W杯制覇には欠かせない!? 経験豊富なベテランの存在
ドイツ代表のキャプテンを長年務めてきたラーム(中央)。2014年に悲願のW杯制覇を経験した photo/Getty Images
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勝負の厳しさを知り尽くす、ベテランの存在。これはワールドカップを制するために欠かせない条件だ。過去3大会のチャンピオンチームを振り返っても、経験豊富なキャプテンがいた。
2014年ブラジル大会を制したドイツのキャプテンはフィリップ・ラーム(当時30歳)。優れた人格とユーティリティ性を兼ね備え、個性派ぞろいのチームを頂点に導いた。10年南アフリカ大会で初優勝したスペインでは、最終ラインの中心に闘将カルレス・プジョル(同32歳)が君臨。06年ドイツ大会優勝のイタリアにも、世界最高のセンターバックであり、強烈なパーソナリティを持つファビオ・カンナバーロ(同32歳)がいた。この3人は、いずれも自身3度目のワールドカップで優勝を成し遂げている。
ワールドカップには、ベテランのキャプテンが欠かせない。それはなぜか。4年に一度しか開催されないこの大会には、所属クラブの試合にはない特別なプレッシャーがある。そこでは経験値がモノをいうからだ。これは冒険や旅行にも置き換えるとわかりやすい。旅行に行くとき、グループの中に経験や土地勘のある人がいたほうがいい。何をすればよくて、何をしてはいけないかを知っているからだ。優秀なベテランは、過去の失敗も確実に次に生かすことができる。
ロシア大会が最後!? 各代表を支えるベテランたち
マスチェラーノはメッシらとともにアルゼンチン代表を3度目の世界一へ導けるか photo/Getty Images
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さて、間もなく開幕するロシア大会では、この大会が最後のワールドカップになるであろう偉大なベテランが何人かいる。アルゼンチンのハビエル・マスチェラーノ(開幕時34歳)、スペインのアンドレス・イニエスタ(同34歳)、日本の長谷部誠(同34歳)、ポルトガルのペペ(同35歳)、ブラジルのチアゴ・シウバ(33歳)、ダニエウ・アウベス(35歳)などだ。
例えばペペは、あのクリスティアーノ・ロナウドの盟友であり、用心棒のような存在。武闘派としてゴール前でにらみを利かせ、2年前のEURO2016では祖国に悲願の初優勝をもたらした。すでにピークは過ぎたが、層の薄いポルトガルにはまだまだ欠かせない戦力といえる。
ブラジルのシウバとアウベスは、ともにパリ・サンジェルマンに所属するチームメイト。ふたりにとってロシア大会は、悪夢の結末を迎えた4年前の雪辱の舞台となる。ドイツに1-7と粉砕された準決勝、ふたりはピッチに立っていない。シウバは累積警告による出場停止、アウベスは控えにまわり、ドイツのゴールラッシュを傍観する羽目になった。
この悔しさを晴らすには優勝しかない。世界最多となる5度の優勝を誇るブラジルでは、優勝以外はほとんど評価されないからだ。センターバックのシウバは全盛期は過ぎたものの、力に頼らない美しいプレイは健在。優れたポジショニングと冷静な応対で敵を封じ込め、空中戦にも滅法強い。一方のアウベスはときに人を食ったようなプレイ、言動を見せる。たまに物議を醸すこともあるが、大舞台に動じない強心臓はプレッシャーの厳しいブラジルには欠かせないものだ。
スペインが誇る名手イニエスタも、パーソナリティは控えめながら、圧倒的なテクニックがある。その身のこなしは合気道の達人さながら。次々と襲い掛かる敵のプレシャーを軽やかにかわしていく。16年にも及ぶバルセロナでのキャリアの中で、彼はシャビ、メッシといった凄腕たちと敵の守備陣を次々と陥落させてきた。2010年南アフリカ大会の決勝で、スペインを世界一に導いたのもイニエスタの決勝ゴール。つまり、どんな扉でも開ける術を熟知している。厳しい試合になるほど、その経験はモノをいうはずだ。
この1月までバルセロナでイニエタとともにプレイしたマスチェラーノも、アルゼンチン悲願の優勝に欠かせないキーマンだ。愛称は“小さなボス”。準優勝に終わった4年前のブラジル大会のパフォーマンスは鮮烈なものがあった。
勝ち進むたびにエース、メッシが疲弊し、追い込まれたアルゼンチンを救ったのがマスチェラーノだった。大会途中から中盤で攻守を仕切り、チームを決勝まで押し上げる原動力となった。延長で敗れたものの、ドイツとの決勝でも素晴らしい働きを見せた。最終ラインからのパスをほとんど回収。背後から押し寄せるドイツの厳しいプレッシャーを巧みに外しながら、次々とパスを展開する。その働きは、多忙なレストランの厨房を的確にさばくシェフを思わせた。こういうベテランがいると、仕事は上手く回っていく。
日本代表にとって長谷部は必要不可欠
長谷部はプレイ面においても、メンタル面においても日本には欠かせない支柱 photo/Getty Images
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最後に、忘れてはいけないベテランがひとりいる。日本の長谷部誠だ。メンバーが固まっていない日本だが、長谷部のレギュラーはまず間違いない。多くの選手がレギュラー獲得に苦しむ海外組の中で、長谷部は着々とキャリアを築いてきた。ドイツ11年目となる今季は、最終ラインの中心で安定したプレイを見せ、フランクフルトの上位快走に貢献。30代半ばにして新境地を開拓している。
顔ぶれやプレイスタイルが定まらない日本にとって、必要とされるのは守備的な戦い方。その意味で、長谷部を最終ラインの中央に配した3バックは現実的な選択となる。最後尾を長谷部に託し、負けない試合運びに徹すれば、そこから決勝トーナメントへの道は切り拓かれていくかもしれない。ロシア大会を彩る百戦錬磨のベテランたち。経験に裏打ちされた彼らのプレイから目を離すことはできない。
文/熊崎 敬
スポーツライター。サッカー専門誌編集者を経てフリーランスとなる。欧州はもちろん南米サッカーもこよなく愛し、コパ・アメリカなども現地へ飛び取材を重ねる。著書には「日本サッカーはなぜシュートを撃たないのか?」「JAPANサッカーに明日はあるか」(ともに文春文庫)など。
theWORLD196号 2018年3月23日配信の記事より転載