[特集/魅せる新監督 04]ロジャーズ流は完成の域へ レスターは再び夢を見る

プレミアに舞い戻った名将 中堅チームを高みへ導く

プレミアに舞い戻った名将 中堅チームを高みへ導く

レスターは第12節終了時点で堂々の 2位。昨季半ばから仕込んだロジャー ズ監督のサッカーが花開いている photo/Getty Images

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昨シーズンの29節以降、ブレンダン・ロジャーズ体制下のレスターは、プレミアリーグ22試合で13勝4分5敗・勝点43。このデータをフルシーズンに当てはめると勝点は74を超え、昨シーズン3位のチェルシーを上まわる。チャンピオンズリーグ出場権獲得だ。また、今シーズンは本拠キングパワー・スタジアムで5勝1分無敗・勝点16の快進撃。12節終了時点の総合成績でも8勝2分2敗・勝点26と好調で、首位リヴァプールに8ポイント差の2位に付けている。

「喜怒哀楽が伝わってこない」「上位チームには堂々としているのに、降格圏で苦しむ相手になると意気地なしだ」。レスターのサポーターは、2017年10月の監督就任直後からクロード・ピュエルを歓迎していなかった。トレーニング方法をめぐるカスパー・シュマイケル、クリスティアン・フクスとの対立も表面化し、ピュエルは14か月足らずで解任の憂き目に遭った。

後任として起用されたのがロジャーズである。引き抜かれたセルティックからは「せめてシーズン終了まで」「裏切者」とネガティブな感情が噴出したが、スコットランド1部リーグとプレミアリーグでは、そのブランド力が比較にならない。リヴァプールを追われてから3年4か月、ロジャーズは世界のトップステージに舞い戻ってきた。
新監督は、大胆なモデルチェンジを図る必要がなかった。求心力を失ったとはいえ、ピュエルの指導によってポゼッションスタイルが浸透しつつあったからだ。しかもジェイムズ・マディソン、ウィルフリード・エンディディ、リカルド・ペレイラ、ベン・チルウェルなど、若い才能にあふれている。

ただ、ポゼッションしている割にはチャンスが少ない。そこでロジャーズは、チーム全体に縦を意識させたという。ボールをつなぐだけではなく、よりゴールをイメージするように働きかけた。29節以降は5勝2分3敗。5勝のなかにはアーセナルをポゼッション率、シュート数、決定機など、あらゆるデータで上回った2-0の快勝も含められており、この一戦で「2019-20シーズンの方向性が決まった」(ロジャーズ)

レスターのビルドアップ を牽引するティーレマン ス(左)とマディソン photo/Getty Images

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19-20シーズンは昨シーズン終盤同様、[4-1-4-1]を基本陣形に用いている。GKにシュマイケル、最終ラインは右からリカルド、ジョニー・エヴァンズ、チャーラル・ソユンク、チルウェル。アンカーにエンディディを配置し、中盤インサイドは右がユーリ・ティーレマンス、左にマディソン。右ウイングがアジョセ・ペレスで、左はハーヴィ・バーンズ、そしてセンターフォワードは12節終了時点で10ゴールを挙げ、得点ラ
ンク首位を走るジェイミー・バーディだ。

ビルドアップの軸はマディソンとティーレマンスである。両者ともパスセンス、状況判断に優れ、なおかつ運動量も豊富だ。彼らがボールを持つと、周囲も瞬時に反応する。バーディが巧みなステップでマーカーから消え、両ウイングは幅を取り、あるいは斜めの動きで相手DF陣をイレギュラーな陣形に崩していく。スピーディーなパスが縦横につながり、リズムとテンポも小気味よい。ここに両サイドバックの大外急襲とインナーラップまで加わるのだから、守備側が戸惑うのは当然だ。

ボールロスト時の反応も素早く、かつ鋭い。攻めから守りへスイッチを即座に切り替え、相手ボールホルダーにプレスをかける。特筆すべきはバーディだろうか。32歳になったいまも運動量は衰えず、試合終盤まで、後半の追加タイムまで走りつづける。ロジャーズが「ジェイミーはフォーエバーヤングだね」と脱帽し、当のバーディ本人も次のように語っていた。

「ちょっと前までは無駄走りも多かったみたいだ。でも、監督にパスコースを限定するだけで構わないよ、とアドバイスされたので、ピッチを横断してまでボールホルダーを追いかけるようなことはしなくなったな。32歳になって、またひとつフットボールを学習したよ」

強豪にもひるむことなし 狙うは4シーズン前の再現

強豪にもひるむことなし 狙うは4シーズン前の再現

第12節アーセナル戦 に完勝。この勢いを年 末のシティ戦、リヴァ プール戦まで維持でき れば、あるいは…… photo/Getty Images

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バーディが中央部ににらみを利かせながらサイドに追い込み、両ウイングとふたりのインサイドハーフが虎視眈々とボールハントを狙う。この動きがスムーズであるため、アンカーのエンディディは12節終了時点でリーグ最多の36インターセプトを記録している。

トッテナムはサイクルが終わり、アーセナルとマンチェスター・ユナイテッドは監督の能力が疑問視されている。もはや〈ビッグ6〉は死語とな
り、プレミアリーグの勢力分布図は書き換えられようとしている。もちろん、レスターはリヴァプールとマンチェスター・シティの二強にはまだ及ばない。しかし、その差が次第に小さくなっていることは、序盤戦のパフォーマンスでも明らかだ。

12月21日、レスターはシティとのアウェイゲームに臨み、6日後のボクシングデイはリヴァプールを本拠キングパワーに迎え撃つ。今シーズンを占う意味で、実に興味深い2試合だ。仮に二強を連破すれば、周囲はざわつきはじめるに違いない。4シーズン前と同じ結末へ──。

theWORLD239号、11月15日配信の記事より転載

文/粕谷 秀樹

スポーツジャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

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