[特集/史上最高のCLラウンド16 05]バイエルンは経験でチェルシーに優る

前半戦の出来を見ると苦戦必至 エースのコンディションも気がかり

稀代のゴールハンター、レヴァンドフスキのコンディションはこの一戦を大きく左右する photo/Getty Images

 ブンデスリーガ再開に向け、バイエルン・ミュンヘンは1月4日からカタールのドーハで合宿中だ。しかし、主力4人の姿が見えない。負傷を抱えるロベルト・レヴァンドフスキ、キングスレイ・コマン、ハビ・マルティネス、ニクラス・ズーレはミュンヘンに留まり、クラブのパフォーマンスセンターでリハビリに励むことになった。

 昨年12月21日、レヴァンドフスキは鼠蹊部にメスを入れている。チェルシーとのチャンピオンズリーグ・ラウンド16(ファーストレグ/2月26日、セカンドレグ/3月18日)に、完調で戻れるとは誰も約束できない。バイエルンのメディカルチーム、医療施設が世界最高の水準にあるとはいえ、選手が復帰を焦るあまり、リハビリメニューで余計な負荷をかけるケースは頻繁にある。コン
ディション調整に励むレヴァンドフスキを、ハンス=ヴィルヘルム・ミュラー=ヴォールファルト医師が細部にわたってチェックしているというが、稀代のアタッカーはチェルシー戦に間に合うのだろうか。

 また、10月19日のアウクスブルク戦で左膝の靭帯を損傷したズーレも気になるところだ。すでにリハビリの基礎トレーニングを開始しているものの、故障を再発しては元も子もない。靭帯を痛めた場合、復調までは最低でも2ヶ月はかかる。チェルシーとのファーストレグに出場できるかどうか、極めて微妙だ。

 レヴァンドフスキが使えなかった場合は、セルジュ・ニャブリに白羽の矢が向けられる。合宿中にアキレス腱を痛め、長期離脱とのネガティブな情報が伝わってきたズーレ。彼が起用できないと、センターバックの選択肢はJ・マルティネス、もしくはジェローム・ボアテンクか。スピード豊かなチェルシーの攻撃に耐えられるとは思えない。

 いや、レヴァンドフスキとズーレのコンディションが整ったとしても、バイエルンは苦戦必至だ。ひとつのサイクルが終わっていることは、前半戦終了時点の3位という事実が証明している。GKマヌエル・ノイアーは下降線をたどり、MFトーマス・ミュラーは環境を変える時期がやって来た。前半戦で周囲の期待に応えたのは、開幕から11試合連続を含む16ゴールを記録したレヴァンドフスキ、アンカーに定着したヨシュア・キミッヒのふたりだけだ。ハンジ・フリック監督もチームを掌握できず、ハイプレスを仕掛けられるとかわす術を持たない。

名物・過密日程明けのチェルシーに数々の強豪が立ちはだかる

チェルシーにとっては96年以来のイングランド人監督となったランパード。選手としての経験は豊富だが監督としてはまだ若手だ photo/Getty Images

 ただ、バイエルンは経験値が非常に高い。ノイアー、ミュラー、レヴァンドフスキ、ダビド・アラバなど、チャンピオンズリーグの〈痛み〉を知る選手を何人も擁しているが、この感覚をチェルシーで体験しているのはウィリアンとセサル・アスピリクエタだけだ。売り出し中のタミー・エイブラハム、メイソン・マウント、フィカヨ・トモリは、今シーズンがチャンピオンズリーグ・デビューである。

 また、昨年11月24日のマンチェスター・シティ戦に敗れた後、プレミアリーグでは3勝1分4敗。ウェストハム、サウサンプトン、ボーンマス、エヴァートンと、苦戦に喘ぐクラブに足をすくわれ続けている。一時の勢いかすっかり失われた。やはり、経験不足によるものだろうか。しかし、
アシスタントコーチのジョン・モリスは手厳しかった。

「経験がどうのこうのの問題ではない。すべきことをしていないから、ミスが雪だるま式に増えているから、負けたり引き分けたりしているだけだ」。

 まだ若いから、は言い訳にもならない。チェルシーでプレイする以上、高いレベルが求められる。要するに自分に打ち勝たなくては、相手がバイエルンだろうが名もないクラブだろうが、「恥をかくのはおまえたちなんだぞ」とモリスはいいたいのだろう。彼の指摘を借りるまでもなく、近ごろのチェルシーは攻守ともチグハグしている。とくにカラム・ハドソン・オドイは、1対1で勝てなくなってきた。また、クリスティアン・プリシッチも好不調の波が激しく、ウィリアンとアスピリクエタに次ぐ経験値を持つペドロは、フランク・ランパード監督の構想から完全に外れている。

 さらに2月の日程も厄介だ。

●1日:レスター戦(プレミアリーグ)
●18日:マンチェスター・ユナイテッド戦(プレミアリーグ)
●22日:トッテナム戦(プレミアリーグ)

 25日のバイエルン戦を迎えるまでの3連戦は強敵ばかりだ。来シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を巡る〈トップ4チャレンジ〉が続く。3連勝で波に乗る可能性があれば、1つも勝てずに2月を終えるリスクも十分すぎるほど漂っている。しかもバイエルンとのセカンドレグが3月18日に開催予定で、3日後のプレミアリーグはマンチェスター・シティ戦だ。若いチェルシーに本当の試練が訪れる。一方、バイエルンはチェルシー戦前後の対戦相手がケルン、パーダーボルン、ホッフェンハイム……いやいや、プレミアリーグとブンデスリーガでは競争力が違うのだから、もはや比較のしようがない。

体力的にもバイエルンにアドバンテージがある。プレミアリーグは休みがない。ブンデスリーガは年末年始に3週間のブレイクが設けられている。シティのジョゼップ・グアルディオラ監督、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督などが口を酸っぱくして「選手第一の日程調整」を訴えても、プレミアリーグは聞く耳を持たない。

 両クラブは04-05シーズンのチャンピオンズリーグ準々決勝で対戦し1勝1敗。2試合合計6-5でチェルシーがベスト4に進出している。11-12シーズンは決勝で激突。PK戦4-3でウェストロンドンの強豪がヨーロッパを制した。13-14シーズンはスーパーカップで相まみえ、またしてもPK戦。今度はバイエルンが5-4でリベンジしている。過去4戦、決着はついていない。当然、お互いに意識しているだろう。

 チェルシーでは、ランパード監督だけが11-12シーズンと13-14シーズンの対戦を知っている。バイエルンはノイアー、アラバ、J・マルティネス、ボアテンクが激闘を肌で味わっている。サイクルの終焉を迎えたとはいえ、ヨーロッパの舞台では経験値がモノをいう。この勝負、バイエルンがやや有利とみた。ただし、気になる発言があった。

「 油断ならない相手だけれど、抽選結果には満足している」(ミュラー)。

 チェルシーを見下しているようにも受け取れる。心の隙の表れでなければいいのだが……。

文/粕谷 秀樹

※電子マガジンtheWORLD241号、1月15日配信の記事より転載


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