レアルに求められる“スペースの管理”
国内リーグで低迷中のレアルの面々 photo/Getty Images
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サンティアゴ・ベルナベウに好調のパリ・サンジェルマン(以下PSG)を迎えるレアル・マドリードにとって、ネイマールを止められるかどうかが試合の行方を左右する大きな課題だろう。ただ、ネイマールに本来のプレイをさせないことはそれほど難しくないと思う。
マルセイユはホームでPSGと対戦した“ル・クラシック”(リーグ・アン第10節)で、ネイマールをほぼ抑え込んでいた。厳しいマークに苛立ったネイマールはイエローカード2枚で退場になっている。酒井宏樹やF・トヴァンなどから監視され続けたネイマールはほとんど試合から消えていた。
PSGの3トップ(ムバッペ、カバーニ、ネイマールによる“MCN”)は確かに強力である。しかし1対1の場面ではまずドリブルで仕掛けようとするので、ボールホルダーに近い3選手ほどでスペースを限定すれば結構な割合で引っかけられるのだ。特にスローダウンした時のネイマールは、相手のDFとMFの間でパスを受けてからドリブルで剥がしにかかるのだが、そこを狙っていけばレアルの守備陣なら十分ボールを奪えるのではないか。
とてつもない重圧に晒されているネイマール
精神力の強さが求められているネイマール photo/Getty Images
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今季のネイマールには多大なプレッシャーがかかっている。周知のとおりPSGはカタール投資庁がオーナー企業であり、重要な意思決定を行っているのはカタール政府だ。カタールはエネルギー頼みからの脱却を図る手段としてスポーツ振興を考えていて、2022年ワールドカップを起爆剤にスポーツ立国化を目指してすでに莫大な国家予算を投入している。史上空前の移籍金額だったネイマールのバルセロナからの引き抜きも、予算のごくごく一部、コンマ数パーセントにすぎない。ネイマールはカタール・ワールドカップの顔として起用される。
PSGのエメリ監督にはその点で選択肢がない。ネイマールを大活躍させて悲願のCL優勝を成し遂げ、できればネイマールにバロンドールを獲らせる。そのシナリオ以外はないと思う。戦術的な引き出しの多い監督だが、ネイマールありきのチーム作りしか許されていないはずだ。もちろんCLを獲るにはスーパースターが必要で、ネイマールの加入はズバリなのだが、あまりの特別扱いにチーム内ではかなり違和感を持たれているようだ。練習で激しく当たってはいけないという契約条項まであると言われている。開幕当初はカバーニとひと悶着あった。その後は落ち着いて上手くやっているが、ネイマール自身への有形無形のプレッシャーは計り知れない。日本代表との親善試合の時の会見では、チッチ監督(ブラジル代表)に同情されて涙をみせていた。かなり精神的に不安定な状態と言って良い。
マルセイユとの一戦で受けた2枚目のイエローカードは相手選手への暴行だった。もともと大試合には強いタイプのはずなのだが、精神的な疲労感があるのかもしれない。ここに来て、ネイマールのレアルへの移籍が取りざたされているのも気になる。かつてレアルが獲得寸前までいったのは事実であり、ペレス会長はC・ロナウドとの交換でネイマールを獲得する意向があるとも報道されている。ただ、常識的に考えればすでにカタールのプロジェクトに組み込まれているネイマールがPSGから移籍するとは思えない。レアルへの移籍報道はネイマールとPSGへの揺さぶりが目的なのではないか。
ネイマールの“完全消去”は絶望的 気になるロナウドのコンディション
大一番でジダン監督の采配が冴えわたるか photo/Getty Images
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ピッチ内外でプレッシャーをかけ続ければ、ネイマールを試合からほぼ消し去ることは可能だろう。ただ、完全に消滅させることはおそらくできない。
マルセイユとの一戦でも、ほぼ消えていて最後はレッドカードで本当にピッチから消えてしまったネイマールだが、前半には1-1に追いつくゴールを決めているのだ。この試合でネイマールがやったことはほぼこれだけだったが、何はともあれ1点は入れている。ほんの一瞬、たったひとつのプレイで試合を決めてしまう力を持っている。だからスーパースターなのであって、レアルといえどもネイマールを完全に消し去れる保証は何もないのだ。
ネイマールやメッシのようなスーパースターを擁するチームと対戦する時は、スターを抑えるだけでは勝負できない。ネイマールを抑え込んだところで、ムバッペもいればカバーニもいる。レアルは逆の問いを突きつけなければならない。つまり、「ロナウドを止められるのか」という問いだ。
ところが、今回はもうそれができそうにないのがレアルの辛いところである。ロナウドはすでに自ら止まってしまっているからだ。運動量をセーブしてゴール前に専念し、次々と重要な得点を叩き出してきた昨季のロナウドはもういない。今季のロナウドは決定機を外し続けるエースになってしまった。ジダン監督はエースの復活を待つのか、それともアセンシオに望みを託すのか、難しい決断を迫られそうだ。
アウェイでの1stレグ、エメリ監督は慎重を期すと思う。がっちり引いて守り、ネイマール、ムバッペのスピードを活かしたカウンター狙いだ。切り札のないレアルを攻めさせ、空いたスペースでこちらの切り札を勝負させる。これがハマれば、ホームの2ndレグも同じで良い。レアルにはここ一発の強さがある。これまで何度も修羅場をくぐり抜けてきた経験もある。本気を出したときのレアルの面々のインテンシティと技巧は、フランス・リーグ・アンでは全くお目にかかれないレベルだ。PSGが圧倒されてしまえば簡単に勝負がつく可能性もある。この一戦はどちらにも転びうる試合だ。
文/西部 謙司
1995年から98年までパリに在住し、サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスとして活動。主にヨーロッパサッカーを中心に取材する。「フットボリスタ」などにコラムを寄稿し、「ゴールへのルート」(Gakken)、「戦術リストランテⅣ」(ソル・メディア)など著書多数。Twitterアカウント:@kenji_nishibe
theWORLD194号 2018年1月23日配信の記事より転載