【特集/CLラウンド16プレビュー#2】10%のチャレンジ 欧州最強軍団を抑え込むシナリオ バーゼル×マンC
徹底的な守備戦術からチャンスを掴め
今季公式戦わずか2敗。圧倒的な力を見せつけるマンCは文句なしの優勝候補だ photo/Getty Images
ベスト8ではどのクラブと対戦することになるのだろうか。決勝トーナメント1回戦でスイスのバーゼルと対戦するマンチェスター・シティのサポーターはすでに次のラウンドのことを考えているかもしれない。それほどバーゼルとの対戦はマンCにとって嬉しいカードであり、今季のパフォーマンスを見ればマンCがバーゼルに敗れる姿は想像しづらいものがある。
しかし勝負に絶対は存在しない。リーグ戦のような長期の戦いでは歯が立たなくとも、2試合だけならバーゼルにもサプライズを起こすチャンスはある。では、バーゼルがマンC相手にサプライズを起こすにはどうすればいいのか。その僅かな可能性はどこにあるのだろうか。
まず、試合展開を予想するのは簡単だ。ホーム、アウェイの戦いに関係なくマンCがボールを支配し、60%以上のポゼッション率を保ちながらゲームを進めるだろう。しかし、バーゼルはこのような展開に慣れている。バーゼルは自分たちの実力を客観的に分析できており、マンチェスター・ユナイテッド、ベンフィカ、CSKAモスクワと同居したグループステージでも実に謙虚な戦い方を見せてきた。相手にボールを支配されることは予想の範囲内であり、まずは守備をしっかり整備するところからゲームに入っている。その証拠に、バーゼルはグループステージの6試合で1度もポゼッション率で上回ったことがない。
バランタ(右)、スヒーなどを中心に据えた守備組織はバーゼルの強み photo/Getty Images
システムもチャンピオンズリーグ仕様のものを用意しており、国内リーグでは4バック、チャンピオンズリーグでは3バックを使用してきた。この3バックも守備時には11人全員が自陣まで戻り、[5-4-1]の形になって守りを固めるところから流れを作っていく。
身体能力に優れるマヌエル・アカンジ、エデル・アルバレス・バランタ、最終ラインを統率するマレク・スヒーの3人で構成される3バックは安定感もあり、全体もコンパクトだ。ボールを奪えばスピードのあるモハメド・エルユヌシ、レナト・シュテフェン(ヴォルフスブルクへ移籍)、さらにグループステージで4得点を挙げる活躍を見せた20歳のディミトリ・オベルリンを走らせ、カウンターからチャンスを狙っていくパターンがほとんどだった。
カウンターに移行できない場合はシンプルにロングボールを前線に放り込むケースも多く、戦い方がはっきりしていて迷いがない。残念ながらセンターバックを務めてきたアカンジはドルトムントへの移籍が決定したが、マンCとの力量差やグループステージでの成功を考えると3バックを継続したいところだ。
ヒントとなるのは12月のニューカッスル戦
12月のニューカッスル戦では、中央を固められ苦戦を強いられた photo/Getty Images
問題は、グループステージで4度クリーンシートを達成した3バックの守備が欧州屈指の攻撃力を誇るマンCにも通用するのかどうかだ。グループステージでマンUをも撃破したことはバーゼルに自信を与えているだろうが、マンCの組織的な攻撃はグループステージで体験してきたものとは大きく異なる。これまでと同じイメージで臨めばあっさり崩されてしまう可能性が高い。
ヒントになるのは、マンCが得点を奪うのに苦労させられた2017年12月27日のニューカッスル戦だ。この試合はマンCが1‐0で勝利したが、ニューカッスルを指揮するラファエル・ベニテス監督は徹底的に守備を固める戦術を選んできた。
守備時のシステムはバーゼルと同じ[5-4-1]になっており、今季のマンCは何度か守備を固める相手を崩すことに苦労している。バーゼルもこれをヒントにすべきだろう。ニューカッスルの[5-4-1]はシステムこそ同じだが、バーゼルとはやり方が少し異なる。ニューカッスルは中盤の4枚が徹底的に中を固め、中央への縦パスを封じる策を取っていた。バーゼルの場合は両サイドにエルユヌシやブアなどウイングの選手を配しているため、中を固める意識はニューカッスルほど高くない。バーゼルもマンCと戦う際はウイングの選手にも中へ絞る意識を強く持たせるべきだろう。中央をマンCに使わせないことが勝利への最低条件となる。
何よりマンCの攻撃で厄介なのは、ケビン・デ・ブライネやダビド・シルバらインサイドハーフの選手がサイドバックとセンターバックの間にフリーランを仕掛けてくる動きだ。マンCはレロイ・サネ、ラヒーム・スターリングの両ウイングにボールが入った際に必ず中盤の選手がフリーランを仕掛けてくる。この動きをどう管理するのかをバーゼルははっきりさせなければならない。それこそボランチの選手がデ・ブライネらの飛び出しに引っ張られて最終ラインに吸収されてしまえば、マンCは空いた中央を突いてくる。これは最も恐ろしいシナリオだ。バーゼルは守備時にダブルボランチのルカ・ズッフィ、タウラント・ジャカが孤立してしまうケースが何度かあったが、マンCと対戦する場合はこうしたスペースを埋めるためにウイングの選手も中への意識を強く持っておくべきだ。
ディミトリ・オベルリンのスピードはカウンターで威力を発揮する photo/Getty Images
そうして中央を固められると、マンCは積極的なサイドチェンジなどを多用してスターリングとサネが1対1を仕掛けられる環境を作り出してくる。簡単ではないが、サイドの1対1で負けないことも大きなポイントだ。特に今季はスターリングとサネの得点力が増しており、バーゼルのウイングバックは2試合を通して神経を使うことになるだろう。
バーゼルが勝利するには、とにかく失点を少なくすることが絶対条件だ。マンC相手に打ち合いを挑むのは無理があるだろう。限りなく難しいミッションだが、180分間を無失点で凌ぐくらいのパフォーマンスが必要だ。0‐0の時間を長く保つことができれば、バーゼルにも必ずチャンスは訪れる。3-4で敗れた1月14日のリヴァプール戦もそうだが、マンCの最終ラインは盤石とは言い難い。単純なロングボールへの処理に苦労することもあり、オベルリンやエルユヌシらスピードスターを最終ラインの裏へ走り込ませればチャンスを作ることも可能だろう。
単純に両チームの実力を比較すれば、バーゼルがベスト8に進む確率はせいぜい10%といったところだろう。それほど今季のマンCは強い。しかしバーゼルも攻守のバランスが取れた好チームで、しっかりと対策を練ればロースコアの展開に持ち込むことは決して不可能ではない。今季のベスト16最大のサプライズはここにある。バーゼルが挑む10%のチャレンジを見逃すべきではない。
文/冨田 崇晃(theWORLD)
theWORLD194号 2018年1月23日配信の記事より転載