もっとも、トッテナムはユヴェントスにとってイヤな相手である。マンチェスター・シティが独走するプレミアリーグでは5位に甘んじているが、“ハマった時”の破壊力はリーグ屈指。4年目に突入したマウリシオ・ポチェッティーノ体制は、着実な右肩上がりの成長曲線を描いている印象だ。
プレミアリーグ制覇にあと一歩と迫った昨季、チャンピオンズリーグでは経験不足を露呈してグループリーグ敗退を強いられた。しかし今シーズンは様子が異なる。“勝つサッカー”に徹しようとするポチェッティーノは相手や状況に応じて戦術を柔軟に変え、グループリーグではレアル・マドリードとドルトムントに競り勝って1位通過。「相手に持たせてカウンター」を徹底したドルトムント戦の勝利は、今シーズンのチームのステップアップを予感させた。
基本システムは[4-2-3-1]だが、3バックを併用するなど幅も広がっている。フィニッシュを構成するハリー・ケインには今や世界最高レベルの決定力があり、左サイドのソン・フンミンも右サイドのクリスティアン・エリクセンも絶好調。“違い”を生み出せるデル・アリはややコンディションを落としている印象だが、前線4枚の破壊力は特筆に値する。
負傷離脱中の2人が試合のキーマン!?
試合のキーマンとなりそうなディバラ(左)とアルデルヴァイレルト(右)photo/Getty Images
トッテナムの不安要素は守備にある。最大の懸念は、11月から離脱が続いている絶対的な主力、トビー・アルデルヴァイレルトのコンディションである。コンビを組むヤン・ヴェルトンゲンも、アルデルヴァイレルトがいるといないとでは“仕事量”が違う。1月中に復帰の見込みも立っているようだが、第1戦にフルコンディションで臨めるかどうかは大きなポイントとなりそうだ。もちろん、そのことはディバラの復帰がギリギリと見られるユヴェントスにも言える。
仮にディバラが出場すれば、ホームかアウェイかに関わらずキープ力に勝るユヴェントスが主導権を握るだろう。しかしその展開はトッテナムにとって望むところで、ケインが2列目に下り、ソン・フンミンが最前線に位置する“カウンター陣形”でゴールを狙うシーンが増えそうだ。このプランにハメられてしまうと、ユヴェントスは苦しい。スピード勝負を避ける組織的な守備の構築が必要となる。
トッテナムが避けたいのは、遅攻に際してケインを孤立させてしまうことだ。ユヴェントスのプレッシャーに対して“放り込むボール”が増えると、ケインの能力を引き出せない。
いずれにしても、ユヴェントスはディバラ、トッテナムはアルデルヴァイレルトがベストコンディションで出場できるか否かでサッカーの質が変わってくる。流れを作りたい第1戦では、両指揮官がスタメン表を見て、どのようなリアクションを取るかに注目したい。
文/細江克弥
『ワールドサッカーキング』『ワールドサッカーグラフィック』などの編集部を経て、2009年にフリーのサッカーライター/編集者として独立。現在も本 誌をはじめ、『Number』などさまざまな媒体に寄稿している。欧州からJリーグ、なでしこリーグまで、守備範囲は幅広い。
theWORLD194号 2018年1月23日配信の記事より転載