コンセプトにマッチしたチーム構成 「縦に速く」体現する選手揃う
押しも押されもせぬリ ヴァプールのエースで あるサラー。2年連続 でプレミア得点王に 輝いているこの男に は今季もゴール量産 の期待がかかる photo/Getty Images
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8戦全勝(第8節終了時点)でプレミアリーグ首位を走るリヴァプールにとって優勝は悲願だ。プレミア発足前のイングランドリーグでは最多優勝だったのに、1992年以降は1回も優勝していない。チャンピオンズリーグには昨季も優勝しているのになぜか国内では勝てない。
ユルゲン・クロップ監督になってからの課題は、下位クラブに対する取りこぼしだった。守備を固められると打開できない試合があったのだが、
それもすでに克服している。ただ、今季もマンチェスター・シティとのマッチレースになりそうな様相であり、取りこぼしは最小限にとどめたい。しかし、現在の勢いがどこかで止まる可能性はけっこうあると予想している。
リヴァプールのプレイスタイルの特徴はインテンシティの高さだ。攻撃は「縦に速く」が基本姿勢。ここはマンCとの最も大きな違いだろう。それはリヴァプールの強みであり弱点にもなりうる。
マネ、フィルミーノ、サラーの3トップは今季も絶好調。スピードと対人の強さを持つ3人の生かし方として、スペースのあるうちにボールを届けるのが理にかなっている。つまり「縦に速く」だ。MFには運動量とボール奪取力に優れた戦士が並ぶ。ヘンダーソン、ミルナー、ワイナルドゥム、ケイタ、ファビーニョ、ララーナ、オックスレイド・チェンバレンのうち3人が起用される。彼らは技術も高いが、組み立て能力に特別秀でているわけではない。ただし、3トップへのサポートとセカンドボールの回収、プレッシングが主な任務なので、それにはピッタリの人材が揃っている。
スペースがあるうちにロングボールを蹴って3トップが拾う、たとえ奪われてもすぐさまハイプレスをかけて回収して波状攻撃――こうなったらリヴァプールのペースである。そこで対戦相手はディフェンスラインを下げて3トップのスペースを消し、リヴァプールのMF陣にボールを持たせることで、アイデア不足による手詰まりを誘発、パスワークが停滞した隙をついてカウンターを狙う戦法を採っていた。実際、3年前までリヴァプールはこれにかなり苦しんでいた。だが、アレクサンダー・アーノルド、ロバートソンのサイドバックが急成長を遂げ、彼らの攻撃参加によって相手の壁を叩き壊せるようになっている。
付け入る隙は存在する? リスク上等の作戦に可能性アリ
最終ラインに君臨するファン・ダイク。守備 面では最高級の活躍を見せる彼だが、ビル ドアップ時に狙われる可能性もあるか photo/Getty Images
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懸念されるのは相手が引くのではなく、前に出て守るケースだ。まだそれで成功した相手はいないが、いずれ問題になる可能性がある。
リヴァプールはマンCのような後方からのビルドアップができない、というよりするつもりがない。マンCの「偽サイドバック」のような、ポジションを移動してフリーマンを作り出すようなビルドアップを行っていない。「縦に速く」が基本なので、形状変化をする時間も必要性もないからだろう。ただ、それは狙われるかもしれない。
リヴァプールだけでなく、プレミアのクラブの多くは後方ビルドアップでの形状変化を行っていない。例えば、トッテナムもそうだ。味方と相手がセットになっているところへボールをつなぐので、1対1に負けてボールを奪われるとショートカウンターを食らいやすい。スパーズは序盤にそこを何度か突かれている。リヴァプールの場合、スパーズと違って中盤につなごうとしておらず、DFからFWへ一気に長いボールを蹴るので大怪我をしていない。また、多くのケースでボールの預けどころとなっている両サイドバックが1対1に強く、サイドバック同士のロングパスができるのでハイプレスを回避できている(ボールと逆サイドのサイドバックにマークはつかないので)。あるいは、フィルミーノが適宜下りてきてボールを預かることもできる。
しかし、リヴァプールがビルドアップを狙われて無傷でいられるのは個の力によるもので、チームとしての組織ではない。ビルドアップを重視するチームなら、通常左利きが務めるはずの左側のセンターバックは右利きのファン・ダイクが担当している。これを見てもリヴァプールがビルドアップでボールを着実に運ぶ意図をチームとしては持っていない、あるいはその意思が希薄だとわかる。
ビルドアップのキーマンであるアレクサンダー・アーノルド、ロバートソン、フィルミーノの3カ所が1対1で不利になるか、この中から誰かが欠場した場合に相手のハイプレスに食われるリスクは増大する。そのときにリヴァプールはチームとしてハイプレスをかわす仕組みを持っていない。
もっとも、できないわけではない。サイドバックがマンCの偽サイドバックのような動きをすることもある。アンカーがディフェンスラインに下りて数的優位を作ることもやろうと思えばできる。ただ、それをやって相手のプレスを回避するよりも、縦に大きく蹴ってしまったほうがリヴァプールのリズムになるのでやらないだけだ。
逆に言うと、対戦相手は計画的なハイプレスを仕掛けることでリヴァプールのビルドアップを行き詰まらせることはできるかもしれないが、そのぶんディフェンスラインは高く上げなければならず、それはマネ、フィルミーノ、サラーに広大なスペースを提供することになる。つまり、作戦として“諸刃の剣”なのだ。この策が成功するとすれば、むしろリヴァプールが慣れない形状変化を使ってハイプレスをかわそうとした場合だろう。そうすることでミスをつくか、悪くてもリヴァプールの縦への力強い攻撃という最強の武器を封じることができる。
やはりカギ握るは上位対決か プレミアのライバルは甘くない
やはり最大のライバルはマンCか。3トップにボールが渡らな い状況となると、苦しい展開が待ち受けているかもしれない photo/Getty Images
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下位クラブによる捨て身のハイプレス作戦以外では、上位対決がカギになるだろう。最右翼はやはりマンCで、彼らがリヴァプールのプレスをかわして押し込み続け、ロングボールによるカウンターをカットし続ければ、いずれリヴァプールはビルドアップの手詰まりから劣勢に追い込まれる。もちろん、逆にリヴァプールが一方的にマンCのパスワークを破壊する展開もありうる。どちらが主導権を握るかでゲームの行方は決まりそうだ。
いずれにしても、リヴァプールにはビルドアップの不備という弱点がある。そこを先にライバルが突くか、やられる前にリヴァプールが対策を打つか。ここで引っかからなければ、このまま独走もありうるが、プレミアがそう甘いとは思われない。
文・西部 謙司
theWORLD238号、10月15日配信の記事より転載
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