[特集/いざ、アジアカップへ! 04]日本に立ちはだかるアジアの列強
堅守を誇るイラン 課題は攻撃
一度は代表引退を示唆したアズムンだが、紆余曲折を経て復帰 photo/Getty Images
16ヵ国から24ヵ国へ、出場枠が大幅に拡大された第17回アジア杯。優勝国は日本、韓国、オーストラリア、イラン、サウジアラビアという、ロシアW杯出場国から生まれる可能性が高い。日本のライバルとなり得る4ヵ国の現状とプレイスタイルを紹介する。
4度目のアジア杯制覇を狙うイランの強みは堅守だ。グループリーグ敗退に終わったロシアW杯でも、それは十分に通用した。モロッコとの初戦で20年ぶりの勝利を挙げ、続くスペイン戦は0-1、ポルトガル戦は1-1。守備的な試合運びは“アンチフットボール”と批判されたが、欧州の強国を苦しめた。
2011年から指揮を執るカルロス・ケイロス監督は、イラン人特有の旺盛な闘争心と屈強な肉体を生かしたタフなチームを構築。すべての選手がハードワークを厭わず、球際でも臆することがない。このチームを破るのは容易ではないだろう。
安定した守りを誇るイランの懸案事項は得点力不足だ。ロシアW杯では受け身の戦いに終始したため、前線が孤立。グループリーグ敗退の要因となった。アジア杯の成否も攻撃陣の奮起にかかっている。ロシアW杯予選で11ゴールを挙げたFWサルダル・アズムンは、待望久しい本格派のストライカー。ロシアW杯では沈黙したが、スピードと高さに加え、懐の深さを備えた23歳は、爆発の予感を漂わせる。この男がグループリーグからコンスタントにゴールを決めれば、ベスト8以降進出が見えてくる。
W杯で6大会ぶりの勝利 球際での強さが光るサウジ
アジア杯で3度の優勝を誇るサウジアラビアも、優勝候補から外せない。過去9大会に出場し、6大会で決勝進出を果たした強豪中の強豪。だが、直近の2大会はグループリーグで姿を消している。
その理由は長期的な強化プランの欠落にある。なにしろ過去5年間で6度も監督が代わっているのだ。国内リーグがオイルマネーで潤っていることもあり、代表選手の大半が外国に出ようとしないことも成長に歯止めをかける。世界は遠く、アジアでの地位も下がりつつあるのが現状だ。
そんなサウジアラビアにとって、ロシアW杯は久々に明るい話題となった。2連敗後の消化試合だったとはいえ、エジプトに2-1と快勝。それは実に6大会ぶりの勝利となった。
ロシアW杯から引き続き指揮を執るピッツィ監督は、気まぐれで個人技頼みの同代表に規律と勝負強さを植えつけようとしている。ハードワークとデュエルを要求し、スペクタクルから現実路線への転換を図る。復権のカギとなるのはストライカー。ロシアW杯予選で16ゴールを挙げたアル・サフラウィは本大会で期待を裏切り、大会後一度も招集されていない。バヘブリ、カマラなど候補はいるが、エースが決まらないまま開幕を迎える可能性もある。
最後にひとつ。これは在日サウジアラビア人が教えてくれたことだが、この国の人々がもっとも燃える相手は、イランでもイラクでもなく日本だという。アジアカップでは2度の決勝を含む5試合で対戦。サウジアラビアは1勝4敗と大きく負け越している。彼らにとって日本は、優勝するために乗り越えなければいけない宿敵なのだ。
豪州&韓国の選手層は随一 親善試合でも好調
今年のアジア競技大会で優勝した韓国。FW ファン・ウィジョをはじめとする攻撃陣が躍動 photo/Getty Images
オーストラリアはロシアW杯でアジア勢唯一の未勝利に終わり、国民の期待を裏切った。好待遇で迎えられた元オランダ代表監督のベルト・ファン・マルバイク氏は責任を取って退任。かつてベガルタ仙台を率いたグラハム・アーノルド氏が、五輪代表とフル代表を兼任する運びとなった。
ピッチ内でも大きな変化があった。代表史上最多得点者のティム・ケイヒル、セントラルMFとして活躍したミル・ジェディナクが代表引退を表明したのだ。ふたりのカリスマを失ったが、アーノルド監督は自信ありげにこう語る。「我々は今まで、得点を決めるためにケイヒルを頼ってきた。だが今の我々には多くのタレントがいて、得点を取る方法も明確に見えている」
この言葉通り、新監督は組織力を押し出したポゼッションスタイルのチームを構築中。選手同士が密接な距離を保ってショートパスをつなぎ、守っても素早い切り替えでプレッシャーをかけ、ボールを奪い返す。ホームで引き分けた11月17日の韓国戦も、アーノルドの意図が反映されたポジティブな内容だった。最終ラインにはトレント・セインズベリー、中盤にマシュー・レッキー、ロビー・クルーズといった実力者が要所に揃う。また攻撃陣ではダニエル・アルザーニにケニア出身のアワー・メイビルなど、個性豊かな若手が台頭。選手層は厚く、連覇は射程圏内と言っていい。
あえて不安を探すとすれば、大きく押し上げた最終ラインの背後か。今のチームはボールの前に多くの選択肢を作るため、背後のスペースを突かれやすい。リスク覚悟で自分たちのサッカーを貫くか、それともリスクを抑えた現実的な戦い方をするのか。新監督の戦術的決断が大きなファクターとなりそうだ。
ロシアW杯では王者ドイツから金星を挙げた韓国だが、結果はグループリーグ敗退。技術不足は明らかで、それは持ち前の闘争心や走力をもってしても補うことはできなかった。“世界の壁”を突きつけられた韓国サッカー協会は、世界のトレンドを知る外国人指導者の擁立を目指したが、交渉は難航。リスト上位の候補者にことごとく断られ、かつてポルトガル代表を率いたパウロ・ベント氏に落ち着いた。
望まれた人選ではなかったものの、ベント体制は3勝3分け無敗と順調な滑り出しを見せた。新監督はポゼッションとビルドアップをコンセプトにチーム作りを進め、一定の成果を上げつつある。3度目のアジア制覇を狙う韓国代表のストロングポイントはアタッカー陣だ。今年のアジア競技大会で得点王に輝いたガンバ大阪のファン・ウィジョを最前線に、ロシアW杯2ゴールと気を吐いたソン・フンミンと伸び盛りのファン・ヒチャンが組む3トップは、出場24か国中トップクラスの破壊力を誇る。“韓国のメッシ”の異名を取るイ・スンウも虎視眈々と出番をうかがう。中盤は世代交代が急務だが、アジア屈指のCBキム・ヨングォンが統率する最終ラインは非常に手堅い。ボールを大切にするニュースタイルへの挑戦は始まったばかりだが、現状でも上位進出は十分に可能。魅惑の攻撃陣が爆発すれば、一気に頂点に駆け上がるかもしれない。
文/熊崎敬
theWORLD228号 2018年12月15日配信の記事より転載
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