中盤の底に構えるマウリツィオ・サッリの教え子ジョルジーニョを中心にパスを回し、高いポゼッション率を維持して相手を圧倒していたチェルシーの勢いが落ちてきている。序盤は無敗のまま快調に飛ばしていたのだが、今となってはトップ4入りすら怪しい立ち位置となってしまった。アントニオ・コンテ前指揮官に比べて華麗なフットボールと大絶賛されていたチェルシーのサッカーに何が起きたのだろうか。
状況が変わり始めたのは、スコアレスドローに終わった11月のエヴァートン戦あたりからだ。徐々に相手チームがアンカーのジョルジーニョをマンマークで監視するようになり、ビルドアップの部分で問題を抱えるようになったのだ。決定的だったのはエヴァートン戦の2週間後に行われたトッテナム戦だ。1-3で敗れたこのゲームはチェルシーにとって今季リーグ戦初黒星となったが、このゲームではジョルジーニョを完全に消されてしまった。
トッテナムはハリー・ケインとソン・フンミンを2トップに配置し、トップ下にデル・アリを置く[4-3-1-2]のシステムで臨んできた。2トップはチェルシーのセンターバックにプレスをかけ、デル・アリはマンマークでジョルジーニョを監視する。ジョルジーニョがいかに苦戦していたかはデータにも表れていて、この試合でジョルジーニョは57回しかボールに触れていない。例えば3-0で勝利した10月のサウサンプトン戦ではボールタッチ数が100回を数えているため、その半分ほどになっていたと考えればジョルジーニョが上手くゲームに絡めていなかったことが分かってくる。
今となってはほとんどのチームがジョルジーニョにマークをつけており、先日2-0でチェルシーを撃破したアーセナルもトップ下のアーロン・ラムジーがジョルジーニョを監視していた。またピエール・エメリク・オバメヤンとアレクサンドル・ラカゼットの2トップで臨んできたところもトッテナムと同じで、これによってチェルシーはセンターバックとアンカーを使っての組み立てが難しくなってしまった。GKのケパ・アリサバラガから一気にサイドバックの選手へボールを通そうとするプレイが増え、この試合では左サイドバックのマルコス・アロンソ(106回)、右サイドバックのセサル・アスピリクエタ(102回)がボールタッチの数でチーム1位、2位となっている。もちろんこれもアーセナルは想定していたため、中盤のルーカス・トレイラ、グラニト・ジャカ、マッテオ・グエンドウジの3枚をスライドさせて潰している。
トッテナム戦もアーセナル戦もチェルシーのポゼッション率は60%を超えていたが、相手のプレスにコントロールされていたためにチャンスを作り出すことに苦しんでいた。ジョルジーニョがマークされていた場合はインサイドハーフのエンゴロ・カンテらがサポートにくるものの、カンテはゲームメイクを得意とする選手ではない。このゲームに限らず、1-2で敗れた12月のウォルバーハンプトン戦でもカンテのところは明らかに狙われていた。
しかもチェルシーのアンカーは守備面にも不安がある。トッテナム戦ではジョルジーニョがソン・フンミンにスピードでぶっちぎられて追加点を許したことが問題視され、ウォルバーハンプトン戦ではアンカーに入っていたセスク・ファブレガスがモーガン・ギブス・ホワイトに1対1で突破を許したところから同点ゴールに繋がるスルーパスを通されている。これがカンテをアンカーに据えた方がいいと言われる原因になっており、トッテナムに敗れたあたりからジョルジーニョには逆風が吹くようになった。
アーセナルとトッテナムは中盤をダイヤモンド型にした2トップの形でチェルシーを封じたが、これをヒントに同じような戦いを仕掛けてくるチームは今後も増えるだろう。サイドからビルドアップさせたところを中盤の選手がスライドして潰す形もアーセナルは徹底しており、チェルシー封じのヒントになったのは間違いない。もっともサッリはナポリでも似たスタイルで戦ってきており、そうした戦略に対応するだけの引き出しは持っているはずだ。しかし今季は就任1年目ということもあってか、まだプランBなるものが出来上がっていないように感じられる。ジョルジーニョ、さらにはダビド・ルイスからの組み立てが封じられてしまうと、やはり攻撃の質は落ちてしまう。
スコアレスドローに終わったエヴァートン戦を含めると、チェルシーは直近のリーグ戦12試合で13点しか奪っていない。エデン・アザールを0トップに置くなどセンターフォワード不足が影響した部分もあるだろうが、1試合平均得点率は僅か1.08点だ。さすがにこれで勝ち切るのは難しい。ミランから獲得した教え子ゴンサロ・イグアインに状況を変えてほしいところだが、サッリは別プランを見せることができるのか。ジョルジーニョ封じは今後も対戦相手にとっての共通テーマとして継続されることになるだろう。