[名良橋晃]日本代表強化、大混戦のJ1…… 2019年を振り返る

難しかった代表強化 着実に前進している

難しかった代表強化 着実に前進している

コパ・アメリカには久保も参戦し、好パフォーマンスを披露して評価を高めた photo/Getty Images

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 毎年のことですが、2019年も日本サッカー界にはいろいろなことがありました。日本代表をみれば、ロシアW杯後に就任した森保一監督のもとアジアカップ、コパ・アメリカという2つの大きな大会に挑みました。アジアカップでは決勝に進出したものの優勝はできず、コパ・アメリカはグループリーグ敗退となりました。

 しかし、過密日程、ケガ、拘束力などの問題があり、どちらも招集できる選手に縛りがあるなかでの戦いを強いられました。こうした戦いを経てその後に開幕したカタールW杯アジア2次予選では順当に白星を重ねています。少しずつですが、着実にチーム作りが進んでいるのかなと感じています。ただ、一方ではチーム強化に関して少し迷走しているのかなという不安も垣間見られます。

 というのは、2020年東京五輪に向けたU-22代表(来年度からU-23)の強化も考えなければならず、どのタイミングでどちらの代表にどの選手を呼ぶのか判断が非常に難しく、いざ日本代表が発表されたときに、その顔ぶれをみて「日本代表なのか?」と受け止められてしまうケースがあります。日本サッカー協会に選手の拘束力がない大会では、どうしてもそうしたメンバーになりがちです。結果としてベネズエラ戦(11月19日/1-4)のような完敗があると、「やっぱり海外組のほうが……」という声が大きくなってきます。
 難しい条件付きのなか強化していた今年を象徴するように、年末を迎えて日本代表はEAFF E-1サッカー選手権に初代表が多いフレッシュな顔ぶれで臨んでいます。12月28日にはU-22代表のジャマイカ戦が長崎県で開催され、年が明けるとすぐにAFC U-23選手権に向けてタイへ出発します。いずれにせよ、条件や縛りなど関係なく、どの大会にも調子の良い選手、これから日本サッカー界のためにやってくれないと困る選手たちで臨んでいます。これらの試合で活躍し、2020年3月26日、31日のW杯アジア2次予選や東京五輪のピッチに立つ選手に出てきてほしいです。

 2020年は東京五輪を戦うU-23代表がやはり高い注目を浴びると思います。日本代表が3月26日、31日の2試合でW杯アジア2次予選の突破を決めることができれば、最終節となる6月4日、9日の2試合を有意義に使うことができます。ここはホームでの連戦で、時期的にも東京五輪が迫っています。こうした日程を考えると、なんとしても3月の2試合で最終予選進出を決めたいところです。

 今年はU-20、U-17のW杯も開催されました。日本はどちらも出場し、どちらも決勝トーナメント1回戦で敗れています。つまり、ロシアW杯の日本代表と同じ結果でした。若い選手たちにはこうした経験を糧に、しっかりとステップアップしてほしいです。また、日本サッカー界全体がこの現実を肝に銘じて、各カテゴリーの強化に励んでいかなければならないと感じています。

名古屋&浦和は変革の時期 とくに浦和は過渡期へ突入

名古屋&浦和は変革の時期 とくに浦和は過渡期へ突入

サポーターに支えられる浦和だが、世代交代など変革すべきポイントが多い photo/Getty Images

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 2019年のJ1に関しては、またFC東京が勝ち切れなかったという印象です。15年ぶりに優勝した横浜FMの攻撃的なサッカーが目立ったのはたしかですが、一方でFC東京は昨シーズンに続いて終盤戦になって勝点を伸ばせず、優勝を逃す結果となりました。

 苦戦が予想された敵地8連戦の最後に3連勝を飾ってホームに戻ってきましたが、気合が入り過ぎたのか味スタでの湘南、浦和との連戦にいずれも引分けて状況を苦しくしました。2試合ともにチャンスはありましたが、生かすことができませんでした。ディエゴ・オリベイラ、永井謙佑の2トップは強烈でしたが、その他の攻撃のカタチは……と考えたときに来シーズンに向けた補強ポイントが出てくると思います。

 J1昇格1年目だった大分は、今シーズンの優秀監督賞に輝いた片野坂知宏監督のもと対戦相手に応じて柔軟な判断で臨むスタイルを貫き、9位でシーズンを終えました。途中、スカウティングされて苦しむ時期もありましたが、信念を曲げずに戦うことで素晴らしい成績を収めました。ただ、来シーズンは各クラブが大分のサッカーをより研究して臨むのは間違いなく、さらに難しい1年になるでしょう。

 浦和、名古屋はどちらも資金力があり、戦力も他クラブに比べれば十分に揃っています。しかし、成績が奮わず両チームともにシーズン途中に監督交代があり、結果として不本意な順位で1年を終えています。来シーズンに巻き返すためにも、クラブの考え方、理念、チームの強化方針をもう一度見つめ直さないといけないかもしれません。

 とくに、浦和に関してはサポーターにおんぶに抱っこの状態であるのに、埼玉スタジアムに空席が目立ちました。また、最終節のG大阪戦後に行われた社長の挨拶でのブーイングに現状への不満が表れていて、これはヤバイと思いました。選手の世代交代も含めて、クラブとしてこれからどういう方向へ進んでいくのか──。いろいろな面で過渡期を迎えていると思います。

 最後に、シーズン終了を受けて今年もすでに数名が引退を発表しています。元日本代表では昨シーズンの中澤祐二、楢崎正剛などに続いて、栗原勇蔵、明神智和、田中マルクス闘莉王、坪井慶介、佐藤勇人などがユニホームを脱いでいます。少し寂しくなりますが、若い選手たちが出てくることを期待します。

「気持ちを前面に押し出す選手が少ない」

 闘莉王は引退会見の場でこうコメントしたそうです。私も同じ気持ちで、淡々とプレイする選手が多く、気持ちを表に出さないため観戦者に伝わってこない部分があります。ビーチサッカー日本代表ではラモス瑠偉監督が“大和魂”を植え付け、W杯で史上最高位に並ぶ4位となりました。

 気持ちを前面に押し出し、熱く、必死にプレイする。私はそういう選手たちを見てきたし、戦ってもきました。時代に関係なく、選手たちは「勝ちたい」という感情をもっと表に出していいと思います。素直に気持ちが伝わってくると、やはり意識を持っていかれます。そうした選手に、もっとたくさん出てきてほしいです。

取材・構成/飯塚 健司

※theWORLD(ザ・ワールド)240号、2019年12月15日発売の記事より転載

名良橋晃:サッカー解説者、サッカー指導者。元日本代表。国際Aマッチ38試合出場。J1通算310試合出場23得点。現在はS.C.相模原ジュニアユース総監督を務める。

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