実は“間受け”のスペシャリストです
セネガル代表のエースとして君臨しているマネ photo/Getty Images
水沼貴史です。日本代表の欧州遠征が終わり、ロシアW杯にむけて様々な課題が浮き彫りとなりましたね。そこで今回は、日本代表がW杯のグループステージ第2節で対戦するセネガル代表の選手の中から、FWサディオ・マネ(リヴァプール)の怖さや対策についてお話ししたいと思います。
彼の最大の武器は、何と言っても爆発的なスピードです。少しでも空いているスペースがあればそこを目がけて走りますし、トップスピードに乗った彼を単独で止めることができるDFは、世界規模で見ても数える程度でしょう。最近は最終ラインを低く設定し、彼にDFの背後のスペースを使わせないようにするチームが増えました。こうすることで彼をある程度スピードに乗せさせないことはできます。しかし、彼の武器はスピードだけではないのです。
リヴァプールやセネガル代表で主に左ウイングFWを担当している彼ですが、最近は代表の試合でも適宜中央にポジションを移し、ゲームメイクを担う場面が増えています。その時の彼のポジショニングが厄介で、彼は相手のセンターバックとボランチの間に立ち、ボールを受けたり捌いたりするのです。これを俗に“間受け”と言うのですが、こうすることで相手としてはセンターバックとボランチのどちらがボールにアプローチするのかという迷いが生じますし、マークの受け渡しがうまくいかない瞬間が出てきます。こうなると相手としてはボールを受けたマネへの反応が遅れる、もしくは慌ててボールにアプローチせざるを得ない場面が増えますから、必然的に守備陣形が崩れます。この乱れによってできたスペースにマネ自身が得意のドリブルで切り込む、もしくは彼がスペースに走り込んだ味方にパスを送ることで、得点が生まれるという構図です。
では、ここからは日本代表がロシアW杯で彼をどのように抑え込めば良いかというお話をさせて頂きます。彼が日本のゴール前で前を向いたり、彼に縦方向のドリブルを許してペナルティエリア内に侵入されると失点のリスクが高まります。両チームがどんな布陣や人選で本大会に挑むかが不透明なので大原則だけをお話ししますが、日本としては最終ラインの横幅を極力狭め、ペナルティエリア内への侵入経路を断つことが大切でしょう。また、最終ラインと中盤の間が空きすぎると先ほどご説明した“間受け”やスピードに乗ったドリブルを許してしまうので、この2ラインを間延びさせないことが大事です。こうすることでマネは横方向へのドリブルを余儀なくされるので、サイドにおびき寄せられた彼を日本のサイドバックとサイドハーフで素早く挟み込み、ボールを奪う。極めてオーソドックスな守備ですが、これを徹底することがマネを封じるうえで大事になってくると思います。各選手が適切な距離感を保ち、ボールホルダーを複数人で囲む守備を本大会までに構築できるか。セネガル戦をご覧になる皆さんには日本代表を応援して頂くとともに、これまでご説明した守備を日本代表ができているかどうかに注目してみてください。
マネ封じのキーマンはこの男か リーグ・アンの猛者との対戦で守備が上達!
対人守備に磨きをかけている酒井宏樹 photo/Getty Images
マネを抑え込むうえで、同じサイドでのマッチアップが予想されるDF酒井宏樹(マルセイユ)のプレイは重要になってくるでしょう。彼が今戦っているリーグ・アンにはマネと同じプレイスタイルのアフリカ系の選手が数多く在籍しているので、W杯ではマネとの1対1の局面で酒井の経験が活きるかもしれません。一発でボールを奪いにいって相手に背後を陥れられる場面が減ったことからも、彼の成長が窺えます。
サイドでのマッチアップを制するうえでは攻守の切り替えの早さやポジショニングが大事になってくるのですが、その点においても酒井は成長を見せてくれています。サッカーでは仮にサイドバックがオーバーラップしても、そこにボールが到達しない場面が数多くあります。実は、その後に素早くポジションをとり直すことがサイドバックの重要な役目なんです。味方がボールを失った時に、素早く対面のアタッカーが使うであろうスペースを埋める。少しのポジショニングの狂いや判断の遅れが失点に結びつくリーグ・アンで揉まれたことにより、相手のパスコースを読む力が非常に養われた印象があります。セネガル戦では基本的に自陣で守備を固める時間が増えると思いますが、日本代表が点を取りにいかなければならない状況も想定されます。その際にも酒井が的確なポジショニングでマネの侵攻を抑え、彼のもうひとつの持ち味であるオーバーラップで日本代表の攻撃に厚みをもたらせるかに注目したいところです。
ではでは、また来週お会いしましょう!
水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。