[特集/いざ、アジアカップへ! 05]日本代表が得た新たな力・室屋成独占インタビュー

「自分らしさ」を見つめ直した

2018年はFC東京でリーグ戦30試合に出場 photo/Getty Images

 右サイドのタッチライン際を凄まじい勢いでアップダウンし、精度の高いクロスでゴールに結びつける。前への推進力があり、得点にも絡む。室屋成のプレイスタイルは見ていて清々しく、動きに迷いがない。驚異的なスタミナも魅力で、終了間際になってもなお長い距離を走って攻撃参加する。積極的に1対1を仕掛けるそのプレイスタイルは、いかにして誕生したのだろうか。その過程には、どんな紆余曲折があったのか─。J1最終節を控えた11月末、FC東京の練習場に赴き、室屋に話を聞いた。

─今季を振り返るとJリーグでは上位争いをするなか試合出場を続けて、ロシアW杯後には日本代表にも選出されました。手応えのあるシーズンだったのではないですか?

室屋 開幕当初はチームがあまり勝てず、自分自身もサイドバックとして全体のバランスや守備を意識してプレイしていました。結果として、試合に出られない時期(第4節、第5節)がありました。そのときに、だったら自分の特長を出したほうがいいと気持ちを切り替え、そこからはやりたいプレイをするようになり、試合にもまた出られるようになりました。同時にチームも勢いに乗り、すごく成長できているなと感じられるようになっていきました。やっと自分がやりたいプレイを表現できて、チームも勝つという、楽しいと思える時期を過ごせた1年でした。

─気持ちを切り替えるにあたっては、どなたかの助言があったのでしょうか? ご自身で解決されたのですか?

室屋 自分で解決しました。大学生のときから攻撃的なプレイが好きだったのですが、プロのサッカーはポゼッション重視で、ミスをしないフットボールが多いです。そのスタイルに適応しようとして、前に行きたいけどバランスを考えると行けないという感覚になっていました。そんな状態で2年間ぐらいやっていて、いまひとつ特長を出せていないなと思っていて、試合にも出られなくなった。だったら、自分がやりたいプレイをして出られないほうが納得いく。そう思って気持ちを切り替えました。

─プレイを見ていると前方への推進力をものすごく感じますが、現在のスタイルはどう確立されていったのでしょうか?

室屋 高校生のときはそこまで一人でぐいぐい仕掛けるタイプではありませんでした。得意ではあったのですが、まわりを使いながらオーバーラップし、クロスをあげるというもう少しサイドバックっぽい感じでした。変わったのは大学生のときです。明治大は人に強くなるための練習が多く、1対1ばかりやっていました。長友佑都選手を見ればわかってもらえると思いますが、ああいうスタイルの選手が評価されるチームなんです。大学に行ったことで変わりましたね。

─明治大を選択したのは、そういう指導を受けてみたいと考えたからですか?

室屋 進学するうえで、いろいろな大学を見学し、話も聞きました。最後はほぼ直感でしたが、明治大はみんながすごく走るし、戦うというイメージがありました。練習にも参加し、自分に合うかもと思って決めました。

─そもそも、なぜ進学を?

室屋 兄が大学に通っているのをみて、サッカーをやりつついろんな世界を知ることができるのなら、進学するのがいいかなと思いました。サッカーを知らない人にも出会えるし、なにより兄が楽しそうでした。大学に行ってからプロになる道もあったので、それでも遅くはないなと思って進学しました。

 ロシアW杯を終えて、日本代表は森保一監督のもと新たなスタートを切った。Jリーグを制覇した経験があり、コーチとしてW杯も経験した森保一監督は、日本人の特長を生かしたサッカーをするべくチーム作りを進めている。チーム全体が積極的に前へ仕掛けることを意識し、さらには一人一人が球際に強くいくというスタイルは、そのまま室屋成のプレイスタイルと一致している。実際、ロシアW杯後に日本代表は5試合を行なっているが、3試合に先発出場している。そして、しっかりと存在をアピールしたことでアジアカップを戦うメンバーにも選ばれている。

「代表はメチャメチャ楽しい」

オーバーラップからのチャンスメイクは代表でも期待される photo/Getty Images

─日本代表での役割、立ち位置をどう考えてチームに入っていきましたか?

室屋 なにかを特別に意識することはなかったですが、やっぱりレベルの高い選手が多いなと感じました。海外でプレイしている選手が多く、練習からもうメチャメチャ楽しいです。いまは通用しないなと感じる部分もなく、やれるなと思っています。もちろん、そのやれる部分をもっと成長させないといけないですが、それに関しても強い相手と対戦することで身体が慣れてくるものだと思っています。大きな舞台で強い相手と対戦することで成長できると考えています。

─日本代表が指向するスタイルと、室屋さんのプレイスタイルはマッチしているのではないですか?

室屋 たしかにやりやすさはありますが、森保監督に求められていることがあります。そして、その言われていることだけではなくて、自分の良さを表現しないといけない。監督からは前に仕掛けることをそこまで強く求められていませんが、自分から出していこうと思ってプレイしています。

─監督からは具体的にどんなことを言われているのですか?

室屋 前にどんどん当てていけと言われています。くさびのパス、斜めに入れるパス、ボールを奪ったあとに前に入れるパス。そういう攻撃のスイッチを入れるような前へのパスをどんどん出すことは求められていますね。

─縦パスを入れるタイミングについては細かい指示があるのですか?

室屋 多少のリスクを犯してもチャレンジしていい、続けていいと言われています。そこはFWがボールを収めないといけないという話をしています。だからこそ、どんどんチャレンジできています。前向きにプレイできるのでやっていて楽しいし、実際にまわりの選手もみんな前からどんどんいっている。見ている人が楽しいと思えるサッカーができていると思います。

─自分で前へ仕掛けるときに意識していることはありますか?

