リトリートを選択した日本 ベルギーのパスワークを封印
号泣の乾を慰める本田。試合終盤に惜しいFKを放ったが、チームを救うゴールは奪えず photo/Getty Images
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実力差があることはわかっていた。「世界トップ3のベルギーという強豪国にどう戦いを挑むか。あらゆる策を駆使する必要があり、今持っていないかもしれない力をチームで出して戦わなければいけない」と語っていたのは西野監督である。
日本はグループリーグ3試合と同じく[4-2-3-1]の布陣で、1戦目や2戦目と同じ先発メンバーだった。ベルギーも予想された通りの[3-4-3]だった。前半はボールを支配され、自陣に守備ブロックを作って跳ね返す時間が続いた。ただ、劣勢だったが高い集中力を維持できており、「日本がボックスを固めていて侵入できなかった」とマルティネス監督に言わしめるほど、組織で守る戦いができていた。
すると、後半開始直後の48分、自陣深いところでボールを奪った乾から右斜め前方にいた柴崎にパスが出る。柴崎が一呼吸置いてヴェルトンゲンの裏にスルーパスを出すと、走り込んだ原口が同じように一呼吸を置いて右足を振り抜き、逆サイドのゴールネットを揺らして先制点を奪った。
日本の歓喜は続き、52分にはコンパニのクリアを拾った香川から乾へとつなぎ、得意の角度から乾が右足ミドルシュートを突き刺した。驚きの大歓声に包まれるロストフアリーナ。観衆の視線の先には、喜びの輪を作る日本代表の姿があった。
相手のヘディングで連続失点 ベルギーの猛攻に屈す
後半AT、日本は相手GKクルトワから始まった速攻を阻止できず、シャドリに決勝点を奪われた photo/Getty Images
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完全に流れをつかんでおり、史上初のベスト8が見えていた。残り時間は約40分、アドバンテージは2点。「あの瞬間、誰もが“いける”と感じたと思う。前の人たちが仕事をしたから、あとはオレたちが守り抜くだけだと思った」と振り返ったのは昌子である。
ところが、ベルギーはここからが違った。
「0-2で失うものがなくなり、なんでもやってやろうという気持ちになった」と語ったのはマルティネス監督で、フェライニ、シャドリが投入されて[4-1-4-1]の布陣で攻撃の圧力を増してきた。69分、CKの流れからヴェルトンゲンに折り返しなのかシュートなのか分からないヘディングを決められてしまう。74分にもCKの流れからフェライニにヘディングシュートを許し、2-2とされてしまった。
試合はアディショナルタイムに突入し、日本はFK、CKを立て続けにつかみ、このチャンスを生かそうとした。90+4分、本田がゴール前に入れたボールをGKクルトワがキャッチすると、走り出したデ・ブライネにパスが出される。日本も一斉にリアクションしたが、止めることができなかった。右サイドのムニエを経由し、ボールはゴール前へ。ルカクをマークすることはできていたが、その後方でシャドリがフリーになっており、土壇場で決勝点を献上した。昌子が左足を懸命に伸ばしたが、数十センチ、コンマ数秒及ばず、ベスト8進出を逃した。
「最後はFK、CKの流れがあり、延長も考えていたが決めたい気持ちがあった。あそこからスーパーカウンターを受けるとは予測していなかった。(勝敗を分けたのは)紙一重の勝負どころだと思う」(西野監督)
3度目のラウンド16にしてはじめて得点し、後半途中に2点をリードした。それでも勝てなかった。W杯の決勝トーナメントの恐ろしさ、列強国の真の強さが間近に感じられた。日本サッカー史に残る悲劇の逆転負けとなってしまった。
[スコア]
ベルギー代表 3-2 日本代表
[得点者]
ベルギー代表:ヴェルトンゲン(69)、フェライニ(74)、シャドリ(90+4)
日本代表:原口元気(48)、乾貴士(52)
文/飯塚 健司
サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より6大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。Twitterアカウント : scifo10
theWORLD216号 2018年7月3日配信の記事より転載