長谷部が最終ラインを統率 両サイドから攻撃を仕掛ける
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ブンデスリーガは良質なGKが多く、選出したペーテル・グラーチの他にもロマン・ビュルキ(ドルトムント)、ヤン・ゾマー(ボルシアMG)など候補がいた。そうしたなかグラーチを選んだのは、ライプツィヒの失点数が飛び抜けて少なく、グラーチの的確なコーチング、ミスのない正確なプレイが守備陣に安定感をもたらしているからだ。
単純にセーブ数などをみると、劣勢を強いられるチームのGKのほうが圧倒的に多い。しかし、同時に失点も多い。一方、ライプツィヒはGKも含めた守備組織が構築されていて、そもそも決定的な場面を迎えることが少ない。こうした状況だとGKは集中力をキープするのが難しいが、グラーチはいつも準備ができている。『Kicker』誌の平均採点でもビュルキと並んで最高点となっており、この点も加味して守護神とした。
フランクフルト守備の要として印象的な活躍を見せた長谷部 photo/Getty Images
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最終ラインは4枚でシステムは[4-4-2]だ。CBの長谷部誠はフランクフルトでは3バックの真ん中でプレイするが、ここでは4バックのセンターバックに。読みの鋭さ、ポジショニングの良さでスペースをカバーするとともに、正確なパスをつないで攻撃をビルドアップできる。今季の長谷部はシーズンを通じて熟練したプレイを披露。『kicker』誌で節毎のベストイレブンに2度選出され、公式HPでは今季ベストイレブンの候補にもなっている。フランクフルトの最終ラインを統率し、リーグ&ELでチームを躍進させた事実を考えれば、ここに名前があがっても当然となる。
パートナーを1対1の攻防に強いヴィリ・オルバンとしたことで、チャレンジ&カバーの役割も明確になる。オルバンはとくに空中戦に強く、公式HPが設けている「空中戦の勝利」部門ですべてのDFのなかで勝率1位となっている(FWを入れると3位)。長谷部、オルバンのコンビなら相手のカウンターを跳ね返しつつ、攻撃につなげることができる。
ダビド・アラバ、ジョシュア・キミッヒの両SBは運動量、スタミナともに豊富だ。お互いに前方への推進力があり、ラストパスも正確で、自分でフィニッシュする力もある。とくに、主力としての強い自覚と責任感を持つキミッヒはどんなときもパフォーマンスが低下することなく、自分がプレイする右サイドを掌握する。バイエルンはもちろん、ドイツ代表でも将来のキャプテン候補とされており、今季の活躍を考えると年間最優秀選手に選ばれてもおかしくない。
ハフェルツ&サンチョ 売出し中の若手が攻撃を操る
キャプテンとしてドルトムントを牽引したロイス photo/Getty Images
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守備的MFは攻守のバランスを考えると違った人選になってくるが、守備面をあまり考えずに今季のプレイから選出した。カイ・ハフェルツ、オンドレイ・ドゥダはトップ下での出場が多かったが、どちらも複数のポジションをこなせるタイプで守備的MFを務めた試合もあった。ハビ・マルティネス(バイエルン)、アクセル・ヴィツェル(ドルトムント)なども候補だが、より攻撃的にいくことを考えた。
ハフェルツは現在進行形で成長を遂げている19歳で、動きや判断に迷いがなく、フィニッシュの思いきりもいい。PKのキッカーを任されるなど信頼も得ており、実際に今季は16得点をマークしてチーム最多得点となっている。視野が広く、相手の急所を突くパスを出せる。また、スペースがなければ効果的なドリブルを仕掛けて状況を打開できる。リーグに存在するステップアップの法則に倣えば、数年後はバイエルンでプレイしているだろう。
ドゥダは高い位置でハードワークできるタイプで、いい意味でファウル数が多い。ハフェルツと縦の関係になり、後方で攻撃陣をサポートする役割を担う。とはいえ、今季ヘルタで得点源になっているようにドゥダ自身も得点力があり、いつでも前線に飛び出せる。ハフェルツ&ドゥダのコンビは意外といいかもしれない。
