[欧州サムライ伝説 NEXT]久保建英が伸びしろだらけの理由とは

変わらないのに変化している久保

変わらないのに変化している久保

7月のアトレティコ戦では圧巻のパフォーマンスを披露し、欧州屈指の堅守を翻弄した久保 photo/Getty Images

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 久保建英は約束された選手といっていい。

 かつての天才少年も、成人してみるとそうでもなかったという例はサッカー界にはいくらでもある。それは才能がすべてではないということを意味しているわけだが、一方で大成する選手の多くは子供のころからプレイがほとんど変わらない。

 ディエゴ・マラドーナの少年時代のチーム、「セボジータス」の監督だったフランシス・コルネーホは、初めて見たときからマラドーナが何も変わらなかったと証言している。「雨上がりのサーベドラ公園で見たディエゴは、すでにのちのマラドーナだった」
 リオネル・メッシの幼いころのプレイ映像が残っているが、基本的にやっていることは現在とほとんど変わらない。1人抜き、2人外してシュート、ゴール……。

 ただ、こうした天才少年は彼らだけではない。マラドーナやメッシの陰には、マラドーナやメッシになれなかった天才がたくさんいたに違いないのだ。

12歳の久保。バルセロナのカンテラで育ち、その才能を遺憾なく発揮していた photo/Getty Images

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 たいてい、子供のころのプレイは年齢を重ねるに従って通用しなくなっていく。プロになった選手でも、子供のころはメッシのようだったが現在は全く違うタイプの選手になっているというケースのほうが多い。

 久保のプレイは15歳のときと変わらない。それは彼の才能の大きさと質の良さを表している。一方で、久保は急速な変化も続けている。昨季、FC東京でレギュラーポジションを獲得したときには、それ以前と比べて数段タフな選手になっていた。レアル・マドリードに移籍してマジョルカに貸し出された後も成長しているし、新型コロナウイルスの感染拡大による中断を終えてリーガ・エスパニョーラが再開されると、また見違えるような活躍をしている。出世の階段を2段飛ばしに駆け上がっていくようだ。

 男子三日会わざれば刮目して待つべし。久保の成長はそれぐらい早い。どんどん変化している。しかし、変わっていないところは何も変わらない。この、変わらないのに変化していることこそ、今後の成長を約束してくれている。

特別な選手が持つ、時間を操作できる才能

特別な選手が持つ、時間を操作できる才能

これまでメッシと比較されることが多かった久保。今季はその本人と直接マッチアップする機会が photo/Getty Images

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 変わらないのはプレイスタイルだ。才能の部分である。

 久保の最大の特長は「時間を操作できる才能」だと思う。外見上でいえば、ボールタッチの間隔が短い。時間の操作は特別な選手が持つ能力だ。

 例えば、普通の選手が四分音符のリズムでプレイしているとすると、メッシは半分の八分音符に分解できる。さらに十六分音符までいける。見た目は四分音符でも、いざとなれば半分のそのまた半分まで小さく刻める。メッシにとっては、相手の動きは「遅く」見えているかもしれない。相手が遅く見えるとしたら、相手にとってメッシは速すぎる。実際、メッシのプレイはとても速い。単純に走るスピードも速いが、シュートできる隙間を見つける、足の間にボールを通して抜く、パスをするなど目が速い。

 メッシとは逆に、現役時代のジネディーヌ・ジダンのようにリズムを引き延ばすことで相手を壊せる選手もいる。いずれにしてもこうした選手は状況に合わせてプレイを速くしたり遅らせたりできる。久保もこの感覚を持っている。

 ファーストタッチと次のタッチの間隔が非常に短く、そのぶん速くプレイできるし、その中での変更もできる。速くやれるということは遅くもできるわけで、久保は狭いスペースでも捕まりそうで捕まらない。タイミングを操作できるからだ。さらに方向も自在である。タイミングを操作できるので、相手が塞いでいるはずの場所にボールを通過させることができる。これは塞いでいないほうを後方の選手が守るという守備の原則を破壊するもので、守備側にとって非常に厄介だ。

 ただ、久保はよく引き合いに出されるメッシと同じではない。似ているところは確かにあるが、久保にメッシの爆発的なスピードはない。左利きで時間を操作できるという点ではむしろダビド・シルバに似ていると以前から思っていた。

進化と順応で才能を最大限に発揮

進化と順応で才能を最大限に発揮

守備面も大きく成長し、レアル戦ではヴィニシウスと激しくやり合う場面も photo/Getty Images

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 変わっているのは、変わっていない部分以外だ。

 FC東京でレギュラーになったときには守備力が格段に進歩していた。マジョルカでも守備力をリーガ・エスパニョーラで戦えるレベルに上げた。パスを呼び込む動き、ポジショニングも良くなった。運動量やインテンシティも相当進化している。プレイ環境がレベルアップすればそのぶんだけ進化して順応し、子供のころから変わらない才能を発揮する。これができている以上、もう伸びしろしかない。だから、大きなケガなどがなければ将来は約束されているといっていい。

 久保が成長の作法を身につけたのは、おそらくバルセロナの育成チームにいたときではないかと推測している。世界中から才能が集まっている場所。そこで才能がすべてではないことを実感できたはずだからだ。成長するために何をすべきで、何をすべきでないかを知ったのではないか。そういう意味でとても大人びていて、自分をコントロールできる選手だと思う。

 才能は、その選手がどこまで行けるかの「可能性」を示しているにすぎない。現実にどのレベルでプレイできるかは才能以外にかかっている。

 テクニックが抜群でも、1人の選手がボールを持ってプレイできるのは90分間の中で5分もない。残り約85分間はボールなしで走り、味方を助けるポジションをとり、相手をマークしたり、タックルしたりしている。その才能以外のプレイが、少なくともプレイするリーグの平均水準にないとプレイするのは難しくなる。5分間のメリットより85分間のデメリットが必ず上回るからだ。

 一方で、スペシャルな才能がなければ高いレベルでは何も貢献ができない。空中戦が武器のFWが、DFに競り負け続けるのなら存在価値がなくなってしまう。

 久保の持っている才能には希少価値があり、ワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグの決勝でプレイしても不思議ではないスケール感もある。早熟型ではないので、ようやく技術と才能に肉体面がついてきているのが現状だろう。さらに経験を積み、心技体のバランスが整ったときには、さらにスーパーな久保が見られるはずだ。

文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)247号、7月15日配信の記事より転載

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