「ひとつ得点が生まれないと、なかなか流れが生まれないタイプなので。前の(大阪)ダービーの時にFWアデミウソンに『蹴っていいよ』という流れだったので、今回はアデミウソンに『蹴らせて』といったら、『いいよ』といわれました」
G大阪、そしてFW宇佐美にとっても待望久しいゴールだった。大分相手にゲームを支配しながら、33分にカウンターで失点していただけに、流れを再度手繰り寄せる大きなPKだった。39分、G大阪は1-1とゲームを振り出しに戻した。ここからはG大阪の一方的な展開となった。後半開始早々の48分には宇佐美が右サイドを突破し、折り返しを受けたアデミウソンがドリブルで持ち込み、逆足の左で見事にゴールに沈めた。このゴールが決勝点となった。
立ち上がり4-4-2の布陣を引いたG大阪、3-6-1で中盤に厚みを持たせた大分。G大阪とすれば5バック気味に守る大分に、どうやってクサビを打ち込み、ギャップを生じさせるかになる。実際前節からの課題を宮本監督は「怖がってボールを前につけなかったり、相手の間につけられるようなシーンでも間につけなかったり、少し下げるシーンが多かった。もっと相手のエリアに入っていったり、それぞれの持っている良さがあまり出ないようなシチュエーションが多かった」と分析した。宇佐美にもついつい中盤に下りてゲームメイクをするなど、あれもこれもやろうとし過ぎることで結果的に点の取れる場所にいなかったりという場面が見られたという。
その指示が功を奏したのか、この試合のG大阪の距離感は非常に素晴らしかった。狭い局面で大分の守備が足りている状況でも、ショートパスをしっかり繋いで打開、逆サイドに展開するというG大阪が望む形が何度となく生まれた。冒頭の宇佐美のPKも、エリア内でのG大阪の細かい攻めに大分DFが付いていけず、結果的にMF小野瀬の足を払う形になったものだ。やはりサッカーにおいて一番重要なのは選手が自分のポジションと役割を守ることで、それがハーモニーを生むことになる。そこに個性をプラスすることで、チームも個人もパフォーマンスは相乗効果を生むことになる。この試合のG大阪のプレイはまさにそれを体現するものだった。
更にいえばやりたいことがしっかりできていたG大阪が大分を大きく上回っていたのはベンチの陣容。途中出場でMF倉田やFWパトリックが入ってくるなど、両者の選手層の違いは歴然。特に交代カードが5枚というルールは、戦力に優るチームにより有利に働くことになる。
ただ戦力の差を羨んでみても仕方がない。大分には大分の戦い方がある。それが前半に見せた先制の場面である。大分の場合チームとしてすべきことにブレがなく、それが最大の強みであることはいうまでもない。その点でこの試合では苦しんだものの、最後まで実行しようというチームスピリットを感じることができた。こういうチームは強い。確かにスコア以上の差が両者にあったことも事実だが、それをギリギリまで狭めることができることを大分の戦いは伝えてくれる。上手くもなければ、華麗でもない。表現するなら『愚直』。それが強みだ。J1をかき回してくれる『曲者(くせもの)』は今季も健在である。
最後にこの試合で観客を迎えることのできたパナソニックスタジアムだが、拍手が屋根に反響し素晴らしい雰囲気を作っていた。仮にそれがバックパスであったとしても、プレイとして効果的であるなら拍手のシャワーが選手に降り注いだ。Jリーグができて四半世紀以上が過ぎたが、日本のサッカーファンの目は随分肥えたんだと実感することができた。筆者は個人的にチャントよりもこういう応援のほうが心地よく感じられ、初めてサッカーを見る人にも良いプレイの価値基準を知るにはいい機会だと思えた。勿論異論はあるだろうし、あくまでも私的な感想と理解いただきたい。
第2波による感染拡大が懸念される中、スタジアムの中だけはそれを忘れさせる清涼感を感じられた試合だった。ただスタジアムから最寄りの万博公園駅への道すがら、黄色く染まった太陽の塔を見て、現実に引き戻された気がした。
取材・文/吉村 憲文
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