ロシアワールドカップでは19歳のフランス代表FWキリアン・ムバッペが大きな注目を集めた。同国史上ワールドカップ最年少得点、10代での決勝出場は史上3人目など、とにかくサッカー界では史上最年少というワードがよく飛び交い、若手選手は次世代スター候補として大きく取り上げられる傾向にある。特に近年はムバッペ以外にも10代ながらミランのゴールマウスを任されたジャンルイジ・ドンナルンマなど、驚異の実力を持つ若者が増えてきている。それに合わせて若手の基準も変わってきており、もう22、3歳の選手は若手とすら呼ばれなくなりつつある。そうして若手の基準が変わる中、最近のサッカー界は30代の選手たちに厳しすぎるのではないか。
ロシアワールドカップを戦った日本代表も、メンバー発表時は30代の選手が多く入っていたことから「おっさんジャパン」と批判を浴びた。32歳の本田圭佑や長友佑都、34歳の長谷部誠らは経験豊富なベテランというより、オジサンと評価されてしまったわけだ。最近のサッカーファンの中には年齢でジャッジを下す者も多く、30代に突入した選手は世代交代の対象とされがちだ。一般的には身体的にも精神的にもサッカー選手のピークは27、28歳程度と言われており、本田や長友らの世代は4年前のブラジル大会こそピークと捉えられていたのだ。しかし、4つ歳を重ねただけでオジサンと言われてしまうのはあまりに可哀想でもある。
確かにサッカーは年々プレイスピードも速くなり、スピードや運動量など身体能力が求められている。アスリートも年齢を重ねれば衰えが出てくるため、ベテラン選手が敬遠されがちになっているのだ。そのため、30代に突入した選手をバッサリ切り捨ててしまうサッカーファンもいる。実際30代に入ってから身体能力が飛躍的に向上するケースは極めて少なく、スピードも落ちてくる。しかし、プレイスタイルさえ柔軟に変えていけばベテランになってもチームに貢献することは十分に可能だ。今回のワールドカップでも出国前はオジサンと皮肉られていた本田らが結果を出し、ベスト16に駒を進めることに成功した。長谷部もピッチ上で声を出してチームをまとめ、岡崎慎司も泥臭い仕事をこなした。さらに本田はベンチからチームメイトを盛り立てるなど、ベテランならではの貢献が光っていた。30代に入ったからといって、年齢でピークを過ぎた選手と判断して切り捨ててしまうのはいかがなものか。
先日にはナイジェリア代表から27歳のヴィクター・モーゼスが代表引退を表明した。27歳の若さで代表引退かと騒がれたが、本田らの例で言えば4年後に31歳となるモーゼスもオジサン予備軍ということになる。今サッカー選手としてピークにあるとされる27、8歳の選手でも、4年後のワールドカップを迎えた時にはピークを過ぎ去った選手と捉えられるのは厳しい。日本代表も同様で、すでに30歳でロシア大会を戦った乾貴士や29歳の香川真司、28歳の大迫勇也らは次回大会時にはピークが過ぎて厳しいのではなんて意見まである。もちろん4年の間に若手が結果を出し、実力で乾や大迫を追い越してしまったのなら何の問題もない。しかし単純に年齢だけで衰えたと判断して切ってしまうのは正しい方法ではないだろう。4年後も香川や大迫の技術や体力に衰えが見られないのならば、代表に選ばれるにふさわしい。
最も美しい代表チームの形は若手、中堅、ベテランが上手くミックスされていることで、ベテランにしかできない仕事もある。特にワールドカップは特殊な大会で、ピッチ内のことだけでなくピッチ外の調整なども重要になってくる。そうした中で大会を経験している選手がチーム内にいるのといないのとでは大きな違いがある。ロシア大会でベスト16入りを決めた日本代表も、ワールドカップで苦い思いを味わった長谷部や川島永嗣、本田らの経験が活きた。初のワールドカップとなった25歳のDF昌子源も、隣に前回大会を知る吉田麻也がいたのは心強かったはずだ。スタメンの顔ぶれがベテランだらけというのも問題だが、ただ若くて活きのいい選手を並べれば良いというものでもない。今大会では本田や槙野智章がベンチからチームメイトを盛り上げ、時に助言を送るなど裏方としてチームを支えてきた。この仕事はワールドカップ初経験の若手にはなかなかできないことだ。
新星の登場はいつの時代も目を引くが、だからといってベテランが使い物にならなくなったわけではない。過去にはハビエル・サネッティやパオロ・マルディーニのようなチームの精神的支柱とされるベテランが若手を支えてきた例もある。ロシアの地で30代の日本代表選手たちが「おっさんジャパン」との批判を跳ね除けたのだから、30代に入った選手たちのことを年齢だけで無条件で切り捨てるのはやめにするべきだろう。