[西岡明彦]イギリスの大きな決断、プレミアリーグはどう変わる?

プレミア最強ガイド 063

現在プレミアで活躍する代表的なホームグロウンの選手といえばエイブラハムだろう photo/Getty Images 

1月24日、英国とEU(欧州連合)双方の首脳はEU離脱協定合意の署名を行いました。長年に渡る協議、3度の延期を経て、ボリス・ジョンソン首相は英国の歴史を変える大きな舵取りをする決断を下しました。経済政策や移民政策において賛否両論があるなか、2016年6月に行われた国民投票において51.9%の離脱支持を得てから3年半。EU離脱がプレミアリーグに与える影響を考えてみました。

現在、プレミアリーグとFA(イングランドサッカー協会)は、EU離脱以降、ホームグロウン選手以外の契約登録数についての協議を続けています。地元出身選手として位置付けられるホームグロウン(以下HG)選手とは……。Jリーグの規定で紹介すると、「12歳から21歳までの間の3シーズンに自クラブに登録されていた選手で、国籍やプロ・アマで区別はしない」というものです。Jリーグは段階的にHG選手登録を増やすよう規定していて、2022年にはJ1で4人以上の登録が義務付けられています。規定に違反すればプロA契約の登録数25選手の枠を減らされるペナルティが課されます。

一方、イングランドでは25選手の登録数のうち17名までのHG以外の選手の登録が認められていますが、この数を13名に減らす意向が明らかになりました。HG選手の登録枠を増やすことで選手の出場機会や育成に効果があると考えるFAに対し、プレミアリーグは反対しています。もちろん魅力的なクラブやリーグ運営に外国籍の選手は不可欠と考えているからです。

プレミアリーグのCEOのリチャード・マスターズ氏は、「EU離脱が完了した以降の新しい契約システム、“ダイナミック”システムを様々な観点から模索している」と、2021年のEU完全離脱以降の契約形態を検討していることを明かしました。国民投票が実施された2016年、BBC(英国放送協会)はEU圏外の選手の登録基準を精査したところ、プレミアリーグ、2部のチャンピオンシップ、スコティッシュ・プレミアリーグの3リーグにおいて、実に332選手が登録基準を満たしておらず労働許可証は発給されないだろうと報じました。

たとえば2015-16シーズンにレスターの優勝に貢献したエンゴロ・カンテ(フランス代表)とリヤド・マフレズ(アルジェリア代表)はそれぞれフランスのカーンとル・アーブルから移籍しましたが、当時は代表選手として確固たる地位を確立していませんでした。その場合は、各国代表での出場時間率に照らし合わせて判断されます。FIFAランク1位〜10位の代表チームでも30%を超える出場時間が必要とされ、EU圏内の優遇がなくなると、2人はプレミアリーグに移籍できないということになるのです。世界ランク20位代の日本の選手たちが代表出場率60%の壁に悩まされているのと同様の扱いを受けることになるのです。

HGに関しても、これまでEU圏内であれば16〜18歳の国際移籍は可能とされてきましたが、離脱が完了すると不可能となります。2003年のU17世界選手権で大会MVPに輝いたセスク・ファブレガスは、16歳でバルセロナからアーセナルに移籍しました。セスクのような金の卵を発掘し、獲得することもさらに難しくなるのです。選手登録基準の話し合いが続いているプレミアリーグ、今後の栄枯盛衰を決める重要な決断になりそうです。

※電子マガジンtheWORLD242号、2月15日配信の記事より転載


文/西岡 明彦

1970年名古屋市生まれ。プレミアリーグ、セリエA、UEFAチャンピオンズリーグ、Jリーグなど国内外のフットボール中継で実況を務めるほか、情報番組などのMCとしても活躍中。これまでの経験やプレミアリーグの知識を盛り込んだ『プレミア最強ガイド』(講談社)を発表した。



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