[ロシアW杯#52]PK戦までもつれ込む激闘を制したクロアチア、決勝の舞台も視野に?

敵のロングボール攻勢に苦戦 “2つの輝き”を失ったクロアチア

PK戦の好セーブ連発で、モドリッチ(左)らのミスを帳消しにしたスバシッチ(右)photo/Getty Images

ヴルサリコとロヴレンは人目もはばからず慟哭した。両親を慕う子供のように、モドリッチはスバシッチに抱きついた。ダリッチ監督はサポーターと喜びを分かち合っている。PK戦3−2。クロアチアは苦しみ抜いた末、ベスト8に進出した。

終始イニシアチブを握っていたのはデンマークである。開始早々、M・ヨルゲンセンが先制する。3分後、マンジュキッチに同点ゴールを許しても慌てず騒がず、ただひたすらゲームプランを実行した。欧州予選で披露したポゼッション・フットボールを封印し、ロングボールが主体だ。クロアチアと同じ土俵には上がらず、カウンターに重きを置いたのである。

GKシュマイケルのフィードは一気に陣地回復を図れる貴重なアイテムだ。DFラインでパスをまわした際にプレスをかけられても、最後尾に戻せばどうにでもなる。しかも、シュマイケルの長距離砲を待つのは195センチのコルネリウスと193センチのポウルセンだ。エアバトルを得意としているクロアチアDF陣も、劣勢を強いられるシーンは少なくなかった。

また、ロングボールへの対応は嫌でも上下動が繰り返されるため、全体のラインが間延びする。マイボールになっても前線までの距離が遠く、ファイナルサードに進入する選手の数は多くない。当然、モドリッチとラキティッチはいい形で、いいポジションでボールを捌けず、チャンスすら創れずに時間だけが経過していった。

PK戦はデンマークが有利と思われたが......

116分、GKシュマイケルがモドリッチのPKを阻止。この結果、120分でも決着がつかなかった photo/Getty Images

後半の終盤を迎えても、延長に入っても、それぞれが4人の選手交代を終えても、試合展開に大きな変化はない。デンマークの術中にはまり、攻めあぐねるクロアチア。116分に得たPKも、モドリッチのキックがシュマイケルの好守に阻まれた。流れは最悪だ。「大エースのキックが止められた……」クロアチアと、「モドリッチを止めてやったぜ」のデンマークでは、PK戦に挑む精神状態も雲泥の差である。しかし、GKの資質ではシュマイケルを下まわるスバシッチが、エリクセンを、シェーネを、そしてN・ヨルゲンセンを見事にストップ。こうして、120分の激闘は幕を閉じた。

出来・不出来が激しく、勝負に淡白とも指摘され続けてきたクロアチアだが、今大会はひと味違う。アルゼンチンを破った破壊力とデンマーク戦で見せた粘り強さの融合によって、ファイナリストの座も見えつつあるようだ。

一方、デンマークはプランどおりに進めていたものの、やはりPK戦は水物だった。シュマイケルが2本セーブしたにもかかわらず勝てなかったのだから、不本意ではあるがあきらめるしかない。ただ、惜しむらくは決定的なゴールゲッターを欠いていたことだろうか。欧州予選でもエリクセンの11ゴールがチーム最多で、2位はMFデラネイの4ゴールだ。FWは軒並み低調な数字に終わっている。彼らの献身的な姿勢、肉体的に多大な負荷がかかる空中戦を愚直に繰り返す姿勢には頭が下がるが、ほんの少しだけ、ゴールに向かう積極性が欲しかった。

[スコア]
クロアチア代表 1–1(PK:3-2) デンマーク代表

[得点者]
クロアチア代表:4分 マンジュキッチ
デンマーク代表:1分 M・ヨルゲンセン

文/粕谷 秀樹
サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

theWORLD215号 2018年7月2日配信の記事より転載

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