[特集/Jを進化させる理想家vs策士 01]J1好調チームの原動力は指揮官だ 後編

片野坂監督はJ1を席巻中 渡邉監督はリアリストか

渡邉監督は、仙台をどんな相手でも戦える強靭かつ柔軟なチームに育て上げた photo/Getty Images

 現実的かつ柔軟な判断を下している「策士」タイプとしては、まずは大分トリニータの片野坂知宏監督があげられる。J2時代は対戦相手によってシステム、起用する選手を代えることから本誌で連載中の名良橋晃氏が「カメレオン・サッカー」と呼んでいた時期もあった。

 自分たちのストロングポイントがどこにあり、相手のどこにウィークポイントがあるのかを分析し、しっかりと準備して試合に入る。ハイラインの相手には躊躇なくロングボールを出して背後のスペースを狙い、サイドに起点を作れるときはサイドから崩す。第4節横浜FM戦では狙いどおりにカウンターから藤本憲明が2得点し、2-0で完勝している。

 セレッソ大阪のロティーナ監督は理想的なサッカーを指導しつつ、現実に則して戦う柔軟性がある。シーズン当初は昨年からの主力であるソウザ、柿谷曜一朗といった選手たちを起用していたが、徐々にピッチに立つ選手の顔ぶれが変わってきている。第8節まで2勝1分け5敗と苦戦していたが、以降の8試合は6勝1分け2敗と勝点を稼いでいる。これは、戦術の浸透、選手の見極めが確実に進んでいることの表われだといえる。

 すでに周知のとおり、ロティーナ監督にはイバン・パランコという“右腕”がいる。ときにピッチサイドに立って指示を送るのはイバンで、両者は共通した考えを持ってチーム作りを進めている。J2では東京Vを2年連続で昇格プレイオフに導いたが、C大阪ではどのような成績を残すのか──。5レーン理論に基づくポジショナルプレイを指向している監督であり、鹿島アントラーズや川崎フロンターレのような戦術理解度が高い選手が揃ったチームを率いたときに、どんなサッカーをみせるか想像力がかき立てられる監督である。

 ベガルタ仙台の渡邉晋監督は「攻守で圧倒するのが理想だが、自分たちがやりたいことをやるのではなく、相手が嫌がることをやるのもサッカー」と語ったことがある。クラブの規模、選手の顔ぶれを冷静に見渡したうえでの判断で、実際に勝点を積み重ねてJ1での戦いを続けている。

 とはいえ、自分たちで主導権を握るサッカーを理想としており、それができなければ頂点には立てないとも理解している。すなわち、理想と現実の狭間でチーム作りを進めつつ、しっかりと結果を残している。ある意味、渡邉晋監督はJ1のなかでもっとも現実的な指揮官なのかもしれない。

 川崎に2連覇をもたらした鬼木達監督は、攻撃的でありながらも実は柔軟性が高い指揮官だ。「自分たちでボールを持つこと。いかに相手に時間を与えないかが自分たちのサッカー」と理想を語る一方で、就任当初から「粘り強く戦うこと、辛抱強く戦うこと」を選手たちに訴えてきた。90分間のなかでは自分たちのリズムで戦えない時間も必ずある。そのときに、いかに失点しないかが大事で、2017年、2018年の川崎は鬼木監督のもと攻撃力を落とすことなく守備力を高めたことでJ1を2連覇するに至っている。

 また、選手起用に関しても柔軟性があり、知念慶、守田英正、田中碧、馬渡和彰、脇坂泰斗などピッチに送り出された選手たちがしっかりと結果を残している。風間監督の攻撃的なサッカーを継続しつつ、うまく現実的な折り合いをつけた。さらに、次代を担う選手の発掘もしている。鬼木監督は現実的かつ柔軟性のある監督だといえる。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD No.235より転載

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