【特集/W杯で見たい選手30#4】ジャイアントキリングは彼らの双肩に! 波乱を起こす小国のファンタジスタたち

開催国にエジプトの壁M・サラーが襲いかかる

開催国にエジプトの壁M・サラーが襲いかかる

エジプトの絶対的エース、M・サラー photo/Getty Images

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戦前の予想、下馬評というのは当たるときもあるが、だいたい外れるものだ。2014年ブラジルW杯でコスタリカの8強入りやスペインのグループリーグ敗退を事前に予想していた人はほとんどいなかっただろう。大会がはじまれば、必ずなんらかの波乱が起こる。それがW杯で、だからこそ面白い。

では、ロシアW杯で旋風を巻き起こすとしたら、どの国、どの選手なのか。その可能性を持つ7名を選んでみた。まずはエジプトのモハメド・サラー。所属するリヴァプールで今シーズン好調を維持していて、プレミアリーグで得点ランキングの首位に立っている。左利きのアタッカーで右サイドからカットインしてゴールに迫り、鋭いシュートでゴールネットを揺らす。ロシアW杯アフリカ予選でも5得点しており、チームの得点源となっている。

エジプトは7大会ぶりのW杯になるが、現在のチームには2012年ロンドン五輪を経験した選手も多い。サラーもそのひとりで、ロンドンでは3ゴールを奪ってグループリーグ突破に貢献している。そして、決勝トーナメント1回戦で対戦したのが日本で、このときにサラーも先発していたので覚えているファンも多いかもしれない。ちなみに、試合結果は「日本3-0エジプト」だった。
ロシアW杯ではグループAとなり、開催国ロシア、サウジアラビア、ウルグアイと対戦する。経験豊富で老獪なウルグアイに勝つのは難しいが、ロシア、サウジアラビアとは実力伯仲、もしくは上回っており、十分に勝機がある。W杯はサラーにとって名前を売る大会になるかもしれない。

攻撃的なポジションを複数こなせる左利きのチャンスメイカー、ハキム・ツィエク photo/Getty Images

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普段、ルビン・カザンでプレイしているイランのサルダル・アズムンにとっては、今大会はホームゲームが続くといえる。長身でしなやかな動きをみせるアズムンは、アジアでは突出した存在であり、すでにイラン代表で22点(28試合)を奪っている。ポルトガル、スペイン、モロッコと対戦するグループBを勝ち上がるのは至難の業だが、存在感を示すことは可能だ。

ポルトガルの堅守から1点でも取れば、それは大きな話題となる。劣勢を強いられるスペイン戦で数少ないチャンスを生かしてゴールネットを揺らせば、それは自身の価値を高めることになる。アズムンは2013年からロシア・プレミアリーグでプレイするが、活躍次第では今後によりメジャーなリーグでプレイすることになる。

同組のモロッコにはハキム・ツィエクがいる。サラーと同じ左利きのチャンスメイカーで、攻撃的なポジションならどこでもできるユーティリティーな選手だ。オランダ出身だがモロッコにルーツを持ち、世代別代表のときはオランダでプレイし、A代表は2015年にモロッコを選択している。一時期、代表監督の政治的な判断で招集されないときがあったため現在までに9試合と代表キャップは少ないが、抜群の決定力を発揮して7点を奪っている。

モロッコの前線には長身CFのハリド・ブタイブがいる。ツィエクのアシストでブタイブがゴールを奪うのがひとつの得点パターンになっていて、ロシアでもそういった場面を作り出すことができれば勝利がみえてくる。

不気味なアイスランド 日本は乾に期待がかかる

不気味なアイスランド 日本は乾に期待がかかる

デンマークのアイデア豊富な司令塔、クリスティアン・エリクセン photo/Getty Images

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デンマークは国際大会に強く、W杯は過去に4度の出場しかないが、3度はグループリーグを突破している。W杯の通算成績は8勝2分け6敗。グループCで対戦するフランス、オーストラリア、ペルーにとってデンマークは実に嫌な相手だ。

