いわば挑戦者の立場であるドルトムント—ハンス・ヨアヒム・ヴァツケCEOは「勝機は五分五分」と見なしているが—はPSGとは対照的に、2019年をあまり芳しくない形で締め括った。11月下旬のシステム変更([4-2-3-1]から[3-4-3]へ)を機に、公式戦4連勝を飾ったものの、ウインターブレイク前のブンデスリーガ2試合で1分1敗と白星から見放された。状況次第で5バックにも変化する3バックの採用により、安定感が芽生えたかと思われた守備が再び強度を失い、そ れぞれRBライプツィヒに3失点、ホッフェンハイムに2失点。とてもじゃないが、PSG自慢の攻撃陣を止められる状態にない。
メリフ・デミラルの獲得に向け、ユヴェントスに出した4000万ユーロ(約48億3600万円)のオファーはすでに断られたと報じられるが、今冬の移籍マーケットで一線級の守備者を手に入れたいのは確かだ。だが個の力が云々というより、カウンター対応の拙さや背後のスペースを突かれる組織的な欠陥こそが、ドルトムントの大きな問題。かつての指揮官であるトゥヘルはそうした弱点を見逃してくれないだろう。ドルトムントのルシアン・ファブレ監督も、ある程度の失点は覚悟しているかもしれない。
前評判で下回るドルトムントが番狂わせを起こすには、自分たちのストロングポイントをフル活用するほかないだろう。それは高速カウンターとコンビネーションによるハーフスペースの崩しだ。俊足のマルコ・ロイスやジェイドン・サンチョ、アクラフ・ハキミのスプリント力を活かす高速カウンターは、あらゆる相手を苦しめる威力を秘める。また、右サイドでボールを持つハキミが、ペナルティエリアの手前にいるロイスかサンチョとのワンツーでハーフスペースに侵入する仕掛けも打開力が抜群。グループステージ4節のインテル戦で逆転勝利したように、特にホームで
は先制されても試合をひっくり返す攻撃力を持っている。
その攻撃への期待がこれまで以上に膨らんでいるのは、今冬の移籍市場で引く手あまただったノルウェー代表の新星、アーリング・ハーランドを獲得したから。レッドブル・ザルツブルクに所属した今シーズン前半に、公式戦22試合28得点と目覚ましい結果を残した19歳は、ドルトムントの前線に決定的に欠けていた「高さ」をもたらす大型ストライカーだ。CLのグループステージでリヴァプールから1ゴール、ナポリから計3ゴールを挙げているように、いかなる相手にも怯まずに挑むパーソナリティと勝負強さを持っている。PSGとの大一番までに、このレフティーとロイスやサンチョの連係が深まっているようなら面白い。
余談だが、ドルトムントとPSGは過去に2回対戦している。2010-11シーズンのヨーロッパリーグ・グループステージで実現。2試合ともにドローに終わっている。当時を知っているのはドルトムントのフンメルス、マリオ・ゲッツェ、ウカシュ・ピシュチェク、マルセル・シュメルツァーの4人だけで、PSGには1人もいない。
現時点であえてスコアを予想するなら、1stレグは1-1もしくは2-2のドロー。今シーズンはCLを含め、ホームで一度も負けていないドルトムントが意地を見せるはずだ。だがリターンマッチは、地力に勝るPSGが複数得点での完封勝利を収めるのではないか。もちろん、これから負傷離脱者や退団者が発生する可能性があり、それによってはまったく異なる展望になるだろう。特にドルトムントが規律違反を繰り返しているサンチョに見切りをつけるようなら、PSGにとっての不安は一つなくなることになる。
文/遠藤 孝輔
※theWORLD241号、1月15日発売の記事より転載
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