スペイン代表、バルセロナと独特なスタイルの中で長年プレイしてきたMFアンドレス・イニエスタがヴィッセル神戸のサッカーにフィットするのか。当初はそうした不安もあったが、やはりイニエスタは別格だった。チームメイトとの連携が完成していない中でもチャンスメイクを連発し、すでに神戸がイニエスタに支配された感覚すらある。
注目すべきは神戸の選んだシステムだ。神戸は5月初旬にもう1人の強力助っ人ルーカス・ポドルスキが肉離れで離脱し、そこから渡邉千真とウェリントンに2トップを組ませる[4-4-2]をベースに戦う機会が多かった。2人も期待に応え、5月12日のジュビロ磐田戦ではそれぞれ1得点ずつ記録して2‐0の勝利に導き、続くコンサドーレ札幌戦では2得点ずつ決めて4‐0の大勝を収めている。さらに中断期間を挟んだ7月18日のV・ファーレン長崎戦でもウェリントンが決勝点を挙げて1‐0で勝利。神戸はリーグ戦3連勝を果たした。
高さ、強さのあるウェリントンと渡邉の2トップは強力だったが、イニエスタを[4-4-2]のシステムに当てはめる場合はサイドハーフかボランチでの起用となる。しかしイニエスタは守備をそこまで得意としている選手ではないため、サイドハーフとしてサイドを何度も上下動させる起用法は適切ではない。ボランチも同様で、もう少し高い位置でボールを持つのが理想的だ。
そこで神戸の吉田孝行監督は、イニエスタが先発した7月28日の柏レイソル戦で渡邉をベンチスタートとしてウェリントンとの2トップを解消。システムは[4-3-3]となり、右のウイングに若い増山朝陽、左に同じく若手の郷家、最前線にウェリントン、イニエスタは左のインサイドハーフに入る形でゲームをスタートさせた。
また守備時には藤田直之と三田啓貴がダブルボランチのような形となり、イニエスタが高い位置へ。ウェリントンと前から圧力をかける形を取り、守備時には[4-4-2]に変化するパターンだった。これでイニエスタを頻繁に自陣まで守備に戻すことなく、高い位置取りをキープしてもらうことが可能となる。中盤左寄りの位置でボールを持つイニエスタの姿はまさにバルセロナでプレイしていた時と同じで、イニエスタを活かすうえで最適なポジションだと言えよう。
その位置でイニエスタがボールを持てば、神戸は高確率でチャンスを作ることができる。それはイニエスタのパスやポジショニングに明確な意図があり、それだけでチームメイトに攻撃のアイディアをもたらすことができるからだ。例えば柏レイソル戦では、同じ左サイドに位置する郷家友太にパスを出す際にしっかりと角度をつけていた。郷家のマークにくるDFからは遠い方の足に角度をつけたパスを出してくれるため、郷家はトラップと同時に前を向くことができる。地味なプレイではあるものの、そうしたイニエスタのパスは攻撃のスイッチになりやすい。柏レイソル戦でイニエスタのいる左サイドから何度もチャンスを演出できたのは偶然ではない。よりチームメイトとトレーニングを積めばもっとスムーズになるだろう。
次なる課題は、離脱しているポドルスキが戻ってきた時にどう共存させるかだ。いわゆるイニエスタ仕様である[4-3-3]を継続する場合、ポドルスキをどこで起用するのか。この2人を同時起用しないという案は存在しないはずで、吉田監督は上手く2人をチームに組み込まなければならない。
ポドルスキはウイングでもプレイできる選手だが、神戸加入後は中央で自由な役割を任されることが多かった。サイドでどこまで得点に絡んでくることができるかは未知数といっていい。ウェリントンが担当する1トップの位置にポドルスキを入れる案もあるが、ウェリントンはここまで大車輪の活躍だ。自慢のパワーでボールを収めることもでき、空中戦ではターゲットになる。さらに守備面でも積極的にプレスバックするなど、前線で存在感を発揮している。クロスのターゲットマンでもあるウェリントンは中央に固定したいだろう。
イニエスタ&ポドルスキ仕様のシステムを早々に見つけられればいいが、失敗すればスーパースターを並べただけのバランスが崩れたチームになってしまいかねない。イニエスタとポドルスキが揃うなど非常に贅沢だが、そのぶん吉田監督の悩みは増えることになりそうだ。