攻撃的MFのジェイドン・サンチョ、マルコ・ロイスは今季のドルトムントを牽引した2人であり、外すことはできない。サンチョがみせた技術力の高さ、俊敏性、アイデア豊富なプレイの数々はドルトムントのサポーターはもちろん、世界中のサッカーファンを魅了した。
複数の相手に囲まれる→軽やかなステップで相手をかわして密集を抜け出す→正確なラストパスを出す。何度もこうしたシーンが見られたし、なにより縦へ抜け出すスピードが圧巻で、マッツ・フンメルス(バイエルン)もサンチョの引き立て役として豪快に抜き去られた。末恐ろしい19歳である。
サンチョも含めて、元気な若手からアシストを受けてゴールを量産したのがロイスだ。類まれな身体能力、技術力の持ち主で、トップスピードを維持したまま思いのままにプレイできる。端からみると難しいシュートでも、ロイスにとっては普通のこと。第11節バイエルン戦でみせたボレーシュートのように、相手にしてみれば諦めるしかないスカッとするゴールが多いのが特長だ。
2トップはレヴァ&ヨビッチ、指揮官はファブレが務める
今季17得点とブレイクを果たしたヨビッチ photo/Getty Images
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チームメイトからの手厚いサポートを受けてフィニッシュする前線には、決定力のある2人を配置した。ロベルト・レヴァンドフスキは例年よりもゴール数を減らしているが、それでも自身4度目の得点王になることが濃厚だ。身体の強さ、シュートのうまさを兼ね備えていて、ゴールのカタチが豊富だ。優勝へ向けて大事な一戦だった第28節ドルトムント戦では勝負強さを発揮して2得点をマーク。最大のライバルを5-0の大差で下す勝利に貢献し、変わらない存在感を発揮した。
2トップのパートナーは前線をかき回し、自らも得点できるルカ・ヨビッチとした。フランクフルトではセバスティアン・アレとコンビを組み、17得点とゴールを量産した。レヴァンドフスキと同じくさまざまなカタチから得点できるマルチな能力を持つストライカーで、第8節デュッセルドルフ戦では1試合5得点という離れ業をなし遂げている。
他にもパコ・アルカセル(ドルトムント)、ティモ・ヴェルナー、ユスフ・ポウルセン(ともにライプツィヒ)なども活躍が目立った。ヨビッチとアレの2トップ、ヴェルナーとポウルセンの2トップなら意思の疎通が取れていてすぐに機能しそうだ。
こうした選択肢があるなか、得点王のレヴァンドフスキを“核”に、彼を生かしつつ、自分も生きることができるヨビッチをパートナーとした。そして、交代出場でも活躍できるパコ・アルカセル、2トップをそのまま代えることを想定してヴェルナーとポウルセンを前線の控えとした。
他の控え選手はドルトムントの守備を支えたGKビュルキ、DFマヌエル・アカンジの両名に、中盤は試合の流れを変えることができるチアゴ・アルカンタラ、クリスティアン・プリシッチとした。セルジュ・ニャブリ(バイエルン)、ユリアン・ブラント、ケビン・フォラント(ともにレヴァークーゼン)なども「個」の力で状況を打開する力を持ち、際立つ存在感を放っていた。いずれも、選外とするのが惜しい選手たちだ。
このベストイレブンを指揮する監督は、ルシアン・ファブレとした。デュッセルドルフのフリードヘルム・フンケルも苦戦が予想されたチームを中位に導く手腕をみせたが、大敗、完敗も多かった。対して、就任1年目でスター揃いのドルトムントを好転させたように、人心掌握に優れたファブレなら個性派集団でもうまくまとめられるはず。監督、選手ともに、今季のブンデスリーガを盛り上げた面子となっている。
文/飯塚健司
サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より5大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級
theWORLD233号 2019年5月15日配信の記事より転載