攻撃をリードするのは、アイデア豊富な司令塔であるクリスティアン・エリクセン。パスセンスに優れ、正確なキックが魅力なのはもちろん、得点力も備えていて欧州予選では8ゴールをマーク。所属するトッテナムでも存在が際立っており、昨シーズンのオフにはバルセロナへの移籍話も浮上していた。

過去にメディアで「デンマークの最高傑作」「希望の光」というキャッチフレーズで紹介されたこともある。エルケーア・ラルセン、ミカエル&ブライアンのラウドルップ兄弟、ヨンダール・トマソンなど過去のデンマークをイメージする選手とはタイプが違う。動き、判断ともに柔軟性があり、観戦する者を魅了する高い技術力を持つ。前述したようにもともとデンマークは大舞台に強い。エリクセンに率いられ、ロシアW杯でもグループリーグを突破する可能性がかなり高い。

ユーロ2014でベスト8に進出したアイスランドのなかで、ギルフィ・シグルズソンは攻守において献身的な動きをみせ、チームの勝ち上がりに貢献していた。G・シグルズソンだけではなく、アイスランドは各選手が状況を的確に見極め、自分に求められるプレイを忠実にこなす。守るときはチーム全体で集中力を維持して守るため、つけ入る隙がほとんど見当たらない。

同じグループになったアルゼンチン、クロアチア、ナイジェリアは間違いなく難敵だが、アイスランドにとってむしろ良かったかもしれない。G・シグルズソンを中心に、開き直って堅守速攻を貫ける。ひとつ覚えておきたいのは、いざ攻撃を仕掛けるときのアイスランドはものすごく縦に速いということ。このG・シグルズソンも中盤にいたと思ったらいつの間にかゴール前に現われる。アイスランドはまた旋風を巻き起こすかもしれない。

スウェーデンがグループFを勝ち上がったなら、そこにはエミル・フォルスベリの活躍が存在しているはずだ。おもに左サイドからチャンスメイクするアシスト王で、所属するライプツィヒでも多くの得点にからんでいるし、スウェーデン代表でも「10番」を背負って攻撃を組み立てる役割を担っている。

ドイツ、メキシコ、韓国と対戦するグループリーグを突破するのは険しい道のりとなるが、スウェーデンにはマルクス・ベリ、オラ・トイヴォネンといった爆発力を持ったストライカーがいる。フォルスベリが送る正確なラストパスを彼らが決めることができれば、スウェーデンの勝ち上がりがみえてくる。

俊敏な動き、巧みなドリブルで左サイドからチャンスメイク。“なにか”をやってくれそうな乾 photo/Getty Images

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ヴァイッド・ハリルホジッチ監督(※編注:4月9日に解任)が率いる日本のなかでもっと競争が激しいのが、左サイドアタッカーのポジションだ。原口元気、宇佐美貴史、清武弘嗣、中島翔哉など候補選手が数多くいる。そうしたなか、ロシアW杯でピッチに立ち、日本の勝敗を左右すると考えられるのは誰か?ケガのため3月下旬の欧州遠征には参加していないが、乾貴士がもっとも“なにか”をやってくれそうだ。

代表でのプレイ回数は少ないが、それでも俊敏な動き、切れ味鋭いドリブルで強烈なインパクトを残している。先発すれば守備でも献身的な動きをみせ、途中出場で入ってくれば攻撃のリズムがガラッと変わり、試合の流れが劇的に変化する。コロンビア、セネガル、ポーランドと対戦するグループリーグはいずれも劣勢が予想されるが、前への推進力がある乾がいれば守っている状態からも鋭いカウンターを発動させられる。ここに紹介してきた選手と並んで、ロシアW杯で高い評価を得る可能性を持つ選手のひとりだ。

文/飯塚 健司
サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より5大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。Twitterアカウント : scifo10

theWORLD196号 2018年3月23日配信の記事より転載

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