名良橋晃の定点観測♯43「久保だけじゃない。中村、菅原、立田などJ1で10代が躍動中」
久保と永井に感じる相思相愛の雰囲気
FC東京の久保はルヴァン杯の新潟戦で得点し、“やれる”ことを改めて証明した。Photo/Getty Images
今シーズンのJ1は10代の選手たちが躍動しています。すでに違和感なくチームにフィットしている若手がいれば、これからどんどん良くなっていくだろう大きな可能性を持った若手も多いです。
FC東京の久保建英(16歳)はルヴァン杯グループリーグ第2節の新潟戦でゴールを奪いました。長谷川健太監督を招聘したFC東京は安定した守備力を誇る一方で、攻撃に関してはどうやって崩すのかまだカタチが見えてきません。そうしたなか久保はリーグ戦ではおもに途中出場し、J1のなかで普通にプレイしています。まわりの選手も信頼してパスを出すし、リターンを受けるために走ってもいます。こうした事実も踏まえると、リーグ戦でのスタメン起用も十分に考えられます。
ただ、たしかに攻撃に変化をつけられる存在ですが、10代の若手にすべてを任せるのはどうでしょうか? 大きなプレッシャーがかかることになり、本来のプレイをできなくなる可能性があります。大事なのはチームとしてどう良さを引き出すかで、そのための雰囲気作りも必要です。久保の能力をチームのなかでどう生かすかが今後のポイントになってくると思います。
FC東京を取材するなかで、私は永井謙佑と相性がいいのではないかと感じています。久保は視野が広く、いろんなパスコースを見ています。一方、永井はスピードがあり、相手最終ラインの裏を常に狙っています。かつて浦和レッズに存在したウーベ・バインと岡野雅行のコンビのように、久保が鋭いパスを出して永井が受けるというパターンの構築がひとつ考えられます。
実際、ルヴァン杯の新潟戦の後半になって2人が同時にピッチに立ったときに、久保から永井へ1本良いパスが出ました。このときは永井が受けることができずチャンスになりませんでしたが、お互いのタイミングが合ってくれば、というプレイでした。その印象が強く残っているので、私は2人の連携も含めて、FC東京がどう攻撃のカタチを作っていくのか注目しています。
ガンバ大阪の中村敬斗(17歳)もルヴァン杯の浦和戦でゴールを決めました。ボールをキープできて前に運べるタイプで、相手のプレスをはがすことができます。第2節鹿島アントラーズ戦でもチャンスを作っていたし、U-17代表でもゴールするなど活躍が目立ちます。G大阪は高卒ルーキーの福田湧矢(18歳)も試合出場を続けていて、レヴィー・クルピ監督のもと若い選手たちが積極的に起用されています。経験豊富な選手が多いチームのなかで、彼らがどうチームの勝利に貢献していくか非常に楽しみです。
名古屋グランパスのCB菅原由勢(17歳)、清水エスパルスの右SB立田悠悟(19歳)も開幕戦からピッチに立ち、躍動しています。立田はもともとCBですが右SBに抜擢されて結果を残し続けていて、第2節ヴィッセル神戸戦では強引な突破を仕掛け、難しい角度からのシュートを決めてゴールを奪っています。また、清水といえば左SBに私のお気に入りの松原后がいますが、彼も21歳であり、こうした若い選手たちの活躍によって清水は好調を維持しています。
浦和の荻原拓也(18歳)もルヴァン杯の名古屋戦で2得点し、強烈なインパクトを残しました。左利きで縦へ抜け出すスピードがあり、良いキックを持っています。第3節を終えた現時点ではまだリーグ戦での出場はありませんが、あまり良いとはいえないチーム状態を考えるとチャンスがまわってくる可能性が十分にあります。
また、湘南ベルマーレの齊藤未月(19歳)も数年前から試合に出場し、着実に経験を積んでいます。縦へのスピードがあり、迷いのないフィニッシュをみせる選手で、曺貴裁監督のもとより成長するのは間違いありません。
J2水戸の躍進を支えるのはレンタルされた選手たち
岸本(中央)はC大阪から出場機会を求めて水戸へレンタル移籍し、主力となっている。Photo/Getty Images
J2でも若い選手たちが躍動していて、たとえば水戸ホーリーホックでは岸本武流(20歳)、黒川敦史(20歳)、小島幹敏(21歳)、伊藤涼太郎(20歳)などが長谷部茂利監督によってピッチに送り出され、それぞれ迷いのない動き、プレイでチームに勝利をもたらしています。岸本はセレッソ大阪、黒川と小島は大宮アルディージャ、伊藤は浦和からのレンタルで、各選手が元所属のチームではなかなか得られなかった実戦経験を積むことができています。
浦和からレノファ山口へレンタル中のオナイウ阿道(22歳)もそうですが、私の持論として、若い選手はどんどん試合に出たほうがいいというのがあります。練習ももちろん大事ですが、選手の成長をうながしてくれるのはやはり試合です。実際の戦いのなかでどのようなことが起こり、どう判断しなければならないか。勝負勘、柔軟な対応力などは試合経験を積むことで磨かれていくので、現在の所属チームで出場機会のない若手が、プレイするチャンスを求めて移籍するのは良いことだと思っています。
もうひとり、ファジアーノ岡山の阿部海大(18歳)も高卒ルーキーながら開幕戦に抜擢されて安定感のあるパフォーマンスをみせ、その後しっかりとCBのポジションを獲得しています。第2節栃木SC戦ではゴール前に攻撃参加して左足シュートでゴールも奪っており、さらなる活躍が期待できる選手です。
このように今シーズンは若い選手たちのエネルギッシュな活躍が目立ちます。2020年東京五輪がひとつの目標となって積極的に強化が行われているのは間違いないと思いますが、短期間でこれだけの効果が出るはずもなく、もちろん五輪だけが要因ではないはずです。世界を見渡せば10代で活躍する選手は珍しくありませんが、これまでJリーグではなかなかそういった若手が登場せず、出てくると大きな話題となっていました。
しかし、継続した取り組みの結果として、ようやくJリーグでも多くの若い選手たちが起用され、活躍するようになってきました。あとは、チームとして彼らの良さをどう引き出し、勝利につなげていくかです。今シーズンは躍動する若い選手たちから目を離せそうにありません。
構成/飯塚健司
theWORLD196号 2018年3月23日配信の記事より転載