ユーヴェがC・ロナならミランにイブラあり
バレージ(右)はポジショニングがよく、競り合いにも強かった photo/Getty Images
過去、ミランは数々のタイトルを獲得してきたが、チームにはいつも経験豊富な選手がいた。フランコ・バレージ、パオロ・マルディーニ、アレッサンドロ・コスタクルタ、アレッサンドロ・ネスタ、フィリッポ・インザーギ……。彼らは30代後半、あるいは40歳を超えても現役でプレイを続けた。
インテルやユヴェントスも同じように、ハビエル・サネッティ、ジャンルイジ・ブッフォンといった百戦錬磨の選手たちが支えてきた。ブッフォンに関しては42歳になったいまもゴールマウスを守ることがある。他にも、フランチェコ・トッティ、アンドレア・ピルロ、アレッサンドロ・デル・ピエロ。セリエAには長くプレイした名選手が多い。
サッカーを知り尽くした男たちが、アイデアを出し合ってお互いに駆け引きを楽しむ。それがカルチョの世界であり、セリエAが持つ特長のひとつなのかもしれない。
9連覇を目指す現在のユヴェントスにも、30歳を超えた選手が多い。ブッフォンを最高齢に、昨年9月に右ヒザの前十字じん帯を断裂してリハビリ中のジョルジョ・キエッリーニ(35歳)、高水準のクオリティを維持して得点王を争っているクリスティアーノ・ロナウド(35歳)、ゴンサロ・イグアイン(32歳)、レオナルド・ボヌッチ(32歳)、ブレーズ・マテュイディ(32歳)......。最終ラインから前線まで、ズラッとベテランが揃っている。
イブラヒモビッチ加入後、ミランは3連勝した。良い影響が出ている photo/Getty Images
ロナウドは相変わらずの決定力をみせているし、マテュイディは豊富な運動量でまわりの選手をサポートしている。サッカーは単純にスピードや瞬発力で勝負するスポーツではなく、微妙なポジショニングやわずかな動き出し、相手の裏を突く判断力など、さまざまな要素が勝敗を分ける。また、選手の組合せが大事で、ベテランはお互いの特長をわかっていてサポートしあえる。あまり動かないが、得点力がある。そういう選手が前線にいるなら、中盤がサポートすればいい。経験豊富な選手が多いと各自が役割を理解しているため、判断力や動きに迷いがなく、狙いもはっきりしている。ベテランが多いチームには、こうしたメリットがある。
38歳のズラタン・イビラヒモビッチを獲得したミランもわかりやすいターゲットを前線に得たことで、狙いがはっきりした。加入直後の第19節カリアリ戦からイブラヒモビッチとラファエル・レオンの年齢“18歳差2トップ”を採用し、そこからいきなり3連勝した。イブラヒモビッチ自身も第20節ウディネーゼ戦で移籍後初ゴールをマークしており、熟練者らしく求められる役割をきっちりと果たしている。圧倒的な存在感を誇るベテランの加入を受けて、ミランのステファノ・ピオリ監督は第23節インテルとのダービーにイブラヒモビッチを1トップとする[4-4-1-1]で臨んだ。結果は2-4で敗戦だったが、ここにきて新たなチャレンジを試みた一戦で、間違いなくチーム全体に良い影響がもたらされている。
サンプドリアのクアリアレッラは昨季36歳で得点王となった
ドイツやスペインではなかった。インモービレはやはりセリエAが似合う photo/Getty Images
第23節を終えて、セリエAはユヴェントスとインテルが勝点54で並んでいる。勝点1差で3位につけているのがラツィオで、1999-2000シーズン以来の優勝を狙える状況にある。そして、このラツィオも経験を重ねた選手たちが引っ張っている。
就任5年目となるシモーネ・インザーギ監督のもと、今シーズンは選手、システムがほぼ固定され、安定した戦いを続けている。基本布陣は[3-5-2]で、最終ラインのステファン・ラドゥ(33歳)、フランチェスコ・アチェルビ(32歳)。中盤のルーカス・レイヴァ(33歳)とキャプテンを務めるセナド・ルリッチ(34歳)。軸となっているのは30歳を超える選手たちで、前線にもフェリペ・カイセド(31歳)とアラサーとなったチーロ・インモービレ(29歳)がいる。
得点パターンのひとつが左サイドからルリッチが高精度のクロスを入れ、インモービレやカイセドがフィニッシュするもので、やはりベテランたちがチームのなかで自らの役割をまっとうしている。マルコ・パローロ(35歳)が途中から出場し、中盤を引き締めてチームを勝利に導く。こうした流れもできており、だからこそ安定感があるのだろう。
駆け引きが得意な吉田。この移籍は良い判断だったかもしれない photo/Getty Images
ただ、左足首を痛めていたルリッチが手術に踏み切っており、これから約6週間の離脱となる。この期間をいかに乗り切るかが、今シーズンのラツィオにとって大きなヤマとなる。サンプドリアではファビオ・クアリアレッラ(37歳)がキャプテンを務めるとともに、チーム最多得点をマークして懸命にチームを鼓舞している。最終的に26得点をあげて得点王に輝いた昨シーズンほどの爆発力はないが、ゴールへの嗅覚は決して衰えていない。チームは16位と下位での戦いを強いられているが、第22節ナポリ戦、第23節トリノ戦で連続得点し、シーズン終盤戦を良い状態で迎えようとしている。クアリアレッラのゴールが増えるとともに、サンプドリアの勝点も増えていくはずだ。
このサンプドリアに加入したのが吉田麻也(31歳)で、まだ公式戦出場はないが、経験豊富な選手が多いセリエAのなかでどんな駆け引きをみせるか注目される。ポジショニング、カバーリングといったオフ・ザ・ボールの動きに定評がある吉田にとって、ベテランとの対決は非常にやり甲斐があるはず。C・ロナウドと対戦するユヴェントス戦(第36節)、イビラヒモビッチを擁するミラン戦(第37節)が終盤戦に控えている。
こうしたビッグマッチに出場するためにも、まずはクウラディオ・ラニエリ監督の信頼を勝ち取り、新天地でデビューを飾りたい。そして、これまで積み重ねてきた経験をもとに自らの力を発揮していけば、セリエAを舞台にした新たな道がひらけるはずである。
文/飯塚 健司
※theWORLD(ザ・ワールド)242号、2019年2月15日発売の記事より転載