[ロシアW杯#53]メキシコの勇猛果敢な戦略に苦戦も…… 「4年前のリベンジ」に前進したブラジル

勇敢で緻密な戦略 前半の主導権はメキシコに

じっと戦況を見つめるオソリオ監督。積極的な駆け引きでブラジルを苦しめるも…… photo/Getty Images

メキシコを率いるオソリオ監督の勇敢にして緻密な駆け引きは、確かにブラジルを戸惑わせた。もっとも、その効力が通用したのは45分まで。メキシコの戦略は王国の10番ネイマールに打ち破られ、7大会連続でベスト16の壁に行く手を阻まれた。

オソリオ監督の策略はスタメンの顔ぶれに表れていた。グループリーグの基本システムは[4-2-3-1]。ダブルボランチにグアルダードとエレーラ、2列目に右からラジュン、ベラ、ロサーノを並べ、最前線にエルナンデスを配置した。しかし、この日は中盤の底にマルケスを据え、両脇にグアルダードとエレーラ、3トップの右にロサーノ、左にベラ、中央にエルナンデスを並べる[4-3-3]を採用。“カゼミロの脇”をブラジルの弱点と見極め、グアルダードとエレーラが積極的にそのスペースを突く戦術に賭けた。

この戦術は見事に奏功し、メキシコは立ち上がりから主導権を握った。15分にはブラジルのパスミスを誘ってカウンターに転じ、グアルダードの大きな展開からロサーノが決定機を作る。直後の18分にはブラジルのCKからまたしてもカウンターのチャンス。左サイドのベラが鋭い弾道のアーリークロスを放り込み、ロサーノがシュートを放って勢いを加速させた。

対するブラジルは、25分と33分、さらに34分にもネイマールの個人技からチャンスを作った。しかし、守備の局面ではグアルダードとエレーラの巧みなポジショニングに手を焼き、中盤の攻防で後手に回ってボール支配率が上がらない。

“仕掛け”の成功を確信したメキシコのオソリオ監督は、手を緩めることなく駆け引きを続けた。30分を過ぎるとベラとロサーノのポジションチェンジを指示し、後半開始と同時にマルケスに代えてラジュンを投入。前半は右SBを務めたアルバレスをアンカーに据え、突破力に優れるラジュンを右SBに配置する変更は明らかな攻撃の一手だった。

これぞエース! 輝きを放ったネイマール

先制点を奪ったネイマールを肩車し、祝福するパウリーニョ photo/Getty Images

ところが、迎えた51分のプレイでブラジルが流れを引き寄せる。左サイドでパスを受けたネイマールがトップスピードで中央に進入し、相手3人を引きつけてヒールパス。これを受けたウィリアンがシュート性のクロスを流し込むと、ネイマールが飛び込んでブラジルが先制点を奪った。それまでリズムをつかめなかったブラジルが、エースの一撃で精神的な優位を取り戻した。

55分、メキシコはアルバレスに代えてジョナタン・ドス・サントスを投入し、中盤の構成に変化を加えて流れを引き戻そうとした。しかし、ブラジルはコウチーニョがトップ下、カゼミロとパウリーニョがボランチに入る[4-2-3-1]に変更。この対応で中盤の優位性を失ったメキシコの攻撃は一気に停滞し、時折見せるカウンターも厚みと迫力を欠いた。時間の経過とともにキレはなくなり、運動量は明らかに落ちた。それでも「何とか同点ゴールを」と前掛かりになった88分、またしてもネイマールのドリブル突破に屈し、決定的な2点目を献上して勝機を失った。

オソリオ監督の戦略的な駆け引きは、確かに機能した。しかし、その効力を45分間に抑え、最後は個の力で打開してしまうところにブラジルの強さがある。中でも特別な輝きを放つネイマールを中心に、また一歩、ブラジルは「4年前のリベンジ」に近づいた。

[スコア]
ブラジル 2–0 メキシコ

[得点者]
ブラジル:51分 ネイマール、88分 フィルミーノ

文/細江 克弥
『ワールドサッカーキング』『ワールドサッカーグラフィック』などの編集部を経て、2009年にフリーのサッカーライター/編集者として独立。現在も本誌をはじめ、『Number』などさまざまな媒体に寄稿している。欧州からJリーグ、なでしこリーグまで、守備範囲は幅広い。

theWORLD216号 2018年7月3日配信の記事より転載

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