スパーズで“モウリーニョ旋風”は起こせる スペシャル・ワン反撃の時

トッテナムを指揮するモウリーニョ photo/Getty Images

チームのベースは出来ている

指揮官をタイプ別に分けるとするならば、名将ジョゼ・モウリーニョは明らかに短期成功型のタイプだろう。2年目が得意とよく言われるが、モウリーニョは即戦力となる才能溢れる選手たちをまとめ上げ、短期的に結果を残すことを得意とする指揮官だ。その手法でタイトルを荒稼ぎしたことから名将との評価を確立したわけだが、マンチェスター・ユナイテッドではその評価を落とすことになった。

ヨーロッパリーグ制覇などタイトルも獲得したが、モウリーニョの派手なキャリアから考えればマンUでの仕事は失敗だったと言っていい。モウリーニョの時代は終わったのではなんて見方もあったが、短期成功型のモウリーニョに今のマンUは合っていなかったとも言える。すでにマンUはデイビッド・モイーズ、ルイ・ファン・ハールとバトンを繋いでいく中で混乱状態に陥っており、チームには明確な形というものがなかった。ゼロから時間をかけてチームを作り上げていく作業はモウリーニョが得意とするものではない。

モウリーニョはチェルシー、インテル、レアル・マドリードなど名門で結果を残してきたが、いずれも即戦力プレイヤーが集まるチームばかりだ。

チェルシー第一次政権では圧倒的な資金力を武器に優秀な選手を集め、ディディエ・ドログバやリカルド・カルバーリョ、マイケル・エッシェンら新戦力を活かしながらイングランドを支配した。当時のチェルシーも選手を育成したというよりは、タレントを集めた印象が強い。

インテルもセリエA3連覇を果たしていたロベルト・マンチーニのチームを引き継ぐ形となり、そこにウェズレイ・スナイデルやディエゴ・ミリート、サミュエル・エトーらを加えて3冠を達成した。絶対的リーダーのハビエル・サネッティ、鉄壁センターバックのワルテル・サムエル、守備的MFエステバン・カンビアッソ、守護神ジュリオ・セーザルら守備陣はすでに完成していたため、モウリーニョ好みのチームに仕上がっていたと言える。

レアルも説明不要なタレント軍団であり、セルヒオ・ラモスにクリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、メスト・エジル、アンヘル・ディ・マリアらワールドクラスの選手とともにリーガ・エスパニョーラ制覇を果たした。当時も若手育成とは無縁に近い生活を送ることになり、モウリーニョが得意とする2年目を迎える頃にはチームが出来上がっていた。

これらのチームに比べると、マンUは小粒な印象が否めない。ポール・ポグバ、ロメル・ルカクら優れたタレントはいたが、チームは再建途中だった。モイーズ、ファン・ハールの下で補強方針は乱れ、一貫性のない補強を続けたことでチームスタイルが見えなくなっていた。モウリーニョがお得意とする短期成功へ持っていくにはハードルが高すぎるチームだったと言えよう。

では現在指揮するトッテナムはどうだろうか。トッテナムは今季序盤戦こそ躓いたが、6月にチャンピオンズリーグ決勝を戦ったばかりの実力ある組織だ。前指揮官マウリシオ・ポチェッティーノがしっかりとベースを築いており、各ポジションに優れた選手が揃っている。

特に攻撃部分はモウリーニョ好みのオールラウンド型FWであるハリー・ケインを筆頭に、スピードを武器にカウンターアタックもこなすソン・フンミン、ルーカス・モウラ、MFとは思えぬ得点力を備えるデル・アリなど役者が揃う。ケイン、アリの2人はポチェッティーノが育てた弟子のような存在で、ポチェッティーノ政権の間にトップレベルの選手へと成長を果たしている。モウリーニョにとっては大きすぎる遺産だ。

中盤にもモウリーニョがマンU時代に興味を示していたとされる大型の守備的MFエリック・ダイアー、縦への推進力を備えるムサ・シソコ、今夏にリヨンから獲得した若きフランスの才能タンギー・エンドンベレなど、バラエティに富んだタレントが揃っている。モウリーニョ好みの身体能力に優れた選手が多く、中盤もなかなか豪華なエリアだ。

最終ラインは前線に比べるとややインパクトは薄く、今後の補強ポイントとなってくるかもしれない。恐らくチャンピオンズリーグ決勝トーナメントなど強豪とぶつかるケースでは、モウリーニョお得意の守備的な戦いを選択する機会も出てくるだろう。その時に相手の攻撃陣をシャットアウトするだけの強固な守備陣が必要となる。実際にモウリーニョ就任後の3試合では2失点ずつ喫しており、最終ラインの顔ぶれは満足のいくものではないのだろう。

それでもベルギー代表のヤン・ヴェルトンゲン、トビー・アルデルヴァイレルトと経験豊富なセンターバック2人に加え、コロンビア代表のダビンソン・サンチェスもいる。マンU就任当初に比べれば、最終ラインもある程度の役者は揃っている。今後の補強がスムーズに進めば、強豪とも互角に戦えるはずだ。

さすがにレアル、インテル、チェルシー第一次政権のタレント力と比較することはできないが、今のトッテナムにはモウリーニョ好みの選手も揃っている。ポチェッティーノが築いたものを活かしつつ、今後の市場で的確な補強をおこなうことができればトッテナムでもモウリーニョお得意の2年目旋風を巻き起こせる可能性は十分に考えられる。それだけのベースは揃っているはずで、今こそ名将モウリーニョここにありと示す時だ。

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