近年プレミアリーグのクラブはチャンピオンズリーグで結果を出せないシーズンが続いていた。昨季はレスター・シティが唯一ベスト8に進出しただけで、2015-16シーズンもベスト8以上に駒を進めたのはマンチェスター・シティだけだ。優勝は全く現実味のない話で、チャンピオンズリーグはすっかりスペイン勢に支配されてしまっていた。
ところが、今季はマンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、リヴァプール、トッテナム、チェルシーと5チームすべてが決勝トーナメントに進出。まだ1回戦1stレグが終わっただけだが、マンCはアウェイでバーゼルを4‐0、リヴァプールもポルトをアウェイで5‐0で粉砕するなど、ベスト8入りがほぼ確実になっているチームもある。何より1stレグで負けたチームが1つもなく、全チームをベスト8に送り込む可能性も十分に考えられる。今季のチャンピオンズリーグではプレミアリーグ勢が主役になっていると言ってもいいだろう。
では、なぜ今季はプレミアリーグのクラブが結果を残せているのか。もちろん補強の影響も大きい。特にマンチェスターの両クラブは潤沢な資金を武器にトッププレイヤーを買い、優勝候補と呼ばれるほどの陣容を揃えている。これもチャンピオンズリーグで結果が出ている理由だろう。しかし、補強だけが全てではない。時代が巡り、再びプレミアリーグの文化に合うスタイルがサッカー界のトレンドになりつつあるのだ。
思えばスペイン勢が欧州の舞台を支配するようになったのは2008-09シーズンあたりからだ。当時はマンU、リヴァプール、アーセナル、チェルシーのBIG4と呼ばれるクラブが欧州で結果を出し、このシーズンもベスト4にアーセナル、チェルシー、マンUの3クラブを送り込んでいる。ところが、決勝ではジョゼップ・グアルディオラ率いるバルセロナにマンUが完敗。このシーズンを機に世界はポゼッションスタイルが主流となった。チャンピオンズリーグだけでなくヨーロッパリーグでもスペイン勢が結果を出すようになり、圧倒的なテクニックを武器にゲームを支配するやり方こそ成功の秘訣となっていった。
これによってプレミア勢の存在感が薄くなっていったのだが、ここへきて再びトレンドが変わりつつある。近年はただポゼッションするだけでなく、攻守の切り替え速度を極限まで高めるやり方が主流となりつつある。日本代表を指揮するヴァイッド・ハリルホジッチ監督も縦に速い展開を好んでいるが、現在グアルディオラが率いるマンCもカウンターアタックが1つの脅威となっている。中盤の選手には正確にパスを繋ぐ能力はもちろん、早い段階で相手を潰して速攻へ繋げる能力も求められている。ポゼッションと速攻をブレンドさせたスタイルこそ現代のカギなのだ。
これがプレミアのチームに合っている。前述したマンCでは中盤の底に位置するフェルナンジーニョの存在が大きく、ケビン・デ・ブライネもカウンターに対応できるMFだ。ラヒーム・スターリング、レロイ・サネとスピードスターも揃っており、ポゼッションと速攻の両面に強みを持っている。リヴァプールではサディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ、モハメド・サラーのトリオに注目が集まるが、5‐0で勝利したポルト戦でもジェイムズ・ミルナー、ジョーダン・ヘンダーソン、ジョルジニオ・ワイナルドゥムのMF3枚が中盤で守備に奔走して速攻へ繋げていたことも見逃せない。
グループステージでレアル、ドルトムントを撃破したトッテナムはアンカーにセンターバックも務められるほど守備力の高いエリック・ダイアーが構え、デル・アリとクリスティアン・エリクセンもポゼッション、速攻の両面に対応できるMFだ。チェルシーにも世界屈指のボールハンターであるエンゴロ・カンテがおり、マンUにもネマニャ・マティッチ、今季ブレイクしているスコット・マクトミネイと守備をこなせる選手がいる。プレミア勢は中盤で相手を潰す能力において世界トップレベルなのだ。縦に速い攻撃もプレミアが得意としていたパターンで、現在の流れはプレミアの文化に合っている。しかもプレミア勢も近年欧州の舞台で結果が出せなかったことから、スペイン勢をモデルに近代化を進めてきた。そのため最終ラインから正確にビルドアップすることも当たり前となってきており、相手のプレスを回避する術も身につけている。グアルディオラがいるマンCはもちろん、トッテナムにもヤン・ヴェルトンゲンのような繋げるセンターバックがいる。
一方、バイエルンを除けば今季はドイツ勢に元気がない。ドルトムントとライプツィヒは揃ってグループステージで敗退し、ヨーロッパリーグでもホッフェンハイム、ケルン、ヘルタ・ベルリンと全滅した。ドイツのチームも最終ラインから前線までテクニックのある選手を揃えているが、彼らは中盤の守備力に疑問がある。例えばドルトムントも中盤にテクニシャンを多数抱えているが、カンテやダイアーのように中盤で相手を強引に潰せる選手が欠けている。中盤の構成が攻撃的すぎることも今季失敗した1つの理由と言えるのではないだろうか。
現代の中盤には相手のプレスをいなす技術はもちろん、運動量に加えてハードな守備もこなせるパーフェクトプレイヤーが求められる傾向にある。カンテやフェルナンジーニョはその代表格と言える選手で、派手さはないが弱点が少ない。プレスをかわす最低限の技術があり、運動量とボール奪取力は世界トップクラスだ。こうした選手を1枚は抱えていることがプレミアの強さの理由だ。
元リヴァプールDFジェイミー・キャラガー氏は、以前プレミアの選手独特の恐怖をも感じさせる激しい守備を武器に戦った方が欧州の舞台で結果を出せるのではと提案していたが、それが今のサッカー界で再び求められるようになってきている。そう考えれば、昨季堅守速攻を武器にレスターがベスト8の結果を出せたことも頷ける。資金力を武器とした豪華な補強、トレンドに合う文化の両方が組み合わさり、プレミアが再び欧州支配を実現しようとしている。