室屋 堂安律選手や伊東純也選手が前方でプレイしていますが、堂安選手はボールを持って中央へ入って行くので、上がるタイミングが掴みやすい。伊東選手は縦に速く、仕掛けたいポジションが重なる部分もあるので2人で話し合いながらやっています。いろんな特長を持った選手とプレイするなか、どんなときも自分の特長を出せるようになってきた実感があります。そういう感覚をもっといろんな選手とプレイして作っていければと思っています。

─同ポジションにはマルセイユで活躍する酒井宏樹選手がいますね?

室屋 すごくリスペクトしています。マルセイユで試合に出ているのはすごいことで、人に強く、突破されるシーンも少ないです。欧州では1対1の強さが評価の目安になるなか、しっかりと活躍している。日本だとポゼッションが多いので、対人が強くてもサイドバックはあまり目立たないと個人的には思っています。酒井宏樹選手のような人に強く、運動量もある選手が好きだし、自分もそういうところを得意にしている部分があります。

─目標にしていたり、お気に入りだったりするサイドバックはいるのですか?

室屋 あまりサイドバックの選手は見ないですね。いまは(エデン・)アザール選手をよくYouTubeで見ています。守っている選手の動きとかではなく、あくまでも彼のドリブルを見ています。すげえな、メチャメチャ抜くなと思って楽しんでいます。編集もカッコいいんですよね(笑)。

─海外のリーグはよく見ますか?

室屋 プレミアリーグをひとりのファンとして見ています。メッチャ面白いです。スタジアムの雰囲気もそうだし、展開がとにかく速い。いまはリヴァプールが好きですね。マンチェスター・シティとか上位には勝つのに、最下位のチームにコロッと負ける感じがなんとも言えないです。試合を見るときは自分のポジションの選手どうこうより、普通に全体を見ていますね。プレミアリーグは面白いし、エンターテインメントとして楽しいです。最高のショーみたいな感じです。

─海外でプレイしたいという気持ちはありますか?

室屋 そういう気持ちはありますが、なんと言うか、必ずしないといけないとは考えていないです。いい国に暮らして、楽しくサッカーができて、幸せだなと感じられることが一番大切です。行きたくもない国で、やりたくもないのにするのはちょっと違う。ただ、プレミアリーグでメッチャ激しくタックルされて倒されてみたいとは思います(笑)。

 現在進行形で成長を続ける右サイドバックが、数年後にどんな選手になっているか。ひょっとしたら、笑いながら語っていたプレミアリーグでプレイしているかもしれない。ただ、そこまでの道のりは険しく、簡単には通過できないことを誰もが知っている。では、どうするか? ここでの考え方はさまざまで、人によって違ってくる。きっちりと目標を立てて、達成に向けたプランを作ることでモチベーションとするのか。あるいは、遠い先のことは考えずに目の前の事柄に向き合うことをモチベーションとするのか。その選択に正解はなく、こういった部分にこそ個性が表われる。

「アジア杯で優勝するため代表の力になりたい」

「マイペースなんです」と笑う室屋 photo/Kazuyuki Akita

─将来的にどういうサッカー選手になっていたいですか?

室屋 目標を立てたり、先のことを考えたりはあまりしません。なぜなら、自分にはそっちのほうが合っていると気づきました。とにかく次の試合、目の前の試合に全力を尽くす。そうすることで道が拓けてくるのだと思います。なので、将来的にどんな選手になりたいと考えたことはないです。とにかく、日々成長することが大切です。

─そうすると、2022年カタールW杯はいまどんな位置づけにありますか?

室屋 考えていないですね。まだまだ先のことで、なにが起こるかわからない。W杯に出たいとは思いますが、だからといってこれからどうやってそこにたどり着くか、その道のりを考えたり、細かく目標を設定したりはしないです。気にしても仕方ないし、本当にどうなるかわからないので……。

─目標は立てないタイプですか? マイペースなのですね。

室屋 メチャメチャ、マイペースです(笑)。でも、それぐらいが自分に合っています。単純にサッカーをやっていて楽しいし、勝ったら最高です。代表であれば、あれだけ大勢の歓声のなかでプレイできるのはとてもすごいことです。そういうときに、サッカーをやっていて楽しいと思えるし、その気持ちがなによりも大事なので一番大切にしています。楽しいという気持ちがあれば、もっと成長できる。その先に道ができていくと思っています。代表に行くとみんなそれぞれ違う考え方があって、個性がある。自分のスタイルを貫くのが大事なのかなと思っています。

─小さいころからそういった考え方をするタイプだったのですか?

室屋 少なくとも、高校生や大学生のときはそうでした。それが、プロになって最初は意気込みすぎていたのか、あまりそういう感じでプレイできていませんでした。目標を強く掲げて、試合前には自分のなかでかなり気持ちを高めて臨んでいました。「絶対に負けない」と言い聞かせていたりしました。だけど、それが合っていなかった。自分らしくいるほうがいいと思って変えました。いまはシンプルに考えています。

─なるほど。では、1月に開幕するアジアカップについてはどう考えていますか?

室屋 もちろん、出場したいという気持ちはあります。そのためには、まず監督に選んでもらわなければならない。もし行くとなったら、優勝するための力になりたいです。代表のユニホームを着て、日の丸を背負ってプレイするのは本当にすごく幸せなことです。アジアカップに参加するとなったら、全力を尽くして優勝を目指します。

取材・文/飯塚健司

theWORLD228号 2018年12月15日配信の記事より転載
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