単純に戦術を落とし込むといっても、そこにチーム作りの難しさがあり、その過程で想定外の敗戦を喫したことがあった。一方で、チームは確実に成長しており、J1の舞台で狙いどおりに勝利を収めた試合もあった。また、チームマネジメントはピッチ内外に及ぶ。そこでの難しさとは、どういったものなのだろうか。
―戦術をチームに落とし込むときに、どのような難しさを感じましたか?
片野坂 いざ試合がはじまると、やれているとき、やれていないときがあります。やれていないときいかに修正するかにおいて、私自身まだ経験不足なところがあります。そうしたときのために、プランをたくさん持つようにしています。リードしたとき、ビハインドになったとき、得点が必要なとき、守るとき。90分間のなかにいろいろな状況があるので、対応策を考えておく。想定外でまったくどうしようもないという状況を無くさないといけないです。そのために、日頃のトレーニングで選手個々のパフォーマンスやメンタルの状況を判断したうえで11人を決め、さらには90分間の戦いのなかでどんな状況が起こるかを考えてプランを立て、切れるカードを準備しておかないといけないです。
―去年のJ2第16節甲府とのアウェイゲームでは、立ち上がりから失点を重ねました。「嫌な予感がしていた」と試合後にコメントしたのが印象的でした。
片野坂 開始15分で4失点しました。ウォーミングアップからあまり良くなかった印象で、試合の入りがどうなるか……と思っていました。逆に甲府さんは非常に気合が入っていました。前からプレッシャーをかけてくるとわかっていましたが、屈することでボールをロストし、アッという間に失点して終わってみれば2-6の大敗です。本当に良い教訓になった試合で、このプレッシャーを回避できるチームにならないといけないと感じました。大敗後はボールを繋ぐのが怖くなって戦術を変えてしまうことがありますが、私は変えるつもりはありませんでした。ただ、メンタル的に選手は逃げたいところがあると思ったので、『少し蹴ってもいいよ』と逃げ道は作りました。
―では逆に、今季一番ハマッたなという試合はありますか?
片野坂 2-0で勝利したホームの横浜FMさんとの一戦ですね。攻撃、守備の狙いを選手たちが遂行してくれて良いゲームをしました。横浜FMさんはポステコグルーさんのもとGKからしっかりボールを繋ぎます。SBのポジションも内に入ったり、中盤に加わったり、大外を上がったりで、そこから背後を狙ってくる。各選手が本当に嫌なポジションを取り、常にゴールを向いた攻撃を仕掛けてきます。このSBへの対応や攻撃の起点となるアンカーのところをいかに管理するかが大事だったなか、狙いがうまくハマりました。いいボールを配給させずに、出てきたボールにグッと身体を寄せて奪い、マイボールにした瞬間に早い攻撃を仕掛けることができました。ただ、さすがに一筋縄ではいかず、アウェイでは0-1で負けてしまいました。やはり、横浜FMさんも前半戦でわれわれとやったときに悔しい敗戦をしていたので、リベンジという思いがあったのだと思います。
―J1はすでに後半戦に突入しています。今後、勝点を積み重ねていくためにはどのようなことが必要だと考えていますか?
片野坂 選手が戦術を信じて、90分間粘り強く、積極的に挑戦してくれています。ここまで負け試合で勝点1を拾えたことがあれば、なんとか逃げ切って勝点3を得た試合もあります。紙一重の戦いをやってきているので、後半戦もスキを作らず、気持ちを切らさずにより強度を高めてやっていかなければいけないです。連敗すると、すぐに下位に追い付かれる怖さがあります。夏場の厳しい時期に強度が落ちないようなトレーニングをし、相手のウィークポイント、ストロングポイントを明確に選手へ伝える。90分間、狙いをしっかりと遂行できる選手を選び、準備することが勝点を積み重ねることに繋がると思っています。
―チームマネジメント全体を考えたときに、大事にしているのはどのようなところなのでしょうか?
片野坂 選手にどのように接するかは、すごく気を使うところです。経験がある選手、若い選手では接し方を変えるべきですし、当然、選手個々で性格も違います。試合に出ている、出ていないでも変わってきます。一人一人がいろいろな考えを持っていて、それぞれにプロとしての姿勢があるので、各選手の個性を常に観察しています。そして、選手に差をつけないようにしています。Aの選手にはコミュニケーションを取るのに、Bの選手には取らないとはならないようにしています。また、選手の矢印がチームを向いていないときには、『チームのために』という話をしないといけない。全体が同じベクトルを向くように、気を使ってコミュニケーションを取るようにしています。ただ、4年目を迎えて、選手とあまりコミュニケーションを取らない1年になっています。
―それはなぜでしょうか?
片野坂 より厳しい戦いになってきたことで、戦術を落とし込むときにメンバーを外したり、試合によってメンバーを入れ替えたりしています。勝っているチームはいじらないという考えもありますが、私は得点しても次の試合で起用しないことがあります。対戦相手によって入れ替えるので、不満がある選手もいると思います。もし納得いかないのであれば、言ってほしいとずっと伝えてきました。私の考えが浸透してきているのか、いまはもう、そういうコミュニケーションはほぼ取らなくなりました。以前、持っているポテンシャルを出し切れていない選手がいたときは、覚悟を持ってやるように私自身が伝えました。それでもやってくれなかったときは、はっきりさせなければならないと心のなかで決めていました。そういった部分では、選手に厳しくなっていると思います。
インタビュー・文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD No.235より転載
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