苛立ちを隠せなかったパナマ 経験値の差が浮き彫りに
計算し尽くされたセットプレイで畳みかけたイングランド代表 photo/Getty Images
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ペネド、R・トーレス、G・ゴメス、ペレスなど、パナマは代表キャップ数100を超える経験豊富な選手が中心だ。対するイングランドはヘンダーソンの41キャップが最多である。しかし、パナマは数をこなしているだけで、北中米カリブ海地区の予選突破ですら奇跡といわれたレベルだ。主要ブックメーカーの下馬評でも参加32か国中“最弱”。初戦のベルギー戦は後半に崩れて0-3の完敗を喫し、イングランド戦でも痛い目に遭った。
8分、右CKからストーンズにフリーのヘディングを許す。22分にはリンガードに最終ラインの裏を突かれ、慌てたエスコバルが後ろから倒してPK。ケインの強烈なキックに、GKペネドは成す術がなかった。
早い時間帯で2点のビハインドを背負ったパナマは、精神的な抑制がきかなくなってきた。不要なファウルでFKを与えたり、主審のジャッジにクレームをつけたり、泥沼にはまっていくパターンである。
36分、リンガードのドリブルについていけず0-3。40分にはFKから失点し、追加タイムには再びPK。前半だけで5点のリードを許す絶望的な展開だ。冷静でいられるはずがない。後半開始早々、マグワイアと競り合ったクーペルは、明らかに力を入れて右ひじを振った。パナマの苛立ちを象徴するシーンであり、一発レッドに相当する蛮行だ。78分、バロイが祖国にW杯初ゴールをもたらしただけで、レベルの差は明らかだった。
緻密なセットプレイが奏功 決勝Tでも炸裂か
パナマがW杯初得点。78分にFKを得ると、浮き球にバロイが右足で合わせた photo/Getty Images
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さて、イングランドである。ケインは2本のPKと、ロフタス・チークのシュートがかかとに当たってゴールに吸い込まれるという幸運にも恵まれ、ハットトリックを達成した。ストーンズはセットプレイから2ゴール、リンガードも1ゴール。パナマの守りが脆弱すぎたとはいえ、大量6ゴールを挙げたのだから、上々の出来といって差し支えない。特によくデザインされ、しっかりと訓練を積んできたセットプレイは、チュニジア戦に続いて奏功した。では、40分のシーン(ゴール正面20メートルほどのFK)を振り返ってみよう。
トリッピアーがショートパス→ヘンダーソンがロビング→ケインがヘッドで中央に折り返す→スターリングがシュート。一旦はパナマGKペネドに阻まれたが、詰めていたストーンズがヘディングでゴール上部に突き刺す。ボールと人が頻繁に動いたビューティフルゴールであり、守備側がボールウォッチャーになりやすいセットプレイの弱点を研究した末のサインプレイでもあった。
さらに、ストレート系のキックをファーサイドに多用していることも特徴のひとつだ。この種のボールは強いヘディングを撃ちやすい。マグワイア、ストーンズといったストロングヘッダーを擁し、精度の高いキッカーとしてトリッピアー、ヤングを揃えるイングランドらしいアイテムだ。彼らのセットプレイは大会屈指の破壊力と正確性を誇り、バリエーションも豊富だ。対戦相手のレベルが上がる決勝トーナメントでも、多くのチャンスを創りだすに違いない。
[スコア]
イングランド代表 6-1 パナマ代表
[得点者]
イングランド代表:ストーンズ(8)、(40)、ケイン(22)、(45+1)、(62)、リンガード(36)
パナマ代表:バロイ(78)
文/粕谷 秀樹
サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。
theWORLD209号 2018年6月25日配信の記事より転載