今回のロシアワールドカップで目立ったのは、堅守速攻とセットプレイの質の高さだ。グループステージでは格下チームが優勝候補を苦しめる波乱が何度も起きたが、そのほとんどは堅守速攻によるものだ。中でも前回王者ドイツ代表を1‐0で撃破したメキシコ代表は、中盤で何度も相手を潰して高速カウンターに持ち込んでおり、格上相手の戦い方のお手本を示したチームだった。
そしてこの堅守速攻はヴァイッド・ハリルホジッチ前日本代表監督が何度も口酸っぱく言ってきたものだ。ハリルホジッチ前監督の代名詞でもあったデュエルで相手からボールを奪い取り、縦に素早く展開する。残念ながらハリルホジッチ前監督の教えは日本代表にフィットしなかった部分も多いが、ロシア大会でどのような戦い方が主流になるのかをしっかり分析できていたのは間違いない。ロシアの地でデュエルと速攻を活かして格下チームが強豪を苦しめている展開を見てハリルホジッチ前監督のことを思い出したサポーターもいたのではないだろうか。
ベスト16入りを果たした日本も、コロンビア戦ではクリアボールを拾ったところから香川が前線に素早く放り込み、それを大迫が上手く反転して先制点のPKに繋げている。ベルギー戦でも乾が自陣でボールを奪って素早く展開し、柴崎のスルーパスから原口が先制点を記録した。日本の得点パターンにおいても速攻は重要な武器となっていたのだ。
セットプレイも大きな注目を集めた。コーナーキック、フリーキックに工夫を施すチームが増え、イングランド代表のように全12得点中9点をセットプレイから奪った珍しいチームもあった。ショートコーナーなどを含め、フリーキックとコーナーキックから生まれた得点は大会を通して43点あった。近年の大会を振り返ると2010南アフリカ大会は29点、2014ブラジル大会は34点となっているため、今大会はやはりセットプレイからの得点が目立っている。
セットプレイもハリルホジッチ前監督が何度も言ってきたことで、日本がセットプレイから得点を奪うケースが少ないことを嘆いてきた。しかし今大会ではコロンビア戦で大迫がコーナーキックから決勝点をもぎ取り、日本にとって唯一の勝利はセットプレイからもたらされた。速攻、セットプレイと、日本も大会のトレンドに乗ったチームと言えよう。
決勝トーナメントに入ると余計にセットプレイの重要性が増し、全47点中15点がフリーキック、コーナーキックによるものとなっている。フランス代表とクロアチア代表の決勝も、グリーズマンのフリーキックをマンジュキッチがオウンゴールしたところからスタートし、クロアチアも変則的なフリーキックからペリシッチの同点ゴールに繋げている。さらにフランスの2点目はコーナーキックからクロアチアの選手のハンドを誘発したもので、こちらもセットプレイがポイントになっている。
一発勝負の決勝トーナメントに突入すれば1点の重みが増すため、どのチームも守備を意識した戦い方を選んでくる。それを強引に崩そうと攻撃に手数をかけてしまえば、速攻の餌食になりかねない。そうしたリスクを冒すことなく効果的に得点を狙うには、イングランドのようにセットプレイのパターンを増やしておくのが有効となる。
先制点を奪えばさらに守備を固め、機を見て速攻から追加点を狙っていく戦い方にシフトしていく。決勝トーナメントを振り返ると、逆転勝利があったのはシーソーゲームになったフランス代表VSアルゼンチン代表、今大会を代表する逆転劇となった日本代表VSベルギー代表、延長戦までもつれ込んだ準決勝のクロアチア代表VSイングランド代表の3試合のみ。先制点の重要性が際立った大会だった。
グリーズマンが蹴る質の高いセットプレイに加え、誰よりも速かったムバッペを活かした速攻を武器としていたフランスが優勝したところに今大会のトレンドが表れている。4年後にはまた新たなトレンドが生まれているかもしれないが、ハリルホジッチ前監督が何度も口にしてきたデュエル、速攻、セットプレイのキーワードは今後も日本サッカー界全体で突き詰めていくべきだろう。