[水沼貴史]アーセナルがELを制するために とるべき戦い方は?
水沼貴史の欧蹴爛漫 029
EL決勝でもオバメヤンとラカゼットの2トップが爆発か photo/Getty Images
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アザール封じに最適な[3-4-1-2]
水沼貴史です。セリエAを除く今季の欧州主要リーグが終わり、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグも決勝戦を残すのみとなりました。今回は現地時間29日に行われるUEFAヨーロッパリーグ決勝、アーセナル対チェルシーの見どころについてお話しします。今季のプレミアリーグでトップ4入りを逃してしまったアーセナルですが、ウナイ・エメリ監督の柔軟な采配のもとでヨーロッパリーグを勝ち進み、来季のチャンピオンズリーグ出場権確保へ望みを繋ぐことができました。今回の大一番でアーセナルはどのような戦い方をするべきでしょうか。
基本的にはチェルシーがボールを保持し、アーセナルがそれを迎え撃つという構図になるでしょう。マウリツィオ・サッリ監督のもとでパスサッカーを熟成させてきたチェルシーが相手ですので、エメリ監督としては彼らにボールを支配され、自陣で過ごす時間がある程度長くなることをふまえたうえで攻守のプランを練る必要があると思います。
今季エメリ監督は4バックと3バックを試合ごとに使い分けていて、プレミアリーグのチェルシー戦では2試合とも4バックで攻撃的に振る舞いましたが、この大一番では[3-4-1-2]の布陣でわざと引き気味に構えるのが得策なのではないでしょうか。一発勝負のカップ戦ファイナルということでより守備に重きを置くべきというのが理由のひとつですが、今季も切れ味鋭いドリブルでチェルシーの攻撃を活性化させているエデン・アザールを抑え込むには、3バックのほうが適していると私は思います。なぜなら、センターバック2枚の4バックよりも3バックのほうが最終ラインの中央に一人多く配置されているので、正面からパスやシュートを通されたり、中央突破される可能性が減るからです。中央を締めてしまえばアザールはサイドへ逃げざるを得なくなりますし、仮に彼がサイドからクロスを入れてきても3バックでしっかり中央を固めていれば、ボールを跳ね返せます。アーセナルの3センターバックと2ボランチが最後まで中央のスペースを閉じ、アザールを自陣のゴールやペナルティエリアから遠ざけることができるか。この点がひとつ勝負の分かれ目となりそうです。
セビージャでEL3連覇を達成したウナイ・エメリ監督。アーセナルにタイトルをもたらせるか photo/Getty Images
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カウンターを結実させられるか
[3-4-1-2]の後ろの7人で守備ブロックを作り、奪ったボールを素早くトップ下のメスト・エジル、もしくはアレクサンドル・ラカゼットやピエール・エメリク・オバメヤンの快足2トップへ送るというのが、アーセナルが今季のELでベースとしてきた布陣や戦い方です。エメリ監督が今季試した様々な布陣のなかで、この並びが一番良いのではないかと私は思っています。前の3人にある程度攻撃を託す形になるので、アーセナルとしては彼らが疲弊してカウンターの威力が無くなるまでに得点し、“先行逃げ切り”の展開を作りたいところでしょう。
また、この布陣や戦い方には後ろに多くの人を残したまま攻撃できるという利点がある反面、セアド・コラシナツとエインズリー・メイトランド・ナイルズの両ウイングバックが下がって5バックを作った時に中盤が2枚だけになり、2ボランチの両脇に大きめのスペースが空くという難点があります。アーセナルがこの布陣を採用した場合、チェルシーのインサイドハーフ(ロス・バークリーら)がこのスペースを狙ってくると思いますので、ここに入ってくる選手のマークを誰がするのかを明確にしておく必要があるでしょう。このデメリットを承知のうえでエメリ監督が[3-4-1-2]の布陣をベースとした堅守速攻にかけるのか、それともこの大一番にむけて他に奇策を用意しているのか。エメリ監督の出方が試合の流れに大きな影響を与えると思いますので、この試合をご覧の皆さんには、そういった観点で試合を楽しんで頂けたらと思います。
ではでは、また次回お会いしましょう!
※UEFAヨーロッパリーグ決勝、アーセナル対チェルシーの一戦は日本時間30日の早朝4時00分にキックオフ!
水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。