ロシアは序盤に失点も、ハイプレスで巻き返す
ロシアは自陣で堅固なブロックを敷き、スペインのパスワークを120分間寸断した photo/Getty Images
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大観衆からの圧倒的なサポートを受けて戦うロシアが相手ともなれば、さすがのスペインも簡単にはプレイできない。「スタジアムで約8万人が、テレビの前では何百万人ものファンが応援してくれている。スペインは非常に強いが、勝つチャンスはある」と語っていたのは、ロシアのチェルチェソフ監督である。この指揮官の戦術は恐ろしいまでに徹底していた。
12分にスペインにFKを与えると、ゴール前でラモスと競り合ったイグナシェビッチの足にボールが当たり、オウンゴールでリードを許した。すると、高い位置からプレスをかけて積極的に同点ゴールを目指した。決定的な場面には繋がっていなかったが、CKやFKといったセットプレイはつかめていた。1点のビハインドだったが、この時間帯のロシアは自分たちのリズムでプレイしていた。
その要因となっていたのがスペインの拙いパスワークで、最終ラインのピケ、ラモス、守備的MFのブスケッツ、コケのところでボールを失うケースが何度かあった。この相手に対してロシアはボールを奪うと、前線のジュバに素早くボールを入れる攻撃を続け、ジワジワとゴールへ迫った。36分にはジュバのポストプレイからチャンスを作り、ゴロビンが左サイドから狙いすましたミドルシュートを放つ。ゴール枠内に飛ばなかったが、確実にロシアへ流れが来ており、大観衆の期待も高まっていた。
迎えた39分、右CKを得る。キッカーのサメドフがファーサイドにボールを入れると、ジュバが頭で合わせた。このシュートがピケの左手に当たり、PKを得る。大きなプレッシャーがかかるこの決定機をジュバがしっかりと決め、試合は振り出しに戻された。この展開は地元サポーターも予想していなかったのか、自国の同点弾でルジニキスタジアムは耳をつんざく大声援に包まれ、少しばかりスタンドも揺れた。
ルジニキに築かれた要塞 ロシアが人海戦術で耐え忍ぶ
67分に投入されたイニエスタ。時折鋭いパスを供給したものの、ロシア守備陣のマークに手を焼いた photo/Getty Images
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1-1で後半を迎えると、ロシアは高い位置からプレッシャーをかけるのを止めた。60分にサメドフ→チェリシェフ、65分にジュバ→スモロフという選手交代が行われ、各選手のポジションがグッと下がり、守備がより強固に整えられた。とにかく守る。これが、チェルチェソフ監督が考えるスペインに勝つ唯一の方法だった。
実際、スペインのパスワークに対してロシアの守備陣は抜群の距離感を保ってポジションを取り、入り込むスペースを与えなかった。前後左右の揺さぶりにもバランスを崩さず、途中出場したイニエスタ、アスパス、ロドリゴの素早い動きにも人数をかけて対応し、粘り強く、泥臭く、集中力を切らさない戦いを最後までやり遂げ、ついに1-1のまま120分間を終えることに成功した。
PK戦を制したのは、ただ勝利するために各選手が献身的に任務を遂行し続けたロシアだった。スペイン5人目のキッカー、アスパスのシュートをGKアキンフェエフが左足で弾いた瞬間、ベスト8進出が決まり、ルジニキスタジアムに最高潮の興奮が訪れた。そのなかで、難易度マックスのミッションをやり遂げたにも関わらず、無表情で両手を高く突き上げただけのチェルチェソフ監督に、闘う漢(おとこ)をみた。
[スコア]
スペイン代表 1-1(PK戦:3-4) ロシア代表
[得点者]
スペイン代表:OG(12)
ロシア代表:ジュバ(41)
文/飯塚 健司
サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より6大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。Twitterアカウント : scifo10
theWORLD215号 2018年7月2日配信の記事